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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第五十七話 アルテミシア騎士団長

 黒川亜梨沙が議長席で会議を進行している。その内容は任務の進捗率や結果、等級が上がったギフターの人数とその内訳、最近の異人街での事件など、様々である。正直、眠くなる話だ。


 一番後ろの席には黒川南、フィオナ=ラクルテル、朱雀華恋が座っていた。女子達は真面目に会議を聞いているが、南は眠気と戦っていた。


 隣に座っているフィオナが南に耳打ちをする。


「……南。眠かったら氷を出して頭を冷やせば良いんじゃない?」


 それを聞いた華恋が止めに入る。


「ラクルテルさん。そんなことしたらマナの動きで会場中にばれちゃうよ。みんなA級以上なんだから……。南くん、ミントの飴あげようか?」


 南は何かと世話を焼こうとする両隣の女子が鬱陶しかった。無視をして居眠りを敢行しようとした時、会議室の扉が開いた。会場がにわかにざわめく。


 フィオナが反応した。


「……団長」


 会場に姿を現したのはアルテミシア騎士団長である。会場中の視線を集めながら静かに議長室へ歩みを進める。男は癖のある赤髪で彫りの深い顔をしている。目つきは鷹のように鋭い。そこにいるだけで鋭いマナを感じる。


『あー、クートー! 遅いわよ! もう始まっているんだから!』


 亜梨沙がマイクで叫ぶ。クートーと呼ばれた男は表情を変えずに席へ着いた。


 クートー=インフェリアはアルテミシア騎士団の団長であり、S級のギフターでもある。【王殺し(クロノス)】の異名を持ち、その実力は協会内でもトップクラスと言われている。


 前の席に座っている稲葉が嬉しそうに話している。


「団長かっこいいよな。エレメンターじゃなくてサイキネとテレキネでS級になったんだぞ。やっぱ無属性が強いんだよ」


 稲葉の横に座っている男がそれに答える。


「エレメンターは属性持ちだから気候と地形に左右されるけど、サイコキネシスは安定しているからな。ポピュラーな異能だけど極めれば協会でトップになれるってことだよな」


 稲葉達の話を聞いて、華恋が南に耳打ちする。


「エレメンターは範囲攻撃が強いんだけどね……。ねえ、南くん?」


 朱雀華恋はパイロ系のエレメンターである。彼女は同じエレメンターである南にシンパシーを感じていた。南は気怠そうに答える。


「……エレメンターは技の規模が大きいから疲れるけどね。排マナ出まくるし。まあ、どうでもいいよ。……眠い」


 横にいるフィオナが華恋に言った。


「南のアイスキネシスを私のサイコキネシスでフォローする……。私達は相性良いのよ。南は私が守るの」


 フィオナは銀色の瞳で華恋を見ながら堂々と宣言する。華恋はそれをさらっと受け流す。


「そうですか? パイロとアイスは逆属性だから短所を補えると思うんですよね」


 南を挟んで二人の女子が言い合いをしていると、議長席の亜梨沙が注意をした。


『ちょっと後ろの二人! 私語は止めなさい! ……まったく。はい、じゃあ次の話ね』


 スクリーンに氷川市の地図が映し出され、異人組織のデータが表示された。


『最近、龍尾と龍王の縄張り争いが活発になっています。近々、抗争が起こると言われていて、アルテミシア騎士団、金蛇警備保障、警察と連携して見回りを強化しています。だから今日はクートーに来てもらいました』


 亜梨沙の隣に座っていたクートーが話を引き継ぐ。


『……抗争のきっかけとなったのは先月の異人喫茶の爆破事件だ。店内で龍尾のシンユー、龍王の後藤が鉢合わせ、暴動に発展。そこでオーナーの八神の制裁が下され店は半壊。監視カメラが無いので映像は残っていない』


 議長席の一番端に座っているフェルディナンがこう付け加える。


『観光客の証言で現場から走り去った車が目撃されています。旧市街で乗り捨てられているのを発見しましたが盗難車でした。未だ事件との関連性は不明です』


 中央に座っている亜梨沙が発言する。


『異人喫茶のスタッフは何も証言しませんでした。……まあ、緩衝地帯の彼等は常に非協力的です。とにかく二大勢力の抗争が本格化する前に対処したいところですね』


 南は眠そうに話を聞いていた。


――異人喫茶の事件の時、南とフィオナは現場付近にいた。任務でカリスを監視していたからである。しかし、その場に電拳のシュウがいたことは伏せられていた。


 その事実を知っているのは協会内でもごく一部だ。ストーカーの白石武彦は既に協会が管轄する病院へ移されているが、白石のダークマナ中毒は改善しておらず、捜査は難航している。


『抗争に備えて、我々協会は、金蛇警備、アルテミシア騎士団と実戦を想定した訓練を雨蛇公園で実行しました。その時の成績が非常に優れていたので、黒川南は今月A級に昇格しました。おめでとー!』


 亜梨沙が満面の笑みで南を見ている。南の両隣でフィオナと華恋が拍手をしていた。稲葉が面白くなさそうな表情で南を振り返る。何か言いたげだったが、視線を前に戻した。


『はい、じゃあ最後の議題です。うーん……これはある意味、抗争よりも厄介なのよね。クートーお願い』


 隣に座っているクートーがマイクを持った。


『君たちもニュースで知っていると思うが、水門重工が管理している福祉事業所で爆発事件があった。職員一人が重傷だ。どうやらこの事件にはテロ組織が関わっているらしい。犯人からのメッセージがこれだ』


 スクリーンにファイブソウルズと書かれた紙切れが映し出された。会場内がざわつく。


(ファイブソウルズって自爆テロ組織だよな?)


(ああ、でもアメリカを標的にしてなかったっけ? 何で日本に?)


(あーん、怖いなー。アメリカと仲良しだから、巻き込まれたんじゃないのー?)


(難民政策がザルだから犯罪者が紛れ込むんだよ。西洋連合の歴史から学べよな、マナ国党は)


 ざわつきが増す中、亜梨沙は席を立って大きな声で発言した。


『はいはい! みんな、静かにしてー。この件に関しては警察と協力して捜査を進めます。勿論、水門重工のフォローもしますよ。危険が伴う任務なのでBBB級以上のギフターでチームを組みまーす』


 会場内の動揺は収まらなかった。その後はファイブソウルズについて詳細なデータを見せられ、一時間ほど解説が続いたのである。

【参照】

異人喫茶の事件→第三十話 鬼火の後藤

白石の中毒→第三十四話 闇へ誘う女

雨蛇公園の訓練(仮)→第四十六話 雷火のラン

福祉施設爆破事件→第五十五話 水門の姫

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