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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第三章 ファイブソウルズ ――旧市街抗争編・龍尾vs龍王――
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第四十八話 サルティ連邦共和国

 ヤミとアフィは仲が良い兄妹である。十人家族の長男、長女として生まれた。


 兄のヤミは十二歳で、親の農作業を手伝いながら、建設現場で働いている。安全対策がされていない過酷な現場だが、村には仕事が無いので貴重な収入源となっている。


 アフィはまだ九歳だが、下の子達の世話をしながら、縫製工場で働いていた。学校は働くために辞めている。「家族を支えるため」と、自主的にそうしたのだ。


 ヤミはパイロット、アフィは医者になる夢があったが、遠い未来より目の前の飢えである。同居している祖父と祖母は体調を崩しており、長男、長女の役割は大きかった。


 二人はサルティ連邦共和国とパキン共和国の国境付近のサガ村に住んでいる。


 サルティは百以上の民族が暮らす多民族国家だ。貧しい国だが、眠っている地下資源の利権問題、また地政学的に重要な場所に位置していることもあり、近年注目されていた。


 ある日、ヤミは親の田仕事を手伝っていた。かんかん照りで日差しを遮る物が無い。とにかく暑かった。本来、田んぼは女性の仕事だが、そう言っていられないほど人口が減少している。


 途上国の人口が増えていると言っても、それは都市部に集中しており、郊外はその限りではない。サガ村も例外ではなかった。


「相変わらずだけど、サガ村は暑いなぁ……」


 ヤミは凝り固まった腰を叩き、田んぼを出て木の下へ避難する。サボっているわけではない。これは熱中症対策である。ヤミは寝っ転がり目を閉じた。


 山から涼しい風が下りてくる。さわさわとヤミの頬を撫でた。サガは山間部に位置する小さな村である。農業が盛んだが、貧しい。村民の絆は強く、力を合わせて日々を生き抜いていた。


「ヤミ。暑い中、お疲れ様。お茶とお菓子持ってきた」


 その声に目を開けると、妹のアフィが下の子をおんぶして立っていた。手には日本アニメのキャラクターがプリントされたエコバッグを持っている。中には軽食が入っているようだ。


 アフィは赤色のくせ毛でつんつんと髪がはねている。目はぱっちりとしていて可愛らしい。しっかりとした眉で目鼻立ちがはっきりとしている。


 普段は工場で働いているので、そこまで日焼けはしていない。彼女は腰丈のブラウスを着用し、足首まである巻きスカートを穿いていた。


「アフィ、ありがとう。チビの面倒は大変じゃないか?」


「うん、大丈夫。お父さんもお母さんも大変だから、あたしが頑張る」


 ヤミはアフィを隣に促した。二人で木陰に座り田んぼを眺める。


 日向と日陰ではかなりの温度差がある。地球温暖化という現象らしく、世界連合が何やら喚いているが、興味はない。


 今から対策をしても、百年は気温が上がり続けるらしい。自分の未来も分からないのに、百年後なんてどうでもよかった。世連せれんで勝手にやってほしいと思う。


「アフィ、学校に行きたくないのか? オレが働くから、お前は勉強していてもいいんだ。医者になりたいんだろう?」


 ヤミはお茶を飲みながら、アフィに声を掛ける。アフィは笑顔で答えた。


「ヤミにだけ負担を掛けられないよ。皆で助け合うのは当然のこと。あたしの夢は村がもっと元気になることだね」


 アフィは笑顔で答える。まだ九歳だが考え方がしっかりとしている。子供の世話だけでなく、祖父母のフォローもしている。ヤミは彼女を心配しているが、自分も働いており余裕が無く、頼ってしまっていた。


 ヤミはアフィの背中にいる弟を見る。呑気に寝ているようだ。しかし、成長が遅い。食糧が足りていないのだ。


 ヤミは弟の頭を撫でながら呟いた。


「もっと沢山食わせてやりたいんだけどなぁ……」


 現在、世界は食糧危機を迎えている。度重なる戦乱、異常気象により、農作物が不足している。希に政府から配給があるが、近年勃発した東欧の戦争により、最近は滞っていた。


 今は基本的に一日一食だ。両親、ヤミ、アフィが働いているが、生活は豊かにならない。下の兄妹達は廃品を拾って売り、物乞いをして家計の足しにしてくれている。


 ヤミは長男の責任を感じている。貧しいまま人生を終えるつもりはない。


(オレがしっかりしないとな。一杯稼いで、将来は首都へ引っ越すんだ。家族全員を連れて!)


 休憩を終えて、ヤミは立ち上がった。アフィに手を振り、田へ戻っていく。空を見上げると、相変わらずの直射日光である。


 真っ青な空、青々とした山々、眼前に広がる田畑……、サガ村は貧乏だが平和であった。世論からは最後の楽園と称され、それに違いはなかった。


 夕方になり、ヤミは家に帰った。風通しの良い木造である。約十畳の部屋に十人家族で住んでいるのだ。家に電気はないので、火の明かりが頼りだ。


 父と母、兄妹達が笑顔で出迎えてくれる。この笑顔のために頑張れる、ヤミは毎日そう思っていた。母は美人だが表情が疲れ切っている。ヤミはその顔を見ると胸が痛くなるのだ。


 祖父母は部屋の奥で寝ている。祖父は認知症を患っており、寝たきりだ。時折、ヤミの言葉に反応して笑顔になる。祖母は腰が痛いらしく動けない。看病はアフィがやっている。


「ヤミ兄! ご飯できてるよ!」


 そう言って駆け寄ってくるのはアフィの下の妹、リィだ。まだ六歳だがしっかりしている。


「おー、いつもありがとう! 食べようか!」


 ヤミは兄妹達を抱っこしながら、疲れが癒やされていくのを感じていた。必ず今の生活から抜け出して幸せになる。ヤミは改めて決意をしたのであった。

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