表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
86/287

第八十六話 刑事の来訪

 特殊能力者協会の敷地内には社員寮が建っている。協会員は勿論、施設で勤務するスタッフも借りることが可能だ。地上四十二階、地下五階の構造で、高さ百六十メートルを誇る。


 一階のグランドロビーにはコンシェルジュが配置されている。協会(トクノー)コンシェルジュは社員寮だけでなく、協会本部や異能訓練校、その他商業施設にも派遣される。


 求人の募集要項に「容姿に気を遣っている方」と書かれており、明記はしていないものの、明らかに「顔採用」が多く、実際に美人が多いことでも有名である。普通人による異人差別を無くすための一計だが、協会の受付で勤務することが、意識高い系の女性にとって、ある種の憧れになりつつあり、効果は出ていると言えた。


 社員寮のコンシェルジュとして勤務している秋元飛鳥あきもとあすかは茶髪のポニーテールでスポーティーな雰囲気だ。二十代半ばで、そろそろ結婚を意識する年頃である。自身が異人であり、結婚相手にも異人を求めていた。いつも受付の中から獲物を物色している。


(結婚するならギフターがいいわ~。将来安泰だもの!)


 現在、朝の八時である。秋元は出勤していく居住者に笑顔で挨拶をしている。彼女の「勝負」は既に始まっているのだ。


「おはようございます! 行ってらっしゃいませ!」


 彼女は気になる協会員にアプローチし一発逆転を狙っているのである。秋元のように考えているスタッフは他にも多数在籍している。


「うわー、秋元先輩。今朝も気合い入っていますねぇ」


 隣に立っている井上さくらがその様子を見ながら言った。井上は秋元より年齢が二つ下で、まだ婚期には精神的余裕があった。結婚よりは遊びたい年頃である。


「さくらちゃんも今から相手を探しておかないと私みたいになるわよ~」


「あたしはまだまだ遊びたいんです。異人でも普通人でもカッコよければ誰でもいいです」


「あんたねぇ~、もっと真剣に……。あ! 南くーん! おはようございます!」


 苦言を呈そうとした秋元の視界にエレベーターから降りてくる黒川南が入った。副会長の姉に似ているが、まだ顔立ちは幼い。


「……おはよ。えーと」


「私は秋元です。はい、チョコ食べる? 甘い物好きですよね」


「食べる……ありがと。アキモトさん」


 南はチョコを受け取ると、その場で食べ始めた。井上は小声で秋元に話し掛けた。


(先輩! さすがに南くんは年下過ぎませんか? 焦っているからってショタはマズイです!)


 井上に肘で突っつかれても秋元は笑顔である。


(十歳離れているくらい今時フツー! 彼はサラブレッドだから将来有望よ~。今はまだ『チョコをくれるお姉さん』でいいの。三年後くらいにモノになれば……)


 何やら小声で言い合いをしている受付嬢二人の前で、南はチョコを食べている。すると、突然知らない男から声を掛けられた。


「そこの少年、今から協会へ行くのかい?」


 声の方へ視線を向けると、そこには二人の男が立っていた。一人は恰幅が良い強面である。白髪交じりの角刈りで、年は五十代半ばだろうか。後ろには部下らしい男が立っていた。年は三十代半ばで、背が高くひょろっとしている。


「……行くけど。誰? おじさんたち」


 人見知りの南は完全に引き気味だ。特に強面の方は眼光が鋭い。南は一歩後ろに下がった。見かねた秋元がフォローに入る。


「恐れ入りますが、どちら様でいらっしゃいますか?」


 秋元の問いに強面の男が答える。


「ああ、申し訳ない。おじさん達は警察です。私は鬼沢で、後ろにいるのが田中です」


 二人は警察手帳を出した。埼玉県警の刑事らしい。鬼沢の方は警部補で田中は巡査部長と書いてある。田中と呼ばれた方が口を開いた。


「ごめんね、このおじさん怖い顔だけど優しい人だから安心して。実はある事件について副会長の黒川さんに話を聞きに来たんだ。ここが立派だから本部だと思ったんだけど、寮だったんだね」


 田中は笑顔で周囲を見渡している。鬼沢も南へ話し掛けた。


「いやー、私もこういうマンションに住んでみたいよ。高層階からの眺望はギフターの特権なんだろうなぁ。……さて、少年。おじさん達を黒川女史の所まで連れて行ってくれないか? ここは広すぎて迷っちまう」


 受付の中から井上が口を挟んだ。


「彼は副会長、黒川亜梨沙さんの弟さんです」


「そりゃ丁度良いな。悪いけど頼むよ」


「……」


「む……?」


 南は無言である。鬼沢と田中は笑顔で固まっている。受付の秋元がハラハラした表情でその様子を伺っていた。沈黙が気まずくなってきた時、明るい女性の声が響いた。


「南くーん! おはよ!」


 声の主は朱雀華恋(すざくかれん)であった。お洒落で可愛い子だ。


「……華恋。おはよ」


 華恋は異能訓練校のクラス委員であり、A級ギフターでもある。南と同い年だが、姉のように何かと面倒を見ているのだ。華恋は鬼沢と田中に声を掛けた。


「刑事さんですよね。どうかされましたか?」


 田中は華恋のフォローにほっとしたらしい。警察手帳を見せるとこう言った。


「えっとね! 黒川副会長に会いたいんだ。連れて行ってくれないかな? ジュース奢るからさ」


 田中の必死な態度に華恋は吹き出した。南相手に苦戦したことが容易に想像できたのである。


「あはは! 分かりました。南くん、刑事さんがジュースご馳走してくれるって。何ジュースがいい?」


「うーん。なんでもいいよ。考えるの面倒くさい」


 南は寝癖の頭を掻きながら答えた。鬼沢と田中は南の態度に困惑していたが、華恋の登場で事なきを得た。秋元が田中に話し掛けた。


「田中様。どちらでお待ち合わせですか?」


「えー……と。副会長室に九時ですね」


 華恋がスマホで時間を確認して言う。


「ここから十分は歩きますよ。エレベーターが混んでいたら間に合わないかもしれません。行きましょう」


 華恋を先頭に、南と刑事二人がついて行く。その後ろ姿を秋元と井上が礼をして見送った。


「か、かわいい……。南くん」


 秋元が緩んだ笑顔で呟いている。


「先輩。推したくなる気持ちは分かりますが、それってペット的な感情ではないでしょうか。恋ではありませんねぇ」


 井上が腕を組んで一人納得したような顔をして頷いていた。

【参照】

協会→第二十四話 ブラコンの副会長

朱雀華恋①→第五十六話 異能訓練校

朱雀華恋②→第六十一話 朱雀華恋

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ