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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第五十六話 異能訓練校の劣等生

 異能訓練校の正式名称は特殊能力開発校である。初等部、中等部、高等部、大学部が存在し、念動力系コース、精神感応系コースに分かれる。優秀なギフターを養成する学校だ。


絶対零度ニーズヘッグ】の異名を持つ黒川南は教室でぼんやりと空を眺めていた。異人の歌姫カリス監視の任務が終わり、溜まったレポートを片付けているのだ。


(……面倒くさいな。勉強嫌いなんだよ、僕は)


 南は寝癖のある黒髪で、まだ幼い顔立ちをしている。気怠そうに欠伸をして机に突っ伏した。訓練校では何かと悪目立ちをする劣等生だった。


 今は放課後である。一通りの授業は終わり、ギフターを含む能力者は、任務へ行く者、異能の訓練をする者、帰宅する者……、各々の時間を過ごす。


「お疲れ様です。南くん。A級昇格おめでとうございます」


 机に突っ伏している南に声を掛ける女子生徒がいた。ワインレッドのロングヘアを、ハーフアップにしてクリップで留めている。お洒落な女の子である。


「……」


 南は彼女の名前を思い出そうとするが、苦戦している。悩みながらそのまま寝てしまいそうな気配すらあった。女子生徒は苦笑しながら名乗った。


朱雀華恋(すざくかれん)です。一応、クラス委員だよ。南くん」


「……何か用? 眠いから寝かせて欲しいんだけど」


「あはは。A級ギフターに昇格したのでしょう? これで私と同じだね」


 華恋はそう言うとにこっと笑った。南は先月の【雷火(フルゴラ)】との実戦経験が評価され、BBB(トリプルビー)級からA級へ昇格していた。その戦闘で重傷を負ったが、既に回復している。


「でも心配したよ。深手を負って入院してしまうんですもの。ラクルテルさんより私と組めば良かったんじゃないかな」


「フェルディナンに言われたから組んだだけだよ。別に僕は誰でもいいんだ……面倒くさいし。はぁ……帰ろ」


 南はそう言うと席を立ってレポートをリュックにしまった。


「南くん。寮に行くなら一緒に帰ろうよ」


 南と華恋が教室を出ると、そこにフィオナが立っていた。銀髪と銀色の瞳が目を引く。無表情な少女だ。


「……南。そっちも終わったんでしょう。迎えに来たわ」


 フィオナは華恋の方に視線を移した。


「朱雀さん。南に何の用?」


「ん? クラスメイトだから一緒に帰るだけだよ。ラクルテルさんも一緒に帰ろ」


 フィオナはじっと華恋を見ている。その表情から感情は読み取れない。華恋の方もにこにこしていて逆に感情を読みづらい。二人とも心の底が見えない少女である。


「フィオナ、何か用なの? 別に呼んでないんだけど」


 南は気怠そうにフィオナに尋ねた。


「さっき副会長から言われた……。A級以上のギフターはブリーフィングルームに集合だって。メール届いていると思う……。だから迎えに来たの」


「そっかー、南くん。A級に上がって初めての会議だ」


「……じゃあ三人で行きましょう。南、ついてきて。ちょっと遠いから」


 フィオナを先頭に三人は歩き出した。



 ◆



 ブリーフィングルームは本部の九階にある。百名ほど入れる会議室だ。室内には既にA級ギフターが集まっていた。


 議長席には副会長であり南の姉、黒川亜梨沙の姿が見える。隣には事務局次長のフェルディナン=ルロワが座っていた。


 亜梨沙は南に気が付くと人目を気にすることなく笑顔で手を振った。南は面倒くさそうに目を逸らして溜息をついた。華恋はその様子を隣で見ていた。


「副会長が南くん大好きだって噂は本当だね。南くんはどう思っているの?」


 華恋は面白そうに南を見る。


「……別に。どっちかというと苦手だよね。姉さんは」


「あはは。そうなんだ! シスコンじゃないんだね」


 三人は一番後ろの席についた。すると前に座っていた男が振り返る。


「お前が黒川南か。最近A級に上がったって?」


 男はウェーブがかかったブラウンヘアを掻き上げながら、面白くなさそうに南を見た。


「お前さ。副会長の庇護がなければC級くらいなんじゃねぇの? サラブレッドに実力がないってよくある話だよな。絶対零度に到達したってのも嘘だろ」


 モデルのように整った顔をしているが、嫌味な男である。南に対してあからさまに嫌悪感を出しているのだ。


「……誰?」


 南の質問に茶髪の男は眉をしかめた。プライドに触ったらしい。隣にいる華恋が耳打ちする。


「そろそろAA級(ダブルエー)に上がるって噂の稲葉先輩だよ。異人の友社でモデルもやってるみたいだよ」


「あ、そう。……興味ないけど」


「協会のサイトでギフターのランキングとか見られるから見ておいた方が良いよ。派閥もあるし。うまーく立ち回ろう。ね?」


 南は無反応である。慌てて華恋がフォローに入った。


「稲葉先輩、ごめんなさい。黒川くんは今日初めて会議に参加するんです。もともとコミュ障なので……」


 華恋は申し訳なさそうな表情で稲葉を見詰めた。稲葉は面白くなさそうに、南の両脇に座っている華恋とフィオナを見る。


「女に守ってもらうってどうなのかねぇ」


「おい、稲葉。もうよせって。新人じゃねぇか。それに副会長に睨まれてみろ。この協会でやっていけねぇぞ」


 稲葉の横に座っていた男が間に入り、その場は収まった。


 華恋はそっと南の方を見た。今にも寝そうな雰囲気だ。反省をしていなさそうである。そしてその向こうのフィオナを見た。鋭い目つきで稲葉の背中を睨んでいる。


(私がフォローしないとラクルテルさんがレイピア抜きそうな雰囲気だったんだよねぇ)


 華恋はほっと胸を撫で下ろした。


『はーい。それでは会議を始めるわよー』


 亜梨沙がマイクのスイッチを入れ司会を進行する。会議室が暗くなりスクリーンに映像が映し出された。

【参照】

異人の友社について→第十二話 せっかく異人の友社に入社できたのに私の知能が低すぎる件【落合茉里咲】

南の実戦経験→第四十六話 雷火のラン

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