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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第六十七話 特殊詐欺で稼ごう

 遠藤充えんどうみつるは、普通人ではないが異人でもない。


 いや、広義的には異人だが、ストレンジャーほどの異能を秘めていない。いわゆる異人もどきで中途半端な存在だった。俗に言う「霊感が強い人」という表現がしっくりくる。


 異人もどきは普通人よりマナを感じられる。つまり他人のマナの影響を受けやすい。相手が喜んでいれば自分も楽しい気分になるし、怒っていれば悲しくなってくる。


 故に繊細で集団生活が苦手とされている。相手を気遣いすぎて疲弊し、精神病を患うこともあるのだ。


 遠藤は三十代半ばの男である。外見に際立った特徴は無い。日本人らしい黒髪、中肉中背、人が良さそうな真面目な雰囲気をしている。


「……あーあ。また就活か」


 その日、遠藤充は自室で落ち込んでいた。昨日、バイトを辞めてきたばかりである。


 人付き合いが苦手なので工場勤務を選んだが、遅番が辛くて体調を崩した。四十代の足音が聞こえてくる年齢になると、無理ができなくなってくる。


「真面目に生きてきたつもりだけどさ。上手くいかないもんだよ」


 現状に対して親は何も言ってこない。家族関係は良好だ。自分への気遣いと愛を感じる。だからこそ辛い。


 結婚の予定もないので親に楽をさせてやりたいと願望はある。迷惑をかけっぱなしの人生だったと思う。とにかく人並み以上の収入が欲しかった。


――稼げれば何でもいい……。


 本人は無自覚だが、実はそう考え始めるほど追い詰められていた。その時、突然自室の扉が開いた。


「よーっす! 遠藤さん! またバイト辞めたって?」


 入ってきたのは悪友の新垣誠あらがきまことだった。


 新垣とは協会トクノーが主催する異人のグループワークで出会った。彼は遠藤より年下だが、こちらに気遣うことがない。それが遠藤には心地よく感じる。


「やあ、いらっしゃい。新垣くん。適当に座ってよ。何か飲む?」


「いや、買ってきた。真っ昼間から飲もうぜ。ほら、ビール」


 新垣はコンビニ袋から缶ビールを取り出した。二人は飲み仲間でもある。


「オーケー。どうせ次の仕事が決まるまで暇さ」


 新垣は遠藤とは対照的に金髪で不良のような外見をしている。性格も真逆だ。遠藤は生真面目だが、新垣はだらしなく喧嘩っ早い。仕事はホストやキャッチ、風俗の受付等を転々としている。


 二人は正反対だからこそ気が合った。自分とは全く違う世界に身を置いている。互いにぶつかることがない。意見が衝突することもない。共通していることは金不足である。


「なあ、遠藤さん。オレ、借金が五十万くらいあるんだ。超たりぃ。手っ取り早く稼ぐ方法ねぇ?」


「……五十万くらいなら、地道にバイトすれば返せそうじゃん」


「でもオレ、マナの影響受けやすいからストレスに弱いんだよな。地道にコツコツって向かないんだよ。あんたもそうだろ?」


「まあね。……最近思うんだけど、世間で『繊細さん』って言われている普通人って、実は無自覚で異人なんじゃないのかな」


 遠藤は敏感すぎるが故、常に人の顔色をうかがいながら生きてきた。そのお陰か相手の人間性を見抜くことに長けている。


 遠藤と新垣はビールを飲みながら、近況を報告し合った。社会の底辺でもがく遠藤にとっては貴重な交流の時間だ。


「ああ、そう言えばSNSで『金がねぇ』って愚痴ったらメールが来たんだよな」


 新垣はスマートフォンを見ながら、そう話す。遠藤はスマホの画面を見せてもらった。


「ふーん。一日五万円以上可能か。……これってやばいバイトじゃない?」


 SNSやマイチューブの広告、迷惑メールでよく見掛ける文言が書いてある。


 やる気さえあれば誰でも稼げる!

 即日現金払い!

 保証金なし!

 DMお待ちしております!


 間違いなく詐欺メールである。新垣がスマホの電卓で計算している。


「でもさ、二十日働いたら百万円だろ? 一ヶ月休み無しで働いたら百五十万。年収にしたら一千八百万だぜ? 詐欺でもいいから稼いでみたくねぇ?」


 新垣の頭が悪い発言には呆れるが、遠藤も金が欲しかった。金があれば親の老後が安心になる。親戚に胸を張れる。馬鹿にされてきた同世代を見返せる。結婚ができるかもしれない。


――金さえあれば、これまでの冴えない人生が変わるかもしれない。


 普段ならそのようなことは考えない。遠藤はいたって真面目な男である。しかし、無職である焦りが思考にもやをかけた。


(……そう言えば、どっかのマイチューバーが言っていたっけ)


――真面目が取り柄なヤツって職場にいらないっすよね。不真面目でも有能なヤツの方が役に立つんで――


(……だろうね)


 遠藤は下品に笑う人気マイチューバーの顔を思い出す。


――世の中、真面目なヤツが損するシステムなのですよ。いけないとは思いますけど、それが現実なのですよ――


(……僕もそう思うよ)


 そのマイチューバーは起業で成功し、資産は数億あるという。人間性は最低だが有能であることは間違いない。世の中には金があれば許されることが沢山ある。政治家の不正は最たる例だ。


「なあ、遠藤さん。これまでクソみたいな人生だったけど、ちょっとこのバイトやってみねぇ? ヤバかったら辞めれば良いじゃん」


「そうだなぁ」


「捕まっても、別に失うものもねぇじゃん。地位も金もねぇし。だったら一攫千金狙うのもありみてぇな?」


 新垣はやる気を出しているようだ。遠藤は少し考え、こう言った。


「まあ、皆が皆、捕まるとは限らないよね。稼ぐヤツもいるんだろうし」


「そうだよな? 話だけでも聞いてみようぜ! 金が稼げればなんでもいいや!」


 一人だと心細いが、悪友の新垣は乗り気だ。二人でなら応募の敷居が低くなる気がした。


――とにかく金が欲しい。人生を変えてやる!


 遠藤と新垣は決心し、スマホに届いたメッセージに返信をしたのだが、この時の決断が二人の人生を大きく変えることになるのであった。

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