第四十二話 二回目のデート
シュウとシャーロットは午後四時に氷川駅前で待ち合わせをした。住居は同じだが、敢えて別々に家を出た。リンが冷たい視線を向けてきたが無視をした。
シュウは氷横でスーツを新調し準備は万端だ。三時半には駅前のベンチに座っていた。リンとチェンはデートコースを知っているので、どこかで見ているかもしれない。
(えーっと、まずは肉か魚か選んで……、ドリンクを決めて……。えっと、パンはお代わり自由だけど程ほどに。ナイフとフォークは外側から使っていく……)
シュウはスマホでテーブルマナーの予習をしている。ディナーさえ済ませれば、後は気楽な散歩である。
「シュウさん。お待たせしました!」
顔を上げると、シャーロットが立っていた。ライトブラウンの髪をふんわりと結っておりブルーのリボンを付けている。リボンに合わせたロイヤルブルーのワンピースを着ていて、いつもよりエレガントな雰囲気であった。
「あー、シュウさん! スーツ似合っています! 素敵! 卒業式みたいで可愛い!」
シャーロットは顔を輝かせて褒めてくれる。いや、褒められているのか微妙なところだ。最近は弟を見るような目で見られているような気もする。
「シャーロットさんも……。に、似合ってます。とても奇麗ですね」
シュウはベンチを立ってシャーロットを褒めた。正装した二人が顔を赤らめて照れている姿は、駅前で浮いていた。
「じゃ、じゃあちょっと早いけど雨蛇へ行きましょうか! 参道には色々なショップがありますし、時間を潰せますから!」
シュウは周囲の視線を感じながら、シャーロットをエスコートする。とても緊張していた。本気のデートは初めてである。
シャーロットは笑顔で腕を組んできた。シュウは心拍数が上がるのを必死で抑えながら、平静を装って歩き出す。神社までは徒歩二十分ほどである。それまでの会話の話題が切れないようにするので必死だ。
――少し離れた所でリンとチェンがその様子を見ていた。シャーロットが一瞬こちらを見たような気がしたが、気のせいかもしれない。リンははらはらしながら二人を見守り、チェンは面白そうにその様子を見ていた。
「チェン。兄さんは大丈夫ですよね? きちんとした服を着て何も喋らなければ、もともとは格好いいんですから。身体は引き締まっているし……。うん、格好いいはず。……素敵!」
リンは胸の前で手を組んでシュウの正装をチェックしている。見惚れているのか緊張しているのか、どちらとも言えない複雑な表情をしていた。
「そうだね。兄貴は格好いいと思うよ」
チェンは本心を述べた。ただ、チェンは外見ではなく、戦闘中のシュウに惚れ込んでいる。雷火の弟子にして、エレキ系のエレメンター。マナを操る技術には天性のものを感じさせる。あの戦闘能力は遺伝によるものだと確信していた。
師匠のランは何かを知っているはずだが、チェンは敢えて詮索していない。世の中には開けてはいけない箱が存在することを、情報を商品として扱うチェンは深く知っていた。
「まあ、リン姉。住む世界が違いすぎる二人だから成就しないかもしれないけど。振られたら残念会をしよう」
チェンはリンの背中を突っついた。リンは二人を見守りながら答える。
「何言っているのですか? チェン。あんなに格好いい兄さんを振る女性なんていませんよ。いたら私が制裁を……」
応援しているのか邪魔をしたいのか、リンの本心が掴めないチェンは、この会話を打ち切り、真剣な眼差しを兄へ向ける彼女の横顔をこっそりと見る。
(……リン姉も謎が多いんだよな。調べても何も出てこない。<サイコメトリー>はいいとして、あっちの異能は……)
リンとチェンの二人は、前を歩く二人を見守りながら尾行を開始した。空はうっすらと暗くなり、東銀はネオンが目立ち始める。夜の街の喧騒が辺りを包み込んでいく。