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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十六章 灰色の毒 ――船の墓場炎上編――
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第三百九十話 血剣旅団の女幹部

 繁田が先頭、遠藤が真ん中、ヤオが後ろの配置で魔龍街を歩いていた。入り組んだ階段を上がっていく。エレベーターはない。途中で住人とすれ違うが、意外なほど明るい笑顔が見られた。


 すっかり遠藤と打ち解けた繁田が自慢げに解説する。


「ガイドブックじゃ色々叩かれているけど、住んでいる奴等は逞しいぜぇ! ほら、駅前の高級ホテルの中国料理! あそこの点心とか肉団子はココで作っているんだから! ネズミが走り回っている厨房で! ははは! 原価の安さならどこにも負けないよ」


 ビルの集合体のような街だが飲食店やスーパー、学校や老人ホームまであった。しかし敷地(スペース)が限られているため、場所は使い回されている。昼間は幼児園だが夜は風俗店に変わることもある。そこには児童買春ツアーの客が頻繁に訪れるのだから合理的とも言えた。


「あ、病院も入っているんですね。凄いな」


 遠藤が古い病院を見て感嘆の声をあげた。


「言っておくけど無免許の闇医者(モグリ)だよ! でも安いから街の外からも患者が来る。どうだい、旦那! どっか診てもらいますかい?」


 そこでヤオが口を挟んだ。


「うふふ、遠藤さん。駄目だよー、安いからって飛びついたら。油断すると眠らされて臓器抜かれる。そのまま永眠、死体になってるよん。そうでしょ?」


 繁田がニヤリと笑う。


「へっへっへ、さすが姐さん。よぉくお分かりで。あなた、ボクと同じで腐ったドブの匂いがプンプンしますわ。そそ、特に旅行者は狙われるね。いなくなっても誰も騒がないっしょ? 解体(バラ)されて売られちまいますわ」


 いくつもの通路を抜けて階段を上がっていく。夜のように暗い廊下。古い蛍光灯が音を立てながら点滅していた。まるで迷宮のようで、帰り道を覚えていられない。ガイドブックに書いてあるとおり、確かに一度入ったら出てこられないかもしれなかった。


「ここっすね。入りやしょう」


 前を歩く繁田が部屋の前で立ち止まった。



 ◆



 そこはボロいが広かった。この人口密度でこの面積、そして中階層。それなりの規模を持つ組織であることが伺える。部屋の中にはソファーとローテーブル。チャイナ服の女が座っている。その背後には大柄の男、更に壁側に二人、窓側に二人の護衛が立っていた。


「失礼します」


 遠藤は流暢な中国語で挨拶するとソファーに座った。その横に繁田が座る。女と向かい合う形となった。ヤオは遠藤から少し離れた位置に立つ。


(この匂いは……大麻ですか)


 独特の甘い香りが漂っている。卓上の煙草(ジョイント)から妖しい煙が立ち上っていた。遠藤は一瞬目を奪われたが、すぐに女を見据えた。


「はじめまして。私は龍王の遠藤と申します。いやぁ、良い街ですねえ。とても活気があってエキサイティングです。是非、地下のレストランで食事をしてみたいなぁ」


 社交辞令を聞いて大柄の男が鼻で笑った。背広組(ホワイトカラー)にしか見えない遠藤は完全に見下されている。野犬の群れの中に座敷犬が放り込まれたような構図になっていた。


 女が艶のある声で答える。


「私はユエ。後ろの彼は護衛のベンだ。ようこそ日本人。歓迎するよ」


 ユエは妖美な微笑みを浮かべた。遠藤は緊張を隠すために大きく頷く。彼女に押されたわけではない。


(これは賭け……でも大丈夫。必ず上手くいく)


 緊張の原因は後ろに控えるヤオであった。本人は無自覚だが今回の商談のキーパーソンがヤオだからだ。


「私は血剣旅団の幹部よ。女だから威厳なんてないけれど」


 血剣旅団(けっけんりょだん)――中国系の武装組織だ。拠点は世界各国にある。念動力系(サイコキネシス)武器生成型の異人が多く在籍しており、気が荒いことで有名だった。


(ここからが私の勝負(ビジネス)です)


 遠藤は静かに深呼吸をすると、テーブルの下で握る拳に力を込めた。

【参照】

遠藤が中国に来た理由→第三百十六話 狂女の哄笑

血剣旅団→第三百二十三話 清原の潜入捜査

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