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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第八十三話 マナリンク

 氷川旧市街は残桜町(ざんおうちょう)と呼ばれる区域だ。旧市街には二つの顔がある。まず、観光地としての側面。古民家やレトロな建築物が並び、老舗の商店やこだわりの飲食店が集まるお洒落スポット。


 もう一つは、過疎化が進んだ廃墟街の側面。二十世紀末の大戦後、混乱に乗じて生まれたバラック街が起源とされる商店街や飲食店街の廃墟群である。このように残桜町は光と影が色濃く表われる複雑な街である。


――その日、電拳のシュウと水門重工(みなとじゅうこう)高原雨夜(たかはらあまよ)は残桜町に来ていた。シュウは先刻から考えていた懸念を口に出した。


「なあ、雨夜さ。これって俺が少女を連れ回しているように見えないか? ……お前、小さいし」


 隣を歩く雨夜はツインテールの小学生である。


「あなたもまだ子供じゃないですか。それに私は水門重工の一員として業務に勤しんでいるのです。身体は子供でも精神は大人なのです!」


 雨夜はそう言うと幼い胸を張った。その顔は真剣である。


「頭脳は大人でも身体が子供なのが問題なんだ……。まあいいや。今日はどこに向かっているんだ?」


「今日はファイブソウルズの調査ではありません。シュウさんに会って欲しい方がいるのです」


「どんな奴?」


「シュウさんとリンさんが育った星の家や月の家を運営している[マナリンク]の方です。福祉施設以外にも環境保全も率先して行っている社会貢献度の高い団体です」


 旧市街のレトロな街並みの中に突然森が現れる。都会のオアシスのような印象だ。一万平方メートル程の敷地内に近代的な建物が見える。敷地内は生い茂る木々や湧き水が見えた。


「シュウさん、あちらです。マナが豊潤に感じられる癒やしスポットですよ」


 雨夜が湧き水の前で立ち止まり目を閉じる。そして気持ちよさそうに深呼吸をしていた。水を纏ったマナが雨夜の周囲に浮かんでいるのが視える。


「そっか。お前はアクア系だしな。こういう環境が良いんだろうな」


「そうですね。でもシュウさんにとっても良い影響があるはずです。マナリンクは龍穴に建っているのですよ。ここは龍脈のゴールでもあるのです」


 龍脈(りゅうみゃく)とはマナの流れである。ゴールと言うことは、龍穴りゅうけつはマナが豊かな土地なのだろう。確かに神聖な雰囲気を感じる。気温が高い異人街の中でも、ここはひんやりしているように思えた。


「シュウさん。何か感じませんか? 龍脈のマナから……」


「別に。マナが多いなぁ~くらいかな。それがどうかしたか?」


 雨夜は湧き水を眺めながら、おもむろに語り出した。


「マナには様々な記憶が刻まれています。神話の時代から――千年以上前の人々の想い……そして未来の記憶まで」


「し、神話ぁ? それに未来の記憶ってなんだ? まだ起こっていない物事の『記憶』って、矛盾してないか?」


「そうですね。我々サイコメトリストは過去の記憶にアクセスします。未来の記憶にアクセスできる異人は……」


「そんな奴いるのか?」


「神か、精神感応系能力者の突然変異でしょうね」


「何だそりゃ? わけわかんねぇ」


 二人は泉の前から離れ、施設の方へ歩き出した。マナリンクの庭園は一般人にも開放されている。多くの人が自然を堪能していた。


 施設に入ると一階は開放感がある吹き抜けのホールになっている。ここでは様々なイベントが行われているようだ。今日のテーマは環境保護らしい。親子連れの姿が多数見える。雨夜とシュウは三階へ向かった。すると職員らしい女性が現れた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 二人は通路の一番奥の部屋へ案内された。すると扉が開き、中から二人の女性が現れた。


「上川せんぱ~い。ごめんなさい、変なこと言っちゃって! 私まだマナとかよく分からなくて」


 情けない声をあげているのはポニーテールの女の子だ。まだスーツが板についていない。


「落合さん! あれだけ勉強しておけと言ったのに……。DMDならまだしもマナは沢山ヒットするでしょう! ネットサーフィンすれば!」


 上川と呼ばれた女性は眼鏡を掛けて気の強そうな顔をしている。タバコの匂いがふわっと香った。上川はシュウと雨夜の視線に気が付いた。


「あ、すいません。見苦しいところを……。私、異人の友社で記者をやっている上川と申します。こっちは後輩の落合です。怪しい者ではありません」


 上川は名刺を出した。名刺には「異人の友社・上川多賀子」と書いてあった。その時である。落合が大声を出した。


「あー! シュウくんだー!」


「ああ、ドジな姉ちゃんか。久しぶり」


 落合は頬を染めながら満面の笑みを浮かべた。

【参照】

落合について①→第十二話 せっかく異人の友社に入社できたのに私の知能が低すぎる件【落合茉里咲】

高広屋について→第十九話 リン姉のライバル

落合について②→第二十二話 意外とショタだった私はスペック低いのであまり難しいとフリーズするのですが?【落合茉里咲】

拉致されたクラブ→第三十三話 ストーカーの自分語り

福祉施設と爆発物→第五十五話 水門重工の象徴

異人自由学園の襲撃事件→第七十一話 ジャスミンの正体

フィオナの言葉→第七十三話 フィオナのお礼

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