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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第八十一話 荒川アウトサイダーズ

 龍王の遠藤と新垣は荒川第二難民キャンプに程近い西綾瀬公園のホームレス村に来ていた。ベンチに座ってテントや段ボールハウスを眺めながらコーヒーを飲む。


「おう、兄ちゃんたち。昼間っからこんな所で何やってんの? 酒持ってねぇ? ひゃはは」


 するとホームレスが周りに集まってきた。見るからに汚く柄が悪い。人当たりの良い遠藤は笑顔で対応した。


「皆さん、どうもこんにちは。ここは良い場所ですねぇ。ささ! ビールがあります。皆さんでどうぞ!」


 遠藤はそう言うと、ホームレスの一人にビールが入ったコンビニ袋を渡した。


「兄ちゃん! 分かってるねぇ~。ありがてぇ。まま、汚い公園だけどゆっくりしていってくれ。……おーい! ここにビールあんぞー」


 ホームレス達は歓喜しながらビールに手を伸ばす。ちょっとした宴会が始まった。


「遠藤さん、さすがっすね。一発でホームレスの心を掴みやがった。この界隈のホームレスは気が荒いって噂だけどな」


「この業界は彼等との関係が重要なんです。心証をよくしておきたい。それにどうです? 木を隠すなら森の中でしょう。こんなに騒いでいたら誰も僕らの話なんて聞いていませんよ」


 遠藤がホームレスの宴会を眺めていると、中年男性に声を掛けられた。


「ここかい? 面接会場は」


 ジャージを着た角刈りの男である。無精ヒゲが目立つ強面だ。遠藤は笑顔で答える。


「そうです。少々お待ちくださいね。後、五人来ますから」


「へー、結構来んな。じゃあ待たせてもらうわ」


 しばらくして、残り五人が集まった。


 集まったメンバーは角刈りの男、スキンヘッドの褐色肌の男、金髪の女、深めのキャップを被った少女、ポンチョを着た少年、少女の二人組である。合計六名。歳は十代から四十代まで幅広い。


 遠藤と新垣が座っているベンチを囲むように待機している。これは闇バイトの面接である。メンバーを見渡して遠藤が口を開いた。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。これから闇バイトの説明をしましょう。私のことは面接官、隣の金髪くんは護衛と呼んでください」


 周囲はホームレスの宴会で盛り上がっている。誰もがここで闇バイトの面接をしているとは気が付かない。例え後日警察に事情を聞かれても酔っ払いのホームレスの発言は社会的に何の意味も持たないだろう。


「事前にドラグラムで伝えていますが、今回は叩きのバイトです」


 遠藤は笑顔で話している。まるでコンビニのバイトの面接のように穏やかな雰囲気だが、叩きは強盗の意味である。


「ターゲットは一般人ではありません。反社組織龍尾(ドラゴンテイル)とスパイダーのDMD密売現場を叩き、ブツと金を強奪します。殺す必要はありませんが、殺すつもりで仕事してください。相手はプロです」


 この話を聞いても集まったメンバーに動揺の色は見られない。表情を変えない者、笑みを浮かべる者、気合いを入れる者、様々だ。


「この案件で警察に捕まることはないでしょう。何故なら、龍尾もスパイダーも被害届を出さないからです」


 遠藤は笑顔でリスクの低さを強調する。新垣はメンバーを値踏みしていた。新垣はマナから相手の実力を知る異能を持つ「異人もどき」である。


(皆まあまあ強ぇな。特にポンチョの二人組。話は聞いていたけど、こいつらはやべぇ)


 ポンチョの二人は後藤が仕込んだサクラである。遠藤と新垣は事前に知らされていたが、会うのは初めてだった。まだ若い。顔に幼さを残している。


 遠藤はポンチョの二人組を観察する。遠藤も異人もどきであり、相手のマナから人間性を見抜くことができる。


(……なるほど、彼等がファイブソウルズ。地獄を見てきた戦災孤児たちか。人の怨念とは……恐ろしいですね)


 心根が優しい遠藤は少年達が背負っている運命を想像するだけで胸に痛みを覚えた。


「さて、本来なら本名は名乗りませんが、今回の任務は難易度が高いので士気を上げるためにも自己紹介をしてもらいます」


 遠藤は角刈りの男へ視線を向けた。笑顔で先を促す。


「おう。俺は剛田。<硬気功>を使う。前衛は任せろ。銃弾くらいなら耐えられる」


 次はスキンヘッドの男である。


「……チャクリ。タイ人。ワタシは精霊の力を借りて能力を行使すル。シャーマンみたいなものデス」


 剛田とチャクリは見るからに筋肉質なので格闘が得意そうである。向かいにいる金髪の女が口を開いた。怪しい雰囲気を持つ妖艶な女だ。


「あたしはライザ。<サイコキネシス>を使った遠距離が得意。銃も使えるわよ。状況を見て臨機応変に動くわ」


 隣りにいたキャップの少女がそれに続く。


「エミリ……<テレキネシス>でサポートをするの」


 最後はポンチョの二人組である。少年の方が先に口を開いた。


「……ソナム」


 少年はソナムと名乗った。そして隣にいる少女を指差して言う。


「こっちは……リア」


 ソナムはボサボサの黒髪、リアは茶髪のポニーテールである。どちらも表情は暗いが、纏っているマナは非常に強かった。剛田は豪快に笑うとソナムとリアに話し掛けた。


「がはは! お前等……ガキのくせに何だ? そのマナは! 化け物かよ?」


 横からライザが口を挟んだ。最初からソナムとリアに興味があったらしい。


「子供のマナ量じゃないわよねぇ。君たち、もしかしてファイブソウルズのメンバーじゃない? 最近、騒がれている孤児のテロリスト。自爆の秘術はそのマナから?」


 剛田がライザに興味を示した。


「姉ちゃん、詳しいな。どこに所属してんだよ」


「あたし? 一応カラーズって組織にいるわ。広く浅くのチームだから、色んな情報が入ってくるのよ。そこでファイブソウルズって聞いたの。ちんけな叩きだと思ってたけど、標的もプロだからこの子達が来たんじゃない?」


 ソナムとリアは無言である。否定も肯定もしない。そこでチャクリが間に入った。目を閉じて合掌している。


「彼等はまだ子供ですヨ。とても辛い思いしてきタ。マナを視れば分かるはずデス。あなた達……空気読んでくださイ。オーケー?」


 チャクリはソナムとリアの頭を撫でながら言った。どうやら子供好きらしい。剛田とライザは肩をすくめている。エミリは無表情でその様子を見ていた。


 遠藤は笑顔で六人を見渡した。


(今時、テロの実行役は闇バイトで募集した方が効率良いですね。スマホ一台で完結できます)


 新垣が笑いながら言う。


「報酬は一人百万くらいになると思う。その額なら人だって殺せるよな? お前等、クズなんだからよ」


 新垣の暴言に腹を立てる者はいない。皆が自覚していることである。自分達は社会不適合者、アウトサイダーであると。遠藤が皆に言った。


「あなた達は『荒川アウトサイダーズ』と名乗ってください。チームに名前がないと不便ですから」


 その後、その場にいた八人は詳しい段取りを話し合った。


「おーい! まだビールあんぞー! うひゃひゃ……」


 シリアスな会議の後ろではホームレス達の宴会が最高潮を迎えていた――。

【参照】

ファイブソウルズ→第五十二話 ファイブソウルズ

遠藤と新垣→第六十七話 特殊詐欺で稼ごう

カラーズ→第七十八話 カラーズ

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