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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十五章 サイレントキラー ――氷川四中抗争編――
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第三百八十三話 音が消えて少女が嗤う

 ここは真っ暗……手を伸ばしても、光とか希望なんてない。もうなんも見えない。見たくない。寒い。ここにあるのは失意と絶望、そして死――どこまでも堕ちていく……どこまでもどこまでもどこまでも――お兄ちゃんがいない世界にいる私なんて消えてしまえばいい。


 リンはゆっくりと目を開けた。その倉庫にはぼんやりと明かりが灯っている。秋野と不良達が十人ほどいて何やら揉めていた。リンは隅の方で膝を抱えて座っている。冷たい床でお尻がひんやりとする。秋野に暴行を加えられ身体中が痛んだ。


「……お兄ちゃん」


 今日ここで私が傷付いたら……お兄ちゃんは私を独りにしたことを後悔して、昔みたいに優しくなってくれるかな……抱きしめて頭を撫でてくれるかな……もうどこにも行かないって約束してくれるかな。ううん、私は嫌われちゃったから、愛が重すぎて引かれちゃったから、きっとお兄ちゃんはここには来ない。


「お前らさぁ、女一人ヤれねーのかよ! シュウが助けにきて、可愛い妹がヤられてる最中だったらマジ笑えんじゃん? 誰でもいーから犯せよ!」


 秋野が不機嫌そうに怒鳴った。しかし不良達はその異常なテンションに引いている。


「い、いや。勘弁してくださいよ」


 リンを暴行しろと命令されても手を挙げる者はいない。外見はいかつくても中身は中学生だ。未成年で犯罪者になりたくないし、何よりもシュウの報復が怖かった。既に河川敷で勝敗が決まったことも知らされている。


「お前ら豆腐メンタルすぎてマジ笑える。じゃ、せめて制服脱がせよ。動画撮ればロリコンに売れんじゃね?」


 歪んだ笑みを浮かべてスマホを取り出した。が、それでも視線を泳がせて動こうとしない。秋野はかったるそうに溜息をついた。


「はぁー、どいつもこいつも使えねぇ……」


 そう吐き捨ててその身に禍々しいマナを纏う。それは周りを怯えさせるのに充分だった。


「あ、姐貴ぃ! その念力はヤバいっす! 死人出ますから!」


「あっそ……いっそ殺しちゃおっか……そいつ。シュウも一緒にさぁ」


 秋野の言葉を聞いてリンが顔を上げた。


「……私はどうなってもいいからお兄ちゃんは傷付けないでって言ったよね」


「うるせーな! テンション萎えて気が変わったんだよ。お前ら兄妹まとめて地獄に堕としてやる。ってか、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! うるせーしキモいしウゼーんだよ、お前!」


 秋野は激情に駆られて手を前に突き出した。


<テレキネシス>


 マナを飛ばしてリンの身体を縛る。「い、痛い……」リンは苦痛に表情を歪ませた。秋野はせせら笑いながら落ちていた棒を拾う。


「野郎どもが情けないからさぁ。アタシがコレ突っ込んでやるよ。痛ぇだろうけどイイ声で泣けよな」


「いや……お兄ちゃん助けて」


「お兄ちゃんは来ねーよ、バーカ! 面倒くせぇから、念力でパンツ脱がせてやる。ほら、股開けって」


 秋野のマナがリンの身体を侵食していく。「や、やめて」自分の意志と関係なく動く手足、捲れていくセーラー服――リンの瞳から一筋の涙が流れた。それを見て秋野が勝ち誇ったように言った。


「妹の動画をSNSで拡散するって脅せばさぁ、あの野郎もアタシに手出しできないでしょ? あんたの前で無抵抗のシュウを弄んで殺してやろうか」


 その言葉を聞いてリンが目を見開いた。すると――。


 ギュイィィィィィィィ――! 耳をつんざくような不協和音が響いて、背後にいた不良が泡を吹いて倒れていく。


「ちょっと、あんた達! ど、どうしたのよ!」


 秋野が悲鳴に近い声をあげると、リンを縛っていた念力の手応えが消え失せた。「え?」凄まじいマナの膨張を感じて、思わず後退りする。


「あんた……何その(マナ)


 リンが真っ赤な瞳で秋野を見据えている。ベージュだったロングヘアは灰色に染まり、ほとばしる赤黒いマナは視る者に恐怖を植え付けた。


 秋野はその変貌ぶりに腰が抜け、ペタリと尻餅をつく。リンは抑揚のない声で言葉を紡いだ。


「西中の秋野さん……あなたが最後……」


「さ、最後って……なんのこと?」


 その時――フッと周囲の音が消えた。リンの唇が動いているが声は聞こえない。次の瞬間、激しい頭痛と吐き気が襲ってくる。息ができない。身体中が沸騰するように熱い。


(ま、まさか……あんたが!)


 地獄の苦しみの中でリンが妖しく嗤った。

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