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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第六十一話 朱雀華恋

 黒川南(くろかわみなみ)朱雀華恋(すざくかれん)は、氷川SCの更に西、荒川第一難民キャンプに来ていた。表向きは視察だが、裏の目的はファイブソウルズのメンバーがキャンプ内に潜伏している可能性を考えた協会トクノーの偵察である。


 二人は警備員にギフター証明書を提示し、キャンプ内へ入る。


「いつ来ても凄い人だね。南くん」


「テロリストは異人街へ潜伏してるんだろ? じゃあもうここにはいないよね。……面倒くさいし、何か臭い」


「そうとも言えないよ。まだ仲間がいるかもしれないよ。ファイブソウルズは子供で結成されているのよね? なら子供のストレンジャーを探しましょう」


 華恋は苦笑しながら眠そうな南に語りかけた。華恋と南は同い年だが、まるで弟の面倒を見ているような感覚に陥るのであった。


 荒川第一難民キャンプは日本政府や、世連難民支援協会などのNPO支援団体によって運営されている。運営事務所にはホテルやレストランが併設されており、支援者が休めるようになっていた。


 キャンプ内には商店や飲食店が点在し、しっかりと経済活動が行われている。商店からは大音量でレゲエソングが流されているのだ。


 様々な民族に配慮し、各宗教に合わせた礼拝堂が存在しているし、学校や図書館では子供が教育を受けているのだ。この規模はただのキャンプではなく、ちょっとした街である。


 異人対策のため、協会(トクノー)も運営に関わっていた。キャンプ内協会事務所では異能で悩む異人の支援、保護を行っており、二名のギフターと協会員数名が常駐している。


「南くん。事務所に挨拶していこうね。えーっと……あっちかな」


 華恋は南の袖を引っ張り、事務所へ向かう。南は溜息をついて華恋の背中へ言った。


「……華恋は真面目過ぎると思う」


「あ、ようやく名前を覚えてくれたね。いつも『あんた』って呼ばれて少し傷付いていたの」


 その時、南は人混みの中で知った顔を見付けた。


(あいつは……。電拳のシュウと一緒にいた子供? 確かチェンって呼ばれていたか)


 南の視線が人混みの中で見え隠れするチェンを追う。華恋は急に立ち止まった南を振り返る。


「南くん? 早く行こうよ」


 南とチェンはカリス狙撃事件の時、雨蛇公園で顔を合わせている。チェンが大人二人を宙に浮かせたことは南の記憶に刻まれていた。


(子供にしてはマナ量(MP)が多いし、あの修羅場でも冷静だった。しかも雷火と繋がりがある……か)


「あの子がどうかしたの?」


 華恋もチェンの姿を捉える。南は事件の夜の記憶を辿っていく。


(……あの夜も思ったけど。あいつ、水門(みなと)高原雨夜(たかはらあまよ)と雰囲気が似ている。あいつなら……ファイブソウルズの仲間でも不思議ではないかも)


 華恋は南とチェンの後ろ姿を交互に見た。


「うーん。あの歳にしてはMPが高いかな。どうする? 南くん」


「尾行しよう」


「了解だよ」


 南の横顔を見ながら華恋は答えた。南はいつもの気怠そうな雰囲気が無くなり、覚醒している。


(そうそう。南くんはスイッチが入ると別人になるのよね。副会長の神通力と異能だけでA級に上がったわけではないってことね。稲葉先輩は誤解しています)


 南と華恋は自身に流れているマナを閉じた。相手に気取られないためのテクニックである。背が低いチェンは油断をするとすぐに姿を見失ってしまう。二人は慎重に尾行した。



 ◆



 チェンは段々と人気(ひとけ)の無い区画へ進んでいく。テントはまばらになり、ゴミが散乱する荒れた土地になった。その向こうには柵と有刺鉄線が見える。柵の外側は木が茂っていて、その先は見えない。


「南くん……これは……」


 華恋は前を歩く南へ声を掛ける。ある疑念が胸中にあった。


「そうだね。気付かれているかもしれない。結構距離とってるんだけどな。もっと離れるか」


 南と華恋は一度立ち止まった。周囲には大きい給水タンクが立ち並んでいる。そのタンクの下は日陰となっており、少年が涼んでいた。少年は二人に気が付くとこう言った。


「協会の人? ここは運営事務所から遠いし危ないヨ。早く戻った方が良いと思ウ」


 華恋は屈んで少年と同じ目線になり、笑顔でこう返した。


「ありがとね。キミも家にお帰り。キャンプ内でも誘拐とかあるんだから」


 少年は不満げに口を尖らせた。


「えー、テントの中暑いんだもん。ここは涼しくてお気に入りの場所なんダ」


 華恋は笑顔で少年の頭を撫でている。少年は照れたように笑っていたが、急に真顔になった。


「あ、お姉ちゃん。本当に逃げた方が良いよ。……ほら」


 少年は南と華恋の背後を指差した。華恋が振り返ると、柄の悪い三人組の男が立っていた。黒人の難民である。


「さ、キミは家に帰りなさい」


 華恋は少年を立たせると、その背中を押した。


「う、うん。またね、お姉ちゃん……」


 少年は華恋と南の顔を交互に見た後、テントの方へ走り去った。その場には二人と黒人の三人組が残される。


 三人組は黄ばんだシャツを着用し、ぼろい短パンを穿いている。手には刃渡り十センチ程のナイフを持っていた。


「お前ラ……金持ってるんダロ? 全部渡セ。携帯電話もダ」


 真ん中にいる男がナイフをちらつかせて言う。何てことはない。単なる追い剥ぎである。キャンプ内で支援者が襲われることは珍しくはない。


「女はこっちに来い。男は殺セ」


 南は男達から目を逸らし後ろを振り返った。既にチェンの姿は見えない。尾行は失敗に終わったのである。溜息をつくと南は華恋へ言った。


「華恋は下がっていていいよ。ここは僕が片付けるから」


 南は華恋を守るように一歩前へ出る。大した輩ではない。アイスキネシスで一蹴できる。南はそう判断した。その様子を見て華恋はくすりと笑う。


「南くんっていつもそう言うよね。下がっていいって。女の子を守ってくれる王子様なのかな?」


 華恋は南の横に並ぶとこう続けた。


「ここは私に任せてよ。私だって南くんの役に立てるって証明するから。ラクルテルさんよりもね」


 華恋のワインレッドのロングヘアが風に揺れ、微かに柑橘系のシャンプーの香りがした。

【参照】

南とチェン→第四十五話 絶対零度

稲葉先輩→第五十六話 異能訓練校

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