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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第七十九話 龍王

 新垣は竹本から視線を外さず、スマホにこう呟いた。


「……交渉決裂っす。坂田さん。お願いしゃっす」


『うーん! 残念! それなら仕方ないねー!』


 新垣のスマホから甲高い陽気な声が聞こえると、赤い特攻服を着た龍王の構成員が工場の敷地内になだれ込んできた。


 柊会の面々が呆気にとられている隙に、遠藤と新垣はその場から逃げ出した。


「遠藤さん! 今っすよ! あっちから逃げましょう!」


「新垣くん、ありがとう! ビール奢るよ!」


 二人は全力で走り、敷地外へ出た。鮮やかな逃走劇である。


 竹本が拳銃を片手に叫ぶ。


「おいおいおい! お前等、なめられんな! 龍王の奴等ぶち殺せ! 日本の暴力団の実力見せてやれ! おら! ストレンジャーチーム! 気張れ気張れ!」


 柊会と龍王が正面から衝突し、場は騒然となった。


 当然、互いの組織に異人が在籍している。銃の発砲に混じって、異能が飛び交う。空気をつんざく真空の刃、激しい爆炎、それらを防ぐマナのシールド。次第に流血が目立ってくる。


 カラーズの三人は襲ってくる龍王の構成員に反撃しつつ、状況を見極めていた。エルケはサイコキネシスを駆使しながら、ピョートルへ指示を仰ぐ。


「ピョートル! どうすんだ、これ? こんなの料金外だろ! 逃げようよ!」


「もうちょっと待ってください。柊会は今後もお世話になります。いきなり逃げ出したらイメージ悪いでしょう?」


 ピョートルは冷静に答える。彼はロシア系移民だがビジネスには誠実であった。


 ブローカーの吉田は精神感応系能力者で戦闘力は低い。ピョートルとエルケに守られながら、銃を構えている。エルケは苛立ちながら叫んだ。


「吉田のおっさんは余計なことすんな! あんたに死なれちゃ困るんだ! てゆーか、どこから情報漏れた? 龍王には予言者でもいんのかよ!」


 エルケは赤髪を振り乱しながら、献身的に吉田を守っている。口は悪いが情には厚いらしい。吉田が口を開いた。


「トラック開けますか? 密航者を逃がした方がいいでしょう。このままでは危険です」


 その言葉に竹本が反応する。凄まじい剣幕で叫んだ。


「やめろ! うちが買った商品だぞ! 勝手な真似は許さねぇ!」


 柊会のストレンジャーにも手練れが揃っていた。


 特にエアロ系のエレメンターが強力だった。エレメンターの名を清原大輔という。


「<旋風>!」


 清原は竜巻を起こし、見えない刃で敵を切り刻んでいく。その連続攻撃は凄まじい威力であった。


 サイコキネシスは一対一では強いが、範囲攻撃ではエレメンターに分があった。不意打ちから始まった抗争だったが、次第に柊会が龍王を押していく。


――すると、工場の入り口に一人の男が現れた。長身の男だ。二メートルはあるだろうか。


 うねりのある銀髪を後ろに流している。顔には葉脈を彷彿とさせるタトゥーが入っていて、眉間には深いシワが寄っている。まるで龍のような眼光を放っていた。


 背中に双龍の文様が刺繍された黒いロングコートを羽織っている。服の上からでも鍛え上げられた筋肉が見て取れた。


「……うぜぇな」


 銀髪の男はそう言葉を吐き捨てると、ゆっくりと歩いてくる。その男が放つマナの圧力で荒れていた戦場に一瞬静寂が訪れた。柊会の戦闘員も思わず男に視線を送る。


 ただでさえ身長が高く目立つが、纏っているマナが巨大だった。


 銀髪の男は生物としての格の差を感じさせるほど、何もかもが圧倒的に巨大だったのである。


 龍王の構成員の一人が顔を青くして呟いた。


「……龍王フェイロン様」


 場が騒然となる。無理もなかった。


 この男こそ【龍王ドラゴンキング】の異名を持つ[龍王]のリーダーだったからだ。そして龍尾ドラゴンテイル頭領、火龍のリーシャの兄でもある。


 龍王フェイロンは、その強さから異名をそのまま組織名としている。いや、個に頓着しない性格で、自分の組織名すら興味が無いだけである。


 竹本はその威圧に震えながらも叫んだ。


「あ、あいつが龍王ドラゴンキングだ! 今ここで殺せ! この機を逃すなぁ!」


 そう言い放つと、フェイロンに向かって銃を撃った。竹本の腕は確かである。その銃弾は見事にフェイロンの眉間に命中した。


――しかし、弾は地面に落ちた。フェイロンは……無傷である。


「……あぁ?」


 フェイロンは爬虫類のような目で竹本を見据えた。圧倒的な力の差を感じた竹本はそのまま銃を乱射した。


「うわぁぁ……!」


 だが、銃撃はことごとく無効化された。フェイロンの身体に傷一つつかない。フェイロンは歩みを止めることなくその距離を詰めてくる。


 龍王の構成員は最早何もしない。その場に跪き、フェイロンに敬意を払っている。柊会の戦闘員は威圧され、じりじりと後ろに下がっていく。中には逃げ出す者もいた。


 完全に停止した戦場で、清原だけが冷静だった。


(まさか龍王フェイロンが現れるとは……。仕方ないな)


 清原を中心に竜巻が発生した。螺旋状の風のマナが意志を持つ幻獣のように場内を吹き荒れる。


「……<風刃>!」


 真空の刃をフェイロンに向かって飛ばす。それは鉄をも切断する威力があった。フェイロンは無言のまま左手を前に突き出す。


――ギィンと何かが弾ける音が響いた。


 次の瞬間、清原の身体が真っ二つに切断されていた。


「……何故……だ?」


 清原は大量の血を吹き出し絶命した。フェイロンは前進を止めない。崩れ落ちた清原を見ることすらしない。真っ直ぐに竹本へ向かって歩いてくる。


「……」


 柊会の戦闘員は動けない。フェイロンは横に避けた人間が視界に入っていないようであった。明らかに自分より劣る下等生物に興味が無いのである。


 フェイロンにとって自分以外の生物は塵と同義だ。


 カラーズの三人も動けない……。いや、動かなかった。ピョートルが冷静に二人に言う。


(……ありゃチートすね。戦っちゃいけない。……エルケ、吉田さん、トラックは捨てて逃げましょう)


(チート?)


 吉田が反応する。


(反則的に強いってことです。S級ギフターより上の化け物です。自然現象……災害のようなもんすよ。柊会が萎縮している今なら逃げられます。行きましょう)


 エルケと吉田はピョートルの指示を快諾する。カラーズは目的があって日本に来ている。死んでしまっては全てが終わる。三人は静かに距離を取り、その姿をくらました。


「……く、くそ野郎!」


 弾を撃ち尽くした竹本は立ち尽くすのみである。竹本の目の前まで来たフェイロンは鋭い眼光で見下ろす。


「に、荷物が欲しいなら……持って行けばいい! 好きにしろ!」


 竹本は怯えながらも精一杯強気の姿勢を見せている。


「あぁ?」


 フェイロンは感情の無い目で竹本を見下ろすとこう言った。


「死ね」


 フェイロンの手刀が竹本の胸を貫いた。断末魔すら許さない。即死である。どさりと崩れ落ちた。フェイロンにとっては「耳元を飛ぶ蚊が鬱陶しいから潰した」程度のことであった。


「竹本さん! ちくしょう!」


 柊会のストレンジャーが一矢報いようと、フェイロンに突進していく。


 しかし、右手一本であしらわれた。ある者は首が飛び、ある者は心臓を引きずり出され、そしてある者は木っ端みじんに吹き飛んだ。


 工場の敷地内が真っ赤に染まっていく。フェイロンはまるで虫を踏み潰すように、いとも簡単に手練れのストレンジャー達を虐殺した。


 僅か十分で工場内は静かになった。場内に生きている柊会の人間はいない。


 血の海の中で立ち尽くすフェイロンに近付く人影があった。【鬼火フレイム】の後藤と緑髪の坂田である。


「龍王。お見事です」


 後藤は腕を後ろに組み、大きく礼をした。坂田もそれに倣う。そして陽気な声で言った。


「あの積み荷は龍尾に流れる予定でしたからねぇ。西川成の地で大胆な取引でしたよ! あっはっは!」


 坂田はフェイロンの威圧に臆することなく話している。黒いマスクで表情は見えないが、笑っているのだろう。頭のネジが外れているらしい。


 フェイロンは二人を見て言う。


「俺は帰る。……後藤、お前が指示を出せ」


「はい。お任せください」


 フェイロンは返り血を拭くこともなく、敷地外に止めていた車に乗り込んだ。運転席には坂田が乗り、静かに車を発車させる。後藤は車が見えなくなるまで頭を下げていた。


「……さて。おい、お前等! 荷台を開けろ!」


 後藤がトラックを指差して指示を出す。


「了解っす!」


 赤い特攻服を着た構成員がトラックの荷台を開けた。


「……出ろ」


 後藤は荷台に向かって言う。


「……」


 その中には密航者の姿があった――。

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