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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第八十五話 蛇の民と瑪那人

「マナリンクの本部が龍穴に建っていることは先程お話ししました。龍穴は龍脈の行き着く先です。マナに満ちた豊かな土地です。太古の昔から龍脈は存在し、人々の生活に影響を与えてきました」


 雨夜がシュウの顔を見て話している。


「その昔、代々龍脈を守る一族がいたのです。いえ、今も存在しますね。蛇の民……と呼ばれる一族です。金蛇(かなへび)とも言いますね。聞き覚えがありますか?」


 雨夜の問いにシュウは答えた。


「当たり前だろ。金蛇って言ったら師匠の金蛇警備保障が思い浮かぶな」


 シュウの師匠であるランが運営している警備会社の名前が金蛇である。雨夜はシュウの返答に頷いた。


「そうです。雷火のランさんは蛇の民なのです。……そしてあなたもですよ? 電拳のシュウ」


「お、俺が?」


 シュウは慌てた。蛇の民など聞いたこともない単語である。そして唐突にフィオナの言葉を思い出した。


――あなたは……。自分のことを……どれだけ知っているのかしら――


 向かいに座っているリッカが言う。


「蛇の民……金蛇は金色の髪と金色の瞳で、雷のマナを纏うと言われています。その本家は、今この瞬間も日本のどこかで龍穴を守っているのです。……そこは地球の心臓と言われている場所……大龍穴(だいりゅうけつ)。どこかは言えません」


 雨夜が話を続ける。


「シュウさんが希に見せる蛇のマナは、金蛇が龍脈から引き出したマナが具現化したものです。覚えはありませんか?」


「ないね」


 過去にも雨夜やシャーロットに似たようなことを言われたことがある。しかし、シュウは無自覚であった。


 リッカが語り出した。


「私は瑪那人(まなびと)と呼ばれる一族です。瑪那人はもともと蛇の民でした。龍穴を守るために定住した一族が蛇の民。そして各地のマナの秩序を守るために流浪した一族が瑪那人です」


 赤い瞳の少女は更に続けた。


「マナリンクは瑪那人によって運営されています。マナ国党、水門重工(みなとじゅうこう)と連携し、日本中のマナを管理しているのです」


 雨夜が話を引き継いだ。


「水門が開発した超地熱発電や川成の防水ゲートにも瑪那人が関わっています。全てはマナ・コントロールの賜物です」


 シュウは頭が混乱していた。


「そうか。じゃあリッカさんと俺は親戚みたいなものか?」


 リッカは首を横に振った。


「ルーツは同じですが、長い歴史の中で蛇の民も瑪那人も多くの普通人と交わり、血が薄くなっていきました。(ゆかり)のある土地で純血を守り続けた一族もいれば、隔世遺伝で突如能力が発現した一族もいるでしょう」


 長い歴史とはどれくらいなのだろうか。シュウには想像できなかった。


「……何で俺とリンは捨てられたんだろうな?」


 シュウは先程から気になっていたことを雨夜に聞いた。


 雨夜は答えた。


「それは分かりません。ただ……あなたのお父上は……」


「俺の親父を知っているのか?」


「いえ。確証はありませんが、心当たりはあります。……聞きますか?」


「頼む」


「まあ、今日はこの話をするために呼んだのです。良いでしょう。あなたのお父上はアドルガッサーベールの創始者。【雷神】の異名を持つ男……雷神のライと呼ばれる男です」


「雷神?」


 雨夜は目を伏せて言う。


「雷神のライは……強力な異能を秘めており、とても危険な思想を持っています。協会、アルテミシア騎士団が追い続けているターゲットでもあります」


「おいおい! ろくでもない親父だなぁ。そんなに恨まれてんの?」


 他人事のようなシュウの発言にリッカは一瞬赤い目を丸くしたが、すぐに笑った。


「もう、シュウ様ったら……。面白い人」


 雨夜は苦笑しながら話を続けた。


「雷神のライも蛇の民出身です。一部ではテロリスト扱いされていますね。……ランさんはシュウさんを巻き込まないように、出自について何も話さないのでしょう」


「まあ、俺も聞かなかったからな」


「蛇の民について知る者は多くありません。勿論、シュウさんと雷神を結びつける者もいないでしょう。……しかし、シュウさんは協会の黒川南さんと接触してしまいました。南さんは巫女の血を引く一族なので、蛇のマナをはっきりと視たはずです」


 シュウは雨蛇公園の事件を思い出した。そう言えば南がそのようなことを言っていたように思う。雨夜にはあの夜のことを話していないが、サイコメトリーでお見通しらしい。


「シュウさんが東銀で便利屋をやられて一年ちょっと。想像以上に早く協会に知られてしまいました。副会長の黒川亜梨沙……【禁忌の魔女(アリアンロッド)】がどのように動くか想像できません」


「水門重工と協会って仲良いだろ? 何も分からないのか?」


 雨夜は困ったように視線を逸らした。


「全ての情報を共有しているわけではありません。異人の保護という使命が一致しているに過ぎないのですよ。本家の高原、分家の黒川……関係は複雑なのです。金蛇警備と協会の関係が悪い理由はご理解いただけたと思います」


 確かにランは協会を嫌っていた。身内がテロリスト扱いされているなら当然のことかもしれない。リッカが口を開いた。


「シュウ様が何も知らないと、この先また事件に巻き込まれる可能性があると思い、本日はお呼びしたのです。今日はありがとうございます。逢えて嬉しかったです」


 可憐な美少女に見詰められて、シュウは照れた。


「こちらこそ会えて良かった。よろしくな、リッカちゃん」


 リッカは驚いた顔をしたが、すぐに頬を赤く染めた。雨夜が口を挟む。


「いきなり『ちゃん付け』ですか。シュウさんはずうずうしいですね」


 そう言うと雨夜は席を立った。形の良い眉間にシワが寄っている。


「何か、お前。今日はツンツンしてないか?」


「別に……。私はいつもこの表情ですから。それではリッカさん。今日は失礼します」


「はい、また来てください」


 シュウと雨夜は部屋の出口へ向かって歩いて行く。ふと横を見ると大きい窓から黒い雨雲が見えた。シュウは窓の近くに寄って空を見上げた。


「そっか、今日は雨だったな」


 雨夜とリッカも近くに来て、空を見上げる。しばしの沈黙の後、シュウは言った。


「……蛇の民……金蛇の連中って、今どこにいるんだろう?」


 雨夜がリッカの方を見る。リッカは優しく微笑むとシュウの背中に言った。


「蛇神信仰が根付いている土地で……元気に過ごされていると思いますよ」


「そうか。俺の母さんもそこにいるのかな」


 シュウは空を見上げたまま答えた。雨雲が黒みを帯びている。激しいゲリラ豪雨が降るのだろう。シュウは不気味な空を見て胸騒ぎがしていた。この曇天は更なる事件の予兆ではないかと――。

【参照】

金蛇警備→第十七話 金蛇警備保障

黒川亜梨沙→第二十四話 ブラコンの副会長

蛇のマナ→第四十五話 絶対零度

水門重工→第五十話 水門重工

蛇の民→第五十八話 龍の器

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