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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第七十一話 ジャスミンの正体

 異人自由学園の園庭から黒煙が立ち上る。イベントに参加していた客が外へ逃げていく。園の子供は職員の誘導で施設内へ避難していた。健太とセドリックは遊具の近くで腰を抜かしていた。健太は少女の自爆を目の当たりにして頭が混乱している。


「……ルトナちゃん? どうして……。あ、雨夜あまよちゃんは……」


 何の予兆もなかった。健太とセドリックにとっては青天の霹靂へきれきである。黒煙が晴れてくる。地面はひび割れて、えぐれていた。ぱらぱらと砂塵が降ってくる。煙をかき分けてシュウが叫んだ。


「雨夜! 大丈夫か! おい! ……あ」


 シュウは胸を撫で下ろした。爆発の中心部に分厚い水の球体が出現している。雨夜が生成した水壁である。水球(ウォーターボール)の中で雨夜は生きていた。手には鉄扇を持っている。


 水門重工(みなとじゅうこう)高原雨夜(たかはらあまよ)はアクア系のエレメンターである。【八歳竜女(ドラゴンメイデン)】の異名を持つ。雨夜が短く息を吐くと、水球はバシャッと音を立て消失した。


「……卑劣な」


 雨夜の表情は嫌悪感で満ちている。着ている黒いブラウスとチェックのスカートは汚れてすらいなかった。ルトナの遺体は影も形もなかった。粉々に吹き飛んでしまっている。


 シュウの足下に、溶けたタッパーが転がっていた。死ぬ直前までルトナが抱えていたものだ。頭の中でルトナの笑顔がフラッシュバックする。


「どうして……? さっきまで笑っていたじゃないか」


 言葉にできない感情が胸中に渦巻いている。


――裏切り。

――悲しみ。

――絶望。

――無力感。


 シュウは全身の力が抜けていくのを感じた。完全に無防備である。


「シュウさん!」


 雨夜が叫んだ。


「……はっ!」


 シュウの意識が現実に引き戻される。――次の瞬間、ゴォォと音が鳴り響き、巨大な炎がシュウと雨夜に向かって降ってきた。


「シュウさん! 私の後ろへ!」


 雨夜は鉄扇を天に掲げると、分厚い水の膜を生成した。炎と水が衝突し、マナとマナがぶつかり合う。ジュゥゥッ! と音が響き渡り、大量の水蒸気が発生した。水壁の温度が急上昇するが、雨夜のマナ・コントロールで火傷はしない。風呂ほどの熱さで抑えられている。数十秒耐えると、炎は消失した。凄まじい量の排マナが放出されている。


「雨夜様! シュウ様! ご無事で!」


 従者の源が水蒸気の中から飛び出してきた。一歩遅れてリンも合流する。四人は無事を確認し合った。園庭にいた児童や一般客の姿は無い。避難は終わっているようだ。


「今の炎……あなたですか。ジャスミンさん」


 雨夜は接近してくるジャスミンの姿に気が付いた。炎を纏っている。パイロ系のエレメンターであることは明白であった。マナのぶつかり合いで、ジャスミンのマナ量が異常に高いことも分かった。雨夜の中で警鐘が鳴っている。


(……この女。強い)


 ジャスミンが言う。


「やっぱりこの程度じゃ死ななかった。竜女りゅうにょかんむりは伊達じゃない……か」


 彼女に先程の笑顔はない。纏っている炎とは対照的に冷たい視線を雨夜に向けている。妹の殉職に対して何を思っているのか、その表情からは読み取れない。


「……ジャスミンさん。あなたは何なのですか?」


 雨夜は鉄扇をジャスミンに向けて問う。その眼光は鋭い。ジャスミンは表情一つ変えることなく答えた。


「ファイブソウルズの四番。ナンバーズだよ」


 十代半ばの少女が放つ殺気ではない。ジャスミンが纏う炎は明らかに殺意を含んでいた。シュウが雨夜の前に立つ。炎など見ていない。その視線はジャスミンを捉えていた。


 電気のマナがシュウの身体を中心に螺旋状に湧き起こっている。バチバチッと乾いた音を立て、青白い稲妻がシュウの身体から放出されている。


「……おい、ジャスミン。さっきの笑顔は嘘か?」


「……?」


「妹が死んだってのに……何も感じねぇのか?」


「……」


 シュウの問いかけにジャスミンは答えない。


「……ルトナは! 死ぬ前に……笑ってた! どんな気持ちだったか想像できるのかよ!」


 ジャスミンは一瞬視線を下に落とした。……が、すぐにシュウの目を見据えて言った。


「あんた達の中にギフターはいるの?」


「あぁ?」


 ジャスミンは一同を見渡す。値踏みしているように見える。


「一番のヤミが言ってたんだ。ギフターは面倒くさいって」


 源がシュウの代わりに答える。


「これ以上騒ぎを起こしたらギフターで編成されたチームが派遣されるでしょう。その前に警察が来るかもしれません。逃げるなら今ですよ」


「そう。今この場にギフターがいないならやっちゃおうかな」


 ジャスミンが両手を前に突き出すと、巨大な炎が発現した。凄まじい高熱を放っている。炎の面積が広すぎて回避できそうもない。


「雨夜様! リン様! お逃げください!」


 源は後ろの二人を庇うように前へ立った。雨夜は鉄線をシャンッと上に構え、冷酷な笑みを浮かべた。


「問題ありませんよ、源さん。私の後ろへ」


 雨夜の幼い身体から凄まじい量のマナが放出される。その水を含んだマナは天高く上っていった。


 ジャスミンは雨夜のマナを警戒し、一瞬だけ空を見たが、自分の技の発動の方が速いと判断する。


「死ね。水門みなとの姫」


 ジャスミンの目に殺意が宿った。

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