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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第六十話 異人の中学生

 授業終了のチャイムが鳴り響く。少し間を置いて学校から生徒が溢れ出てきた。ここは氷川南中学校だ。市内で三番目に大きい学校とされている。


 一人の男子生徒が気怠そうに廊下を歩いていた。髪はブラウンに染めており、少しでもお洒落に見えるように髪型はソフトツーブロックである。彼の名を橋本健太という。健太が下駄箱を開けると、手紙が入っていた。


「まさかラブレター!」


 しかし紙には「異人は出て行け」と書かれている。健太は溜息をついた。このような嫌がらせには慣れている。異人差別は未だに根強く残っているからだ。


「うるせーな、好きで異人になったんじゃねぇや」


 健太以外にも多くの異人が通学している。自分だけが標的になっているわけではないけれど、もやもやしたものを感じる。健太は手紙をゴミ箱へ捨てると学校を出た。


 健太は普通人として生を受けた。父は警察官、母は教師である。極々一般的な家庭だった。しかし健太が六歳で異人となり、徐々に家庭が崩壊していくことになる。優しい父親は健太を愛したが、母親が拒絶したのだ。


 夫婦関係は悪化したが、離婚せずになんとか生活を維持していた。しかし、健太が八歳になった頃、麻薬密売の強制捜査の現場で父親が殉職した。それから家族関係は悪化の一途を辿ることになる。


 唯一の味方だった父が死に、健太の精神状態は悪化していく。テレキネシスが暴発し、ポルターガイスト現象が頻発するようになると、母は健太を恐れるようになった。


「……あんたなんか産まなければよかった」


 健太が十歳の頃、母は反異人団体[聖浄会]の職員と再婚した。それから間もなく健太は水門重工(みなとじゅうこう)が運営する児童養護施設、異人自由学園へ入所したのである。


 そこには健太と似たような境遇の子供が沢山いた。歳が近いセドリックは健太の親友である。異能も同じテレキネシスで互いに気が合った。セドリックは難民である。彼は過去を語らないが、健太は深く追求しなかった。誰にも言いたくないことはあるからだ。


「早くバイトをして稼ぎたいな。まずはスマホだ。彼女も欲しいよなー」


 その日の健太はいつも通りコンビニに立ち寄った。月の小遣いは三千円程度なので無駄遣いはできないが、ジュースくらいなら買える。


「今日は何を買うかなー……。ん? あの子は」


 コンビニの駐車場で健太は立ち止まった。


 駐車場と店舗の間に設置されているアーチ型のポールに一人の女の子が座っている。黒いロングヘアを後ろで束ねており、顔立ちはアジア人のように見えた。


(……あの子! めっちゃ可愛いじゃーん)


 少女の年齢は健太と同じくらいである。思わず緊張した。少女には表情がなく、ただただ虚空を見詰めていた。


(どことなくセドリックと似ている……難民かもしれない)


 戦地から逃げてきた難民に共通しているのは悲壮感と虚無感である。


「よ、よう! な、何やってんの?」


 健太は笑顔で声を掛けた。心臓が爆発しそうだ。少女は力なく健太を見るが、何も答えない。


「俺、橋本健太。すぐそこの異人自由学園で暮らしてる。君は?」


 少女の無視にめげず、健太は言葉を続けた。すると少女は異人というワードに反応を示した。


「……異人? キミ、異人なの?」


「あ、うん。そう。それで親に捨てられて施設に入った」


「……あたしも親がいないの。それで遠い国からやって来た。難民なの」


「そっかー。ようこそ、異人街へ」


「コンビニには色んな人が来る。移民も難民も沢山来る……ここにいると寂しくないの」


 少女はまた虚空を眺めた。彼女は美人だった。やつれているが、滲み出る美しさは汚されていない。


「……ジャスミンよ。あたしの名前、ジャスミンっていうの」


 健太は心の中でガッツポーズをとった。


(よし! 名前をゲットだ!)


 そして健太とジャスミンはジュースを飲みながら立ち話をした。健太は親がいない彼女にシンパシーを感じていた。


「へー、妹さんも東銀に来ているんだ?」


 初めは警戒していたジャスミンだが、健太の純朴さに安心したようだ。すっかり打ち解けているように見える。


「ジャスミンちゃんって日本語上手だね」


「あたしも異人だから、日本語勉強したよ。日本のアニメとカリスの歌でね」


 日本は世界で初めて異人を保護した国である。異人になったら取り敢えず日本語を勉強する人が多いのだ。異人の歌姫、カリスが日本贔屓(にほんびいき)であることも異人の訪日を後押ししている。


――それから健太は下校時にジャスミンと会い、関係を深めていったのである。時にはセドリックも顔を出し、たまにジャスミンの妹も遊びに来た。


 ちょっとしたコンビニ前の出会いから難民との絆を育んでいく。孤児や難民、彼等に共通しているのは世間からの疎外感、そして孤独である。似ているからこそ互いを求め合う。そのような彼等を誰も責められない。人は独りでは生きていけないからだ。

【参照】

カリスについて→第十四話 シャーロットの憂鬱

水門重工について→第五十話 水門重工

異人自由学園について→第五十三話 異人自由学園

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