第三百八十二話 逢魔が時に風が吹く
「シュウ、やめろ! 失神させたら何も聞き出せねぇぞ!」
森川がシュウを羽交い締めにした。足元にはボロボロにされた西中の不良達がうずくまっている。シュウは大きく深呼吸をするとリーゼントの頭を掴んだ。男は激痛に呻きながら言葉を絞り出した。
「……あ、秋野さんからの伝言だ。残桜町の倉庫街で待つ。南中の奴等は連れてくるな。一人で来い。来なかったら……妹を回して動画撮るって……よぉ」
そこまで言うと意識を失った。森川が早口でまくし立てる。
「ど、どうするんだ! 警察か協会に通報するか?」
「間に合うわけねーだろ。一人で行くよ」
「で、でもシュウ先輩! 一人はヤバいっすよ! きっと虎爪もいる! 殺されちまうよぉ!」
後輩が動揺している。シュウはそれを無視して歩き出そうとした。
「ん? あいつは……」
前からシンユーがやって来た。その表情は険しい。
「おい、馬鹿シュウ。お前、シクりやがったな!」
北中のトップの出現にザワッとなった。皆が警戒してシンユーを取り囲む。シュウは一瞥すると「なんでここにいんだよ」と問うた。
シンユーは赤髪をガシガシ掻きながら答える。
「最初から見ていたぜ。事実上の頂上決戦だったからな。……にしてもお前がリンを守っていれば拉致されないで済んだんだ! ばかやろう!」
そう怒鳴ると思い切りシュウの顔を殴った。わざと避けなかった。「……責任は俺が取る」痛みを噛みしめるように呟く。シンユーはシュウの胸ぐらを掴んだ。
「お前の責任なんかいるかボケ! リンがヤられちまったら意味がねぇだろ! 一生もんの傷が残っちまうんだ!」
「放せよ」
「ちっ」
シュウは折り重なるように倒れた西中の不良達を指差しながら言う。
「お前らはここでコイツらを見張っていてくれ。回復して加勢に来られたらウザいからな」
森川は無言で頷く。シンユーは唾を吐くと「おら、どけ!」南中の不良を突き飛ばしてその場を離れた。
「おい、どこ行くんだよ! シンユー」
「リンは俺にとっても妹みたいなもんだからな。放っておけねぇだろ。アホが」
「ばっか、お前! 仲間連れてくるなって条件つけられてんだよ! 余計なことすんなって!」
「俺は南中でも仲間でもねーよ。お前とコンビ組むつもりもねーし。一人で勝手にやらせてもらうぜ」
そう言ってのけるとスタスタ歩いていってしまった。森川達が呆気にとられてシンユーを見送る。シュウは黙ってその後を追った。
◆
旧市街の残桜町までは滞りなく辿り着いたが、倉庫街に入ると数回の襲撃があった。「死ねや、こらぁ!」鉄パイプや金属バットで攻撃をしてくる。敵の七割は異人でその戦闘力は決して侮れない。
「どけぇ!」
シュウとシンユーは不仲とは思えない程に見事な連携だった。シュウが突っ込んで活路を開き、その背後を狙う敵をシンユーが迎え撃つ。シュウは我流、シンユーは中国武術。型は正反対だが二人は強かった。指定された倉庫は目と鼻の先だ。
シンユーは呼吸を整えるとぶっきらぼうに言った。
「……お前の戦闘スタイルはめちゃくちゃだ。スピードとパワーの乗せ方、体さばき、位置取り……どれをとってもなってねぇ。お前はエレキをぶん回しているだけだ。今に壁にぶち当たるぜ」
「うっせぇな。素で強ぇんだから良いだろうが。誰が相手だって一対一なら負けねぇよ」
「保護者代わりの金髪の姉ちゃんがいるだろ。修行をしていないお前には分からんだろうが、あの人はとんでもなく強い。戦闘のイロハを教えてもらえ。それがリンのためにもなる」
「だーかーらー、必要ねーよ。俺は施設を出たら一人で生きていくんだ」
「お前なぁ……もういいよ」
シンユーは疲れた表情で溜息をついた。シュウが無理をして自分がフォローする。子供の頃からこのような間柄だった。
「おい、シュウ。ここで二手に分かれるぞ。お前は正面から行け。俺は裏へ回るついでに周囲を探ってくる。別の場所で虎爪の奴等が待機している可能性があるからな。異変を感じたらメッセ送るから見ておけよ」
「お前のフォローなんかいらねーよ」
「いいから言うことを聞け。まあ、お前が本気を出せば西中の残党が数十人いても大丈夫だろうが、油断すんじゃねーぞ。ばかシュウ」
シンユーはシュウの返事を待たずに走り去った。廃墟に紛れてすぐに見えなくなる。
「……ったく、あいつは昔から細かいんだよ。おかんか、マジで」
空を見上げると段々と暗くなってきていた。逢魔が時――いわゆる魔物が徘徊する時間だった。迫ってくる暗闇を見ていると焦燥感に似た負の感情が心を引っ掻いた。
サワサワと生暖かい風が吹いてくる。
(なんか嫌な感じだな)
シュウは何故か胸騒ぎがした。
【参照】
シンユーとリン①→第二百四十六話 反社の男と便利屋の看板娘
シンユーとリン②→第二百四十七話 五天龍と不吉な女に気を付けろ




