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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第九十話 不確定要素

「やあ、久しぶりです」


 ソジュンは笑顔で挨拶すると、リアシートに乗り込んできた。それにシンユーも続く。オスカルは助手席から振り返るとこう言った。


「久しぶりだな、ソジュン。それとシンユー。会えて嬉しいよ」


「こちらこそ嬉しく思います。スパイダーの皆さんは元気ですか?」


 オスカルとソジュンは握手を交わした。オスカルは誠実なソジュンを気に入っている。ニーナとシンユーはルームミラー越しに目線だけで礼をした。護衛は握手を交わさない。シンユーが口を開いた。不機嫌そうな様子である。


「おい、オスカル! 何でこんな不気味な場所を選ぶんだよ。幽霊出たらお前の責任だぞ! ソジュン! 早く終わらせて出ようぜ! 薄気味悪いぞ、ここは!」


 シンユーは辺りを見渡しながら顔を引きつらせている。ニーナはシンユーの話を聞いて安心した。自分の感覚は正常だと証明されたのだ。ソジュンは笑顔で答える。


「そうかい? 誰もいない静寂な場所……僕は嫌いじゃないよ」


「お前……人が良いにも程があるぞ? こんな奴の趣味に合わせんな! まあ、いい。さっさと済ませようぜ」


 オスカルとシンユーはDMDと金を交換する。オスカルは金が入ったバッグをニーナに渡す。ニーナは金を数え始めた。シンユーはソジュンへDMDを渡した。


「悪いな、ソジュン。チェック頼むわ。俺はダークマナに耐性が無いからな」


「オーケー」


 ソジュンは嫌な顔一つせず引き受ける。DMDの売人をやっているオスカルとソジュンはダークマナへの耐性がある。そのせいか二人は気が合った。ソジュンはDMDの目利きをしながらオスカルへ語りかけた。


「オスカルさん。こんな状況で対面取引していただけるなんて……感謝しかありません」


 オスカルは助手席から後部座席に視線を向けた。缶コーヒーを飲みながら答える。


「で? どうなんだよ。龍王には勝てそうか? 龍尾(おまえら)


 異人反社組織の龍王ドラゴンキングは超過激派で質が悪い。敵対関係にある龍尾ドラゴンテイルと取引をすることは、龍王を敵に回すことを意味する。オスカルは重々承知であった。ソジュンはにこりと笑う。


「さて、どうでしょうね。互いの(おさ)の実力は拮抗しているでしょうし。勝敗を分けるのは……不確定要素かもしれませんね」


「不確定要素?」


「ええ。龍尾と龍王以外の要素……。第三の何か……。プログラムされていないバグのような存在」


 シンユーが口を挟んだ。


「何だよ、そりゃ? 心当たりでもあんのか?」


「はは。だから不確定要素だって言ったろ? 僕にも分からないさ」


 オスカルが口を開いた。


「それにしても龍尾の頭領と龍王が拮抗してるってのが信じられんな。フェイロンに勝てるのか? あの火龍の娘が」


 オスカルの発言にソジュンが驚く。


「火龍の……娘? あれ? 龍尾の頭領ってハオランさんみたいにゴツい男って噂ですよ。オスカルさん」


「はぁ? 何言ってんだ? ソジュン。【火龍クアトリクエ】のリーシャって言えば女の子だろうが。俺、遠目だけど見たことあるぜ。あの外見で化け物って噂だけどな」


 ソジュンはシンユーへ顔を向ける。シンユーはゆっくりと目を逸らした。


「……シンユー。今の話は本当かい? 頭領って女の子なの?」


「昼間に言っただろう。……意外とゴツくないって」


「いやいや! 頭領がハオランさんみたいにゴツい男だと思っているメンバーは多いよ! ちょっとショックだな、僕は……」


「お前みたいに考える奴が多いから、頭領の正体は秘密にされているんだろうな」


 ソジュンとシンユーのやり取りを見ていたオスカルが微かに笑った。


「ふ……。お前等を見ていると龍王に勝つ気がしてくるな。まあ、スパイダーは龍尾につくからよ。助けが必要なら言ってこい。なあ? ニーナ」


 ニーナは金が入ったバッグのファスナーを閉じるとこう言った。


「私はオスカルさんの指示に従うだけです。……さて、取引は終わりました」


 ソジュンもアタッシュケースを閉じるとこう答えた。


「こっちもオーケーです。今日はありがとうございました。スパイダーさん。今後もよろしくお願いします」


 オスカルはソジュンと握手をすると笑顔で言った。


「一緒に外へ出るのは目立つな。お前等が先に出ろよ。じゃあな」


 ソジュンとシンユーは車から降りると、自分たちの車に乗り込み、地下駐車場を出て行った。辺りは再び静寂に包まれる。


「邪魔は入らなかったな。拍子抜けだ」


 オスカルは肩をすくめて言った。ニーナはルームライトを消すとこう返した。


「廃病院の地下ですからね。誰も来ませんよ。取引には都合の良い場所でした」


 ニーナは暗闇に怯えながらハンドルを握っている。


「十分待ったら俺達もここから出よう。それまでは我慢……」


――その時である。パァンと銃声が響き、スキール音と共に車が衝突する音が聞こえた。


「オスカルさん! 今の音はソジュンさん達では? もしかして……」


 運転席のニーナが取り乱している。外で敵勢力に襲撃された可能性があった。


「多分やられたな。ここもヤバイかもしれねぇ。ただ、すぐに外へ出るのは得策じゃない。狙撃の的だぜ。金を隠して病院に上がるぞ。外の様子を知りたい」


 オスカルはそう言うと車から降りた。金は車内ではなく、駐車場に沢山ある放置車両の下に隠す。


「うう……駐車場ならまだしも……。病院に入るのですかぁ」


 そう言うニーナの顔は真っ青である。しかし、ソジュンの車が襲撃された可能性がある以上、すぐに地上へ上がるのははばかられた。オスカルとニーナは非常階段を使い、廃病院へ向かった。

【参照】

シンユー→第二十話 電拳と硬拳

オスカル→第二十三話 スパイダー

ソジュン→第三十六話 DMDの売人

火龍のリーシャ→第五十八話 龍の器

龍王フェイロン→第七十九話 龍王

ニーナ→第八十話 オスカルとニーナ

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