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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第四十一話 デート当日の早朝

 雨蛇町(あまへびちょう)には雨蛇神社が存在し、東銀、一宮双方の異人や普通人が参拝している。異人街の中では比較的争いが少ない緩衝地帯となっている。神のお膝元では争わないということかもしれない。


 人気スポットである雨蛇公園には森や池、日本庭園があり、都会にいながら自然を楽しめる。八十ヘクタールの面積を誇る都市公園で、雨蛇神社はその敷地内に建っていた。


 シュウとシャーロットのデートプランは、ホテルの中にある高級フレンチ「ザ・グラン・雨蛇」で食事をして、雨蛇公園を散歩する……というシンプルなものである。


 デート当日の早朝、シュウは自室で頭を抱えていた。目の前には呼び出したチェンがいる。


「兄貴、プリンスタワー・AMAHEBIって一泊十四万円するホテルだろ? そこのフレンチで食事するの? スラム出身の兄貴が? コース料理食べたことないでしょ」


 チェンの言うことはもっともである。シュウはナイフとフォークの使い方を知らない。


「……ああ。問題はそれだけではない。服が無い!」


 シュウの服装は甚平かパーカーである。これだと入店を拒否される可能性があるらしい。


「いっそのこと、甚平で行けば良いんじゃない? 正攻法で無理なら笑いを取るんだ!」


「笑いを取っても店に入れなきゃ意味が無いだろ! その前に緊張して失敗しそうだし! お前もついてこいよ! マジで」


「リン姉には言うなって言われてるけど、二人で後をついていくことにしたから。さすがにホテルまでは入れないと思うけど、外で待ってるから。良い雰囲気になりそうだったら帰るよ」


「そ、そっか。それは心強いな。でもシャーロットさんは異常に勘が良いから気を付けてくれ。……ということは、服さえ何とかすればいいか」


 シュウはスマートフォンで情報収集を開始した。神速のスワイプ&タップでサイトへアクセスしていく。今回ばかりはリンを頼れない。兄としてのプライドがある。


「おい、チェン。お前ガキだけど情報屋として色々な場所へ行くだろう? こういう時は何を着ていけば良いんだ?」


「スーツで良いんじゃないの? 買ってきなよ」


「なるほどな。こんな朝早くからやっている店というと……氷川横丁だな。質は悪いが、何でも揃う」


 氷川横丁は氷横とも呼ばれる商店街である。東銀の観光スポットの一つだ。以前ここでスズメバチの防護服を買ったが、不良品で酷い目に遭ったことがあった。しかし、スーツを買うくらい大丈夫である。


 シュウは勢いよく立ち上がった。その顔は使命感に燃えている。


「そうだ、兄貴。服も大事だけど食事のマナー気を付けなよ。クチャクチャそしゃく音出したり肘をついたり。クチャラーは女性に嫌われるらしいよ」


 チェンも立ち上がった。


「この前、シャーロットさんと中華料理店に入ったけど、食べ方がキレイだったから。て言うか、お行儀が良すぎて逆に浮いていたからさ。野暮ったいヒゲの店長が恐縮してたからね。兄貴の下品な犬食いは引かれるんじゃない?」


 思い当たる節が無いこともない。シャーロットとは何度も食事を共にしたが、たまに珍しいものを見るような顔をしていたことがあった。すぐに笑ってくれたので、それで良いと思っていたが、フレンチともなるとそうはいかない可能性がある。


「ああ、クソ! お師匠にはテーブルマナーまでは習わなかったよ! 習ったのはスラムの流儀と戦闘だけだ」


「じゃあ、兄貴。朝食は異人喫茶でコースを食べよう。付き合うから奢ってくれよ」


 異人喫茶はエスニック系の創作料理がメインだが、洋食も食べられる。この間の事件でシュウの顔は知られているが、オーナーの八神なら出禁にはしないはずだ。


「まあ、割った窓ガラスの修理費は出そうかな。あの時は逃げちまったから。まずは謝って、美味しい料理を出してもらおう」


 シュウとチェンは今晩のデートの準備のため、便利屋の事務所を後にした。まずは氷横へ服の調達に向かうことにしたのである。

【参照】

異人喫茶の窓ガラスを割った→第三十話 鬼火の後藤

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