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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十五章 サイレントキラー ――氷川四中抗争編――
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第三百八十八話 久遠の時を越えて

 氷川四中抗争から三年経ち私は十五歳になった。施設を出て便利屋金蚊に就職し半年以上経つ。その前から仕事を手伝っていたので体感的には一年以上だった。


 その晩、私は夕飯を終えて部屋に戻った兄を訪ねていた。


「兄さん、入っていいですか」


「別にいいけどさぁ。リンお前、兄離れして彼氏つくれよ」


 幾度となく繰り返してきたやり取り。面倒くさそうな顔でドアを開ける癖は変わらない。最近は彼氏彼氏うるさくなってきた。きっと兄は私に恋人ができても妬いたりしないのだろう。


「俺、怠いんだよなぁ。あまり構ってやれねーからさっさと部屋に帰れよ」


 そう言ってバフッとベッドに腰掛ける。先日ソフィアを助けるためにバカでかい出力の<火花(エタンセ)>を放った反動で排マナ中毒と倦怠感に悩まされているようだ。いつもより素っ気ない。


 もともとツンデレ気質のある兄だが中学の頃はツンのピークだった。いつも突っ張っていた。しかしサイレントキラー事件後は私の方が優位かもしれない。兄は嫌がりながらも私のワガママを聞いてくれるからだ。


「暑いからあまり寄るなよ」


 兄はフェミニストだが年下の女子を雑に扱うことがある。星の家の児童を世話していたからだろう。雨夜、ソフィア、そして私。彼女たちの恋心に気が付かない朴念仁だ。


 兄が動揺する相手は同い年か年上の女性が多い。ラン、シャーロット、ココナ、フィオナ、アリス。ランはスタイルが抜群に良い。特に胸。シャーロットはアメリカ人でスタイルが良かったし、ココナも日本人らしくないメリハリのある身体をしている。フィオナとアリスはフランス人だから言うに及ばず。


 それに比べて私は――まだ成長期だ。多分これから大きくなる。三年前よりは大人になっている。童顔なので、せめて敬語を使って大人感をアピールしているのだが。


 兄は私から少し離れるとAIアシストのドラクサに話し掛けた。


「ドラクサ、テレビ点けて」


 しょっぱなからドラマのラブシーンだった。兄は舌打ちをしてチャンネルを変える。歌番組だ。人気マイチューバーのミチノ。映っているのはアバターで素顔は不明だ。兄はボーッと画面を観ていた。私など眼中にないらしい。


「失礼します」


 兄の肩に頭を乗せた。「お前なぁ……まあいいけど」何かを言いかけて止めた。私は兄の性格を知っている。最後には折れる。


「……今何を考えているのですか?」


「ん?」


「悩んだ顔をしています」


「そうか」


 兄の目はどこか遠くを見ていた。


協会(トクノー)の副会長から聞いた。シャーロットさんの事件の捜査で進展があったらしい。もし俺がギフターになれば……」


「なんですか?」


「いや、なんでもねぇ。そろそろ寝るかな」


 兄は言葉を濁した。そう言えば異能交流試合の後に黒川亜梨沙と話していた。何かを吹き込まれたのだろう。また年上の女性ですか――私は目眩がした。


「……久しぶりに一緒に寝ていいですか?」


「駄目に決まってんだろ。十六と十五だぞ。さすがにアレだろうが」


「今夜は帰りたくないの」


「さっきのドラマみたいなこと言うな」


「駄目……ですか?」


「ぐ……」


 兄が怯んだ。視線が泳ぐ。アレってなんですかと追究しようとしたら先に兄が折れた。


「お、お前が寝るまで一緒にいてやる! そしたら俺はお前の部屋で寝るからな!」


 え! 兄が私のベッドで? それはそれで私の性癖をくすぐるシチュエーションですね。えへ。


「じゃあ一緒に寝ましょう」


 くっついたまま寝ればいい。きっと兄は私を振りほどけない。兄は優しい。荒れた時期もあったが根っこは変わっていない。


「リン、ちょっといいか」


 兄はベッドに入ると私の顔に手を添えた。


「え?」


 私は緊張して固まった。これはもしかして私に大人の女性の魅力が……!


「お前……目、赤くなってねーよな?」


「大丈夫ですよ。髪だって灰色じゃないでしょう」


 どうやらサイレントキラー事件がよほどトラウマになっているらしい。ある意味、虚空(ケノン)に感謝ですか。兄が私に甘いのは罪悪感から? ううん、それは深い愛情の裏返し。


「兄さん……今、好きな人いるんですか?」


「修学旅行かよ!」


 ずっと一緒にいたい。ずっと愛していたい。ずっとずっとずっと。もしあなたが死んだら私も死にます。あなたが誰かに殺された時はその誰かを殺して私も死にます。それが運命と宿命、そして天命――中学校から、小学校から、幼稚園から、物心が付く前から、いや。千年前から――久遠の時を越えて廻り続ける輪廻の輪。


「おやすみなさい」


 私は幸福に包まれながら目を閉じた。

【参照】

ミチノ→第二百十六話 ホームレスの説教

シュウは年上好き→第三百二十五話 白雪カノンの依頼

副会長から聞いた→第三百四十一話 彼女の事件を追っている

シュウの火花→第三百六十八話 予測不能なノイズ


――あとがき――

いつも読んでいただきありがとうございます。

氷川四中抗争編はこれで終わりです。

これまで触れてこなかったシュウとリンの過去を書きました。

テーマは思春期の葛藤と郷愁、狂っていく少女、サイコパス。

ただの学園ものになっても平凡(?)なのでドラッグネタを混ぜてみました。

速いテンポを意識したので途中ダレることなく書き終えました。


さて、明日から新章がスタートします。

文字数多め、アングラ全開、キャラ・組織多数。

よろしくお願いいたします。


荒野悠

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