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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第七十八話 カラーズ

 深夜、西川成を縦断している県道を一台の冷凍車が走行していた。二トンのトラックで、荷台には鮮送運輸と書かれている。運転席には三名が乗車していた。


 運転席に金髪の男、真ん中にショートカットの女、助手席に中年の男が座っている。


「やれやれ、青髪のロウが失敗するとは。あいつがカラーズの拠点を東銀に造る計画だったんすけどね……」


 金髪の垂れ目の男が溜息交じりにぼやいた。男の名前をピョートルという。多国籍異人組織[カラーズ]のメンバーである。数ヶ月前、協会に捕らえられた青髪のロウの友人でもあった。


「メイやディアン、ミラは行方不明だってさ。ソフィアは元気そうだし。誘拐失敗して死んだっぽくね? マァジ使えねぇわぁ」


 真ん中の席で悪態をついている女の名はエルケという。赤毛のボブヘアだ。育ちは悪そうである。


「どうやら水門みなとのことで龍尾ドラゴンテイルと揉めたらしいですよ。まあ、カラーズの東銀進出は保留にして、今は川成と西川成の境界付近で地固めしましょう。西川成は龍王の拠点があるので警戒してください」


 落ち着いた口調で話すのは三人の中では最年長の吉田である。年齢は五十代に近い。カラーズのメンバーを含め、密航者の仕事先や居住地を世話している。いわゆるブローカーだ。


 ピョートルが運転しているのは冷凍車だが、中に積まれているのは食品ではない。人間である。死体ではなく生きた人間だ。ピョートルが二人に言った。


「これまで通りDMDの密売は続けますが、密航ビジネスも並行しましょう。やはり龍尾とのパイプは欲しいすから」


 密航一人につき一万ドルの報酬が入る。百人なら百万ドルとなる。日本円で一億を越えるビジネスだ。摘発されても殺人ほどの重刑ではないため、旨味があるのだ。


 日本でカラーズのメンバーは着実に増えており、密かに勢力を拡大していた。在籍している人種、性別、異能の種類は様々だ。来る者は拒まず精神で結成されている。広く浅くのチームで、関東だけではなく北海道や九州にも拠点があった。エルケはタバコを吸いながら言う。


「日本の異人組織はレベル高いっつーからさぁ、アタシら戦力増強しねぇーとやばくね? 協会のギフターとかパナいっしょ」


 トラックが横道に逸れて十分ほど走ると、寂れた住宅地にさしかかった。更に進むと、大きい食品工場が見えてくる。表札にはニシカワフーズと書いてあった。地元に根ざした暴力団柊会(ひいらぎかい)のフロント企業である。


 広い敷地内には三階建ての工場が建っている。工場には地下があり、三千平方メートルほどの作業スペースが存在する。この地下空間が闇の案件に都合よく使われた。


 トラックが裏の搬入口で停車すると、スーツを着たビジネスマン風の男性が笑顔で出迎える。柊会の構成員だ。


「どうもどうも、お世話になります。ニシカワフーズ……柊会の竹本です」


 竹本と名乗る男は運転席のピョートルへ礼をした。ピョートル、エルケ、吉田はトラックから降りると、それぞれが挨拶をする。


 ピョートルはスマートフォンを見ながら「荷物」の内訳を言った。


「今回はストレンジャー五名、売春婦五名、強盗から殺人まで可能な男が五名、子供が二名。当然ですが、ストレンジャーは割高すよ」


 竹本は満足げに頷いた。カラーズに報酬を支払った後は、十七名の密航者をそれぞれの組織に斡旋していくのだ。


 エルケがトラックの荷台を開けようとした時、急に声を掛けられた。


「ご多忙のところ恐縮ですが、カラーズと柊会の方々でしょうか?」


 声を掛けてきたのは二人の男である。一人は清潔感のある黒髪でスーツを着ている。表情はにこにこと笑顔で、一見すると無害そうな男である。


 スーツの男の隣には、ぼさぼさの金髪で柄が悪い男が立っている。茶色い革ジャンを着ており、いかにも護衛のような風貌だ。


 エルケは不機嫌そうに答えた。


「ああ? なんだお前等。カラーズがどうしたって? カンケーねーだろ。てか、お前。不法侵入じゃね? ここ敷地内じゃん」


 竹本は苛立っているエルケを片手で制すると、二人組の男に向き合った。


「ええ、柊会の竹本です。失礼ですが、あなた方は?」


「これはご丁寧にどうも。私は龍王の遠藤と申します。こちらは新垣くん。あ、警戒なさらないでください。我々は異人といっても『もどき』ですから。あはは」


 遠藤と名乗る男は誠実そうな男であった。隣の新垣はふてぶてしい態度で、その場にいる面々を値踏みしている。竹本は龍王の組織名に警戒心をあらわにした。


「……龍王ドラゴンキング? 柊会われわれは龍王との取引は無いはずですが?」


「雑魚だな」


 新垣がぼそりと呟いた。その目は竹本を捉えている。


「はぁ? なんだ、お前。死にてーのか、こら。おい!」


 新垣の挑発に竹本が紳士の仮面を脱ぎ捨て、本性を現わす。竹本が手を挙げると、搬入口からずらずらと柊会の構成員が姿を現わした。その数は十人以上。皆、手には銃や刃物を持っている。中には異人も混ざっていそうだ。


「新垣くん、やめてください。竹本さん、失礼しました」


 沢山の構成員を前に遠藤は慌てる様子を見せ、深々と礼をした。竹本は笑いを堪えながら遠藤に問う。


「……で、遠藤さんだっけ? 要件は?」


 遠藤は顔を上げると笑顔で答えた。


「その積み荷。龍王が押収してよろしいでしょうか? 抵抗なさらないのであれば、命の保証はいたします」


 一瞬、場が沈黙した。想定外の要求である。竹本とピョートルは顔を見合わせた。エルケはぶち切れ寸前である。


 次の瞬間、柊会構成員の爆笑が湧き起こる。竹本は遠藤に銃の照準を合わせた。


「遠藤さん。この辺りは過疎化が進んでいてね。チャカぶちかましたくらいでは警察は来ないんだよ」


「それでは拒否をされるということですか?」


 遠藤が遠慮がちにそう言った次の瞬間、竹本は銃を撃った。


 カァン! と甲高い音が響き渡る。


「馬鹿が。……ん?」


 遠藤に弾が当たったと思われたが、隣の新垣が隠し持っていた金属バットで銃撃を防いでいた。バットに穴が空いている。


「……ったく。雑魚ほどいきなりぶっ放すんだよな。早死にするぜ、あんた」


 新垣は遠藤の前に立つと竹本を睨んだ。

【参照】

青髪のロウの失敗→第五話 電拳のシュウ

メイ、ディアン、ミラ→第七話 事件の真相

遠藤と新垣→第六十七話 遠藤と新垣

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