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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第六十八話 五千円で一緒に行ってやるよ

 新垣がメッセージを返信するとすぐに反応があった。詳しい説明をするために、まずはドラグラムのインストールを指示された。このアプリは秘匿性が高いことで有名である。


 グレーの仕事なので捕まりません!

 受け子! 出し子! かけ子! 海外かけ子! 運び! 選べます!


 SNSの最初のやり取りより、突っ込んだ内容になっている。


 受け子は現金やキャッシュカードを受け取る。出し子はATMで現金を引き出すことを意味する。かけ子はオレオレ詐欺の電話役。運びはDMD等の違法薬物や金品を運ぶことだ。


「典型的な詐欺だな。新垣くん、どうする?」


「そっすね。でもオレ借金返してぇし。捕まらないって書いてあるし、やってみるかな!」


 楽天的な新垣は乗り気である。金を稼ぎたい。同じ気持ちは遠藤にもあった。先方と何度かやり取りをすると、最後にこのように聞かれた。


――あなたは異人ですか? 異人だと報酬アップ!


「遠藤さん。どうする? これの返事」


 奇妙な問いだった。異人と普通人で待遇が変わるのだろうか。


「僕達はストレンジャーほどの異能はないけど、一応異人だから『異人もどきです』で良いんじゃない? 報酬上がるみたいだし」


「そっすね。じゃあそうすっか」


 新垣はそのように返信した。すると事態が動いた。


――対面で面接をします! 場所は東銀の異人喫茶――


 二人にとってこれは意外な展開であった。詐欺グループの面接はメッセージのやり取りで完結すると思っていたからだ。しかし、逆にある種の信憑性が増す。


「会うんすね-。ある程度信用できるんじゃねぇ? 遠藤さん」


 遠藤も同じことを考えていた。相手に会えるのはメリットである。マナに敏感な遠藤なら、対面で得られる情報は多い。


「異人喫茶? 聞いたことあるけど、どこだっけ?」


 遠藤が訪ねると、新垣はスマホに目を落とした。


「……げ! 地上じゃん! 暑そうだなぁ。地下都市に来てからは、あんまり地上には上がらなくなったからなぁ。久々だぜ」


「そうか。迷わないように早めに家を出た方が良いね。面接はいつ?」


「……えっと。ああ、明日じゃん! はや! なんかこう……流れが来ている! 明るい未来が待っていそうだなぁ!」


 隣で新垣がガッツポーズをしている。遠藤はそこまでポジティブではなかったが、稼げればなんでも良いと思っていた。



 ◆



 遠藤と新垣は観光客で溢れかえる東銀を歩いていた。今日は面接の日である。直射日光が痛い。久々の地上だが、相当暑かった。


「新垣くん。もしかして迷ってる? ナビ使ってよ」


「悪い! 遠藤さん。スマホのナビが動かない。どっち向いているのかも分からねぇ」


 新垣はスマホと睨めっこしている。スマホがフリーズしているようだ。


 遠藤はスマホを持っていない。これはゆゆしき事態である。道行く人に聞こうと思っても外国人ばかりで気後れしてしまう。


「うーん。ん? 便利屋金蚊?」


 遠藤は少し先に見える便利屋を見付けた。そして新垣の肩を叩く。


「新垣くん。あそこに便利屋がある。道くらい教えてくれるんじゃないかな」


 新垣は遠藤が指差す方向を見た。店を見て眉をひそめる。


「何かビミョーな店構えだな」


 二人はガラスの扉越しに店内を覗いてみた。中には金髪の店長らしき少年が座っている。


「金髪のガキじゃねぇか! 信用できねぇ」


「新垣くん。キミも金髪だろう。彼と何が違うんだい?」


「いや、だって! まだガキじゃんか。それにしちゃマナが強ぇし、得体が知れねぇよ」


「あはは。あの人に聞いてみよう。失礼しまーす」


 遠藤は可笑しそうに笑うと店内へ入っていった。新垣は気が進まなそうな表情で後に続く。


 不良の新垣は喧嘩慣れしており、決して気弱ではない。むしろ強い方だろう。それでも金髪の少年からはただならぬマナを感じたのである。


 二人が中に入ると、カウンターの向こうに座っていた少年が、こちらに気が付いた。そして気怠そうにこう言った。


「……っしゃーい。異人街へヨウコッソー」


 完全に棒読みで、客を迎える気遣いは皆無だ。顔は無表情で強面こわもてのままである。


「……は、はぁ」


 遠藤は金髪の少年の接客態度に若干戸惑った。マナを視る限り悪い人間ではなさそうだが、相当な変わり者かもしれない。


「あれ? その反応……。あんたら観光客じゃねーの? 外したか、これ」


 少年は腕を組んで驚いた顔をしている。悪気はないようだった。


(いや、観光客だとしても今の挨拶は……)


 遠藤は面食らっている。横にいた新垣が遠藤の代わりに答えた。


「オレらは東銀の地下都市に住んでるっす。だから地元っすね」


 少年の強さが分かる新垣は一応丁寧語である。相手が年下だろうが、勝てない相手には喧嘩を売らない。新垣はスラムの流儀が分かっていた。


「ふーん。貧弱な地底人か。で? 何の用?」


 少年は鼻をほじりながら、やる気がなさそうに聞いてくる。すると店の奥から可愛い少女が顔を覗かせた。


「兄さん。失礼な言い方はお控えください。お客様じゃありませんか」


 少女はベージュ色のボブヘアでかなり可愛い。少年と同様に笑顔ではないが可愛いから許せる。


「……い、妹さんっすか? 全然似てないっすね!」


 新垣は率直な感想を言った。他意はない。本気でそう思ったのである。


「ああ。よく言われるけど、可愛いからって手を出したら、ただじゃおかないよ。キミタチ」


 どうやらこの少年はシスコンらしい。遠藤はそう思った。そして、どう見てもこちらの方が年上だが、少年の物言いには遠慮や敬意が感じられない。遠藤は半ば呆れながら口を開く。


「あの、異人喫茶ってどこにありますか? ここから近いですかね?」


「五千円だな!」


「は? 何がです?」


 遠藤が聞き返す。少年は面倒くさそうに答えた。


「道案内だろ? 五千円で一緒に行ってやるよ」


 遠藤と新垣は顔を見合わせた。少々高い気がする。


「い、いや。道を教えてくれたらいいんですけど」


 新垣は勇気を出してやんわりと拒否をする。


「教えるったってちょっと遠いから言葉じゃ言い切れねーよ。絶対迷うって! スマホも使えないっぽいし。途中、厄介なヤツに絡まれたら撃退してやるから」


 少年の後ろに控えていた少女が口を挟んだ。


「兄さん、道案内で五千円は可哀想です」


 新垣は少女のフォローに即座に反応した。


「そうっすよね。じゃあ……」


「ひとり千円で……二千円が相場だと思います。税込みで二千二百円」


「へ?」


 妹の助け船かと思ったが、そうではなかったようだ。最初に高い金額を見せてからの値引きである。これは計画的だ。


 可愛らしい美少女が遠藤と新垣を見詰めてくる。


(まあ、可愛いから良いか。笑えばもっと可愛いのに勿体ねぇ)


 新垣はそう思った。


「遠藤さん。別に良いんじゃね? どうせだから連れて行ってもらおうぜ」


「うーん。まあ、そうだね。面接まで時間もないし。それでは店長さん。お願いします」


 遠藤は金髪の少年に二千二百円を渡した。そこで少年は初めて笑う。


「了解! 行きましょうか! 異人喫茶へ! んじゃ、リン。行ってくる」


 遠藤と新垣は少年と一緒に店の外へ出た。そして異人喫茶を目指して、人で溢れかえる東銀を歩き始めたのである。

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