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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第七十四話 マラソン・エナジー

 マラソン・エナジーはアメリカの大手エネルギー会社である。民間石油会社としては最大規模であり、世界二百カ国以上に進出している。水門重工みなとじゅうこうと提携し、海上都市や空中都市の開発にも関わっている。


 フィル=エリソンはマラソン・エナジーの常務取締役である。さらさらとした金髪で長身だ。容姿は映画俳優のように整っている。年齢は四十代半ばでエレメンタリースクールに通う娘が一人いる。


 妻とは死別しており、現在は独身だ。娘を溺愛していることで有名であり、彼のSNSはフォロワーが一千万人を超えている。


 その日、フィルは自宅でリモートワークをしていた。今日はウェブ商談である。相手は取引先の営業で、何かと気が合う友人でもあった。


「じゃあ、サイラス。今度また食事でも。それじゃ……」


 フィルが接続を切ろうとすると、サイラス=アナキンが思い出したように言った。


『そう言えば、フィル。お前も気を付けろよ』


「ん? 何がだい?」


『東国連合国のギルハートにうちの支社があるんだが、そこでテロが起こったんだよ』


「テロ? 穏やかじゃないな」


『うちの若いエンジニアが乗った車がな……ギルハートの輸出加工区で銃撃された』


「それは……」


『その直後、爆弾を積んだ車が突っ込んできて自爆されたんだ。重傷者は出たが死者は出なかった。不幸中の幸いだよ』


「犯人は?」


『自爆だからな。当然死んださ。……卑劣な犯行だよ』


 サイラスは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「犯行グループは戦災孤児に自爆させると言われているファイブソウルズかい?」


 フィルは眉をひそめている。一人娘がいる父親として、看過しがたい事件だ。


『分からん。ファイブソウルズから犯行声明は出ていない。模倣犯の可能性もある』


「そもそも子供に車の運転は難しいか。……でもファイブソウルズってのは戦災孤児を誘拐して自爆に利用している野蛮な組織だろ? 犯人が子供とは限らないよな」


『戦争が起これば孤児は生まれる。この数年でファイブソウルズ自体が大きくなりすぎた印象はあるな。未だに発生のルーツすら分からない謎の組織だ。……お前の所もギルハートに進出しているだろ? 気を付けろよ』


「ああ」


 サイラスは笑顔で言った。


『暗い話題で悪かったな。今度飯でも食おう。ソフィアちゃんにもよろしく。じゃあな』


「ああ、またな」


 フィルはパソコンの電源を落とすと、席を立った。


 高級マンションの最上階、大都会の絶景を拝めるペントハウスが彼の自宅である。アメリカでも有数の地価が高い区域に建っている。


(ギルハートか……。今度行く予定だが警戒した方が良さそうだ)


 その時、玄関が開いて少女が入ってきた。ふわふわのブロンドで少し生意気そうな顔をしている。


「パパ、ただいまー」


 娘のソフィアだ。彼女の後ろには七名の付き人がいる。皆、筋肉質で強そうだ。大の親日家であるフィルは映画「七人の侍」の影響を受けて護衛を七人にしている。


 護衛全員が異能を使う異人だ。特殊能力者協会アメリカ支部から派遣されているB級以上の猛者達である。日本でのソフィア誘拐事件以降、フィルは護衛を増やしているのだ。


 フィルは満面の笑みで両手を広げてソフィアを出迎える。


「ソフィー! 今日も元気だったかい? 何事もなかったね!」


 ソフィアはフィルの胸に飛び込んだ。父親の熱い抱擁を受ける。


「うん、パパ! 安心してね。ニックがアイスを買ってくれたのよ」


 ニックとは護衛の一人である。一際背が高い黒人の異人だ。黒いスーツの上からでも隆起している筋肉が分かる。


「そうかそうか! 欲しい物は何でも言いなさい! キャンディでもスーパーカーでも! ソフィーのためなら何でも買っちゃうよ!」


 フィルはソフィアを抱き上げると、白い歯を見せて高らかに笑っている。ソフィアはフィルの腕の中で顔を赤らめた。


「……パパ。ソフィアには欲しい物があります」


 フィルはソフィアを下ろすと、その肩に両手を乗せて言う。


「そうか! 何でも言ってみなさい!」


 ソフィアは顔を真っ赤にして目を逸らす。そして両手を胸の前で合わせて目を閉じる。一呼吸置いて口を開いた。


「便利屋金蚊の……シュウ様が欲しいです」


「そうか! ソフィーはシュウくんと結婚したいのかい?」


 ソフィアは妖精のような笑顔で頷いた。


「はい! ソフィアにはシュウ様しかいません! 結婚を許してください」


「はっはっは! パパも大賛成だ! シュウくんなら安心だ。すぐに連絡を取ってあげよう」


 フィルはソフィアの頭を撫でる。ソフィアは幼いながらも妖艶な笑みで呟いた。


「……シュウ様の肉体が欲しい。心が欲しい。マナが欲しい。全てが欲しいのです」


 小学生の少女にしては些か行き過ぎた発言だが、フィルは別段と気にした様子はない。むしろ喜んでいた。


「ソフィー……。そのセリフ、その表情、若い頃のママにそっくりだ! パパもそうやってプロポーズされたのさ!」


「ママも私と同じ? 嬉しい! パパ大好き!」


 再びソフィアが胸の中に飛び込んできた。


「ああ! フローラの生き写しだよ!」


 フィルは陽気な子煩悩だが馬鹿ではない。最近のソフィアの変化には気が付いていた。


 東銀での誘拐事件からだが、ソフィアが今は亡き母親のフローラ=エリソンに益々似てきているのである。


 親子だから似ている……というレベルではなく、それは度を超していたのだ――。

【参照】

フィルについて→第二話 ソフィアの誘拐事件

ソフィアについて→第八話 ソフィア=エリソン

水門重工について→第五十話 水門重工

ファイブソウルズ→第五十二話 ファイブソウルズ

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