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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第八十二話 ナンバーズ

 その日、シンユーは川成市かわなりしに来ていた。龍尾ドラゴンテイル頭領、【火龍コアトリクエ】のリーシャに呼ばれていたからである。


 そこでシンユーはアルティメット・ディアーナとの取引中に油断をしてチームを危険にさらしたことを注意されたが、特にお咎めは無かった。半分は死を覚悟していたので、心中では胸を撫で下ろしていた。


 シンユーは青空を見上げた。今日も強力な日光が降り注いでいる。


「今日も暑いな……。本当に夜は雨か?」


 天気予報は夜間に雨が降ると告げている。デッキの上から下を覗くと、雨対策の準備をしている住人の姿が見える。


「さて、午後には東銀に戻らなねぇとな。ソジュンの護衛だ。あいつはひょろいから頼りねぇし……」


 シンユーは電車に乗り込んだ。川成駅から氷川駅まで三十分ほどである。昼時の車内は空いていた。電車のドアにはカリスのポスターが貼ってある。


「ソジュンがカリスのファンだったな。俺はアニメとか観ねぇからわかんねぇけど。そう言えばリンも好きだったか」


 シンユーとリンは言うなれば幼馴染みである。シンユーは月の家、シュウとリンは星の家で育った。同じグループの施設だったので、互いに交流があったのだ。


「月の家と異人自由学園のカレーパーティーっていつだっけ? あれ? もう終わったかな……。まあいいや。シュウの馬鹿が張り切ってそうだしな」


 気が付くと氷川駅に着いていた。氷川東銀座と氷川SCの最寄り駅は凄まじい人口密度である。オフィスワーカーや観光客が多くて中々前へ進まない。駅ナカのカフェに入ると、中でソジュンが待っていた。


「やあ、シンユー。待っていたよ。何か食べるかい?」


 ソジュンはさらりとした黒髪が似合うイケメンだ。カウンター席の一番奥に座っていた。シンユーはその隣に並んで座る。


「ああ。頭領と話してから真っ直ぐ来たから何も食べてねーわ」


「へー、僕は頭領と会ったことがないんだよ。どんな人なの?」


「え? マジか! 大企業の社員が社長の顔と名前を知らないのと同じ現象か」


「まあ、そうかな?」


 ソジュンがコーヒーを飲みながら答える。


「お前さ。頭領の異名くらいは知ってんだろ?」


「そりゃ知っているさ。【火龍】でしょう? パイロ系なんだろうね。……あ、今日は雨か」


 ソジュンはそこまで興味が無いらしい。どこか他人事だ。店内モニターの天気予報を見ながらツナサンドを食べている。


「性別は知ってんのか?」


「龍王フェイロンの弟君だよね? ハオランさんみたいな屈強な男を想像してるんだけどね。龍尾のトップとなるとそれくらいでないと厳しいだろうし」


「……そ、そこまで怖い顔はしてねーかもしれねぇよ? 意外と華奢かも……」


 シンユーは数時間前の光景を思い出していた。女子中学生のような頭領リーシャの姿を……。


「ん? そうなんだ。ああ、無理に言わなくていいよ。頭領の顔を知る者が少ない。これには何か意味があるかもしれないからね」


 逆に気を遣われてしまった。


「あ、ああ。悪ぃな」


 ソジュンの反応を見て、シンユーには何となく理由が分かった。リーシャの姿を見て龍尾の威信が揺らぐ可能性は十分あった。リーシャから吹聴するなと口止めされているわけではない。しかし、幹部陣はそれを懸念して口を閉ざしているのかもしれない。


 ソジュンはホットドッグを食べているシンユーに話し掛けた。


「そう言えばこの間の襲撃。子供の自爆事件。調べてみたんだけど、どうやらファイブソウルズっていうテロ組織みたいだよ。戦災孤児のチームらしい」


「ファイブソウルズ? 知らねーな」


「あはは。だろうね」


「何だ? だろうねって。俺がアホだって言いたいのか。お前ちょっと頭が良いからって……」


 ソジュンはシンユーの反論を制止して話を続ける。


「龍尾とアルティメット・ディアーナ……どっちが彼等のターゲットか分からないけどね。この間は水門重工みなとじゅうこうの児童養護施設が狙われたらしい。荷物が爆発したって」


「おい、待てよ。ソジュン。ファイブソウルズってガキなんだろ? 何でガキが子供を狙うんだよ」


「理由は分からない。自爆実行役が子供であり、裏で指示を出しているのは別の者かもしれないね。とにかく、龍王との抗争が懸念される状況で、厄介事が一つ増えたってことさ」


「でもガキだろ。自爆に気を付ければ大したことねーぜ」


「ファイブソウルズには『番号持ち(ナンバーズ)』という奴等がいるらしい。S級ギフター並みに手強いらしいよ。ファイブっていうくらいだから最低五人はいるんじゃないかな。化け物クラスの異人が……」


 協会に所属するギフターは強い。A級でも厄介だが、それがS級以上となると勝てない可能性も出てくる。シンユーはホットドッグを口に放り込み、アイスティーで流し込んだ。


「……で? お前、相当詳しいじゃんか。どこ情報だよ、そりゃ」


 ソジュンは意味深に笑う。


「売人やっていると色んな奴と知り合うのさ。蛇の道は蛇ってことかな」


 食事を終えると二人は駅を出て東銀へ向かった。スパイダーとの約束は夕方だ。ソジュンは少し考えた後、おもむろに話し始めた。


「……シンユーさ。実は僕……結婚したい女性がいるんだ」


 シンユーはそう語るソジュンの横顔を見る。その顔は真剣だ。


「そうか。表社会の女か?」


 ソジュンは困ったように笑う。


「いや、分からない。変わった子でね。……でも好きなんだ。命を懸けても守ってあげたい」


「……そうか」


 東銀の活気が、歩いている二人を包み込む。少しばかり沈黙が続いた。


「龍尾を……抜けたいのか? ソジュン」


 シンユーはソジュンを見詰めて語りかけた。


「先月、シンユーと龍王の後藤が異人喫茶でやり合ったことがあっただろう? 異人喫茶爆破事件さ。その時、ケンが撃たれて死んだ……」


 ソジュンの答えは肯定でも否定でもなかった。シンユーはソジュンから目を逸らした。あの時、シンユーは電拳のシュウが龍王に絡まれているのを見てフォローに入ったのだ。シュウが女性を庇っており不利に見えたからである。


「……ああ。ケンは死んだな。犯人は分からねぇ。あの時は龍王だと思ったが……。どうやら後ろから撃たれたっぽいんだよな」


「ケンは僕の同期なんだよ。僕だっていつ死ぬか分からない。ちょっと怖いんだ」


「そうか」


 シンユーは思い切りソジュンの背中を叩いた。弱気なソジュンへのカツである。


「いてっ! 何するんだ? シンユー」


「やめようぜ、ソジュン! 仕事前にこんな話は!」


 シンユーは笑いながら言った。


「そういうこと言う奴は絶対死ぬからな! フラグが立っちまう! だから続きは仕事が終わってから聞く」


 ソジュンは苦笑しながら答えた。


「あはは。そうだね。僕はまだ死にたくないな。何かあったら守ってくれよ? シンユー」


「ああ! 任せとけ!」


 シンユーとソジュンは拳と拳を合わせた。そして駐車場に止めていた車に乗り込み、旧市街へ向かったのである。

【参照】

スパイダーについて→第二十三話 スパイダー

異人喫茶の事件→第三十話 鬼火の後藤

結婚したいソジュン→第三十七話 売人の夢

ハオランについて→第五十一話 アルティメット・ディアーナ

ファイブソウルズ→第五十二話 ファイブソウルズ

カレーパーティーについて→第五十三話 異人自由学園

福祉施設爆発事件→第五十五話 高原雨夜

火龍について→第五十八話 龍の器

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