第三百七十七話 地雷とカンフル剤
シュウは河川敷へ寄り道した。抗争中なので他校に襲われる危険性はあるが、喧嘩に絶対的な自信を持つシュウには関係なかった。
少し離れた位置にリンがいる。帰れと言っても聞かない。シュウはその存在を無視して眼下を流れる川を見ていた。
(東中の木田は俺が負かしたし、峯岸と北中の奴等はサイレントキラーにやられたらしい。後は西中の秋野を叩けば南中の勝利だな。うーん、でも秋野かぁ)
気分が乗らなかった。女とは戦いたくないし、秋野は遠距離からのサイコキネシスが得意だ。近距離が得意なシュウとは色々な意味で相性が悪い。
「西中かよ……最後の最後が難関だぜ!」
石を拾って川に投げる。ピシッピシッと水面を跳ねていった。五回跳ねた辺りで水面から消えるのを見届けると、苛立ちながら踵を返した。
「ん?」
向こうから知った顔が近付いてくる。北中のシンユーだった。強い敵意を込めてシュウを睨んでいる。
「小林先輩のチームをやったのはお前か? やり過ぎなんだよ。後遺症が残るかもしれねぇらしいぜ」
「俺じゃねーよ! サイレントキラーにやられたって聞いたぞ」
「とぼけるな! サイレントキラーなんて存在しねぇ。お前のエレキでやったんだろ? 感電なら目立った外傷もないはずだ」
「アホか、火傷が残るぜ。てか、お前と小林は北中の派閥争いで犬猿の仲じゃなかったか? 案外、お前がやったんじゃねーの?」
ザァと風が吹いた。リンが不安に表情を歪めながら見守っている。決着の時。因縁の相手だ。エレキキネシスと硬気功の激突――後の【電拳】と【硬拳】の二人が同時に動いた。
◆
日が暮れてきた。茜色だった空に暗闇が混ざり始める。シュウとシンユーはボロボロになって対峙していた。
「おらぁ!」「てめぇ!」ドカッ! バキッ! 互いの拳が急所を捉える。一進一退の攻防。次第に流血が目立ってくる。
「ちいっ!」
シンユーは苛ついていた。圧倒的な自信をひけらかし、真っ直ぐすぎる視線で常に前を見ている――同じ異人であるはずなのに、シュウは自分に決して持ち得ない光を持っているからだ。
「うぜぇうぜぇうぜぇ! いつも自分だけが正しいと思っているそのツラがな!」
「俺は自分の正義を信じているだけだ!」
あまりに単純明快な理屈に言葉を失う。シンユーは地面を睨んだ。
「……お前はいつもそうだ……前しか見てねぇ。だけどな……異人がどんなに頑張ったってゴミみてぇな人生が待っているだけだ! 努力や根性じゃ何も変わらねぇんだよ! バカみてぇに悪あがきしてんじゃねーよ!」
シュウはペッと血を吐いた。
「お前は最初から諦めちまっているだけだ。見切りが早すぎんだよ。異人だからって自分から嫌な奴になることはねぇだろ。だったら俺は正義の味方になってやる。いじけているよりよっぽどマシだぜ!」
その表情に一切の迷いはなかった。シンユーは思わず口ごもる。
「な、何が正義の味方だ……くそったれ……いつもお前が突っ走って……尻拭いは俺だ……ちくしょう」
二人は再び戦闘態勢に入った。互いに余力がない。
(お兄ちゃん……シンユーくん。もうやめて)
リンが喧嘩を止めようと一歩足を踏み出した時、「お取り込み中のところ、すいません」と一人の青年が喧嘩の間に入った。
「なんだ、お前! 今、忙しいんだけどな」
「ええ、分かっています。きみが南中のシュウくん。そっちが北中のシンユーくんですよね。僕は龍尾のソジュンといいます」
龍尾と聞いてシュウとシンユーは緊張した。異人街なら普通人でも知っている異人組織だからだ。
「単刀直入に聞きます。きみ達がサイレントキラーでしょうか」
「んなわけあるかよ! くだらねぇ都市伝説と一緒にすんな!」
シンユーが凄まじい剣幕で否定をする。
「し、失礼しました。念のための確認でした。そうですよね、サイレントキラーならもっと強いマナを纏っているでしょうし……」
ソジュンは笑顔で地雷を踏んだ。
「てめえ、俺達が弱いっていうのかよ」
「あ、ごめんなさい! ……ただ、あまり派手に暴れるとタチの悪い組織に狙われる可能性があります。まだ中学生なんですから、自重された方がいいと思いますよ。異人街にはきみ達より強いストレンジャーがごろごろいますからね」
ソジュンは百パーセントの善意で忠告したが、血気盛んな少年達にはカンフル剤にしかならなかった。シンユーはシュウを押しのけるとソジュンの前に立つ。
「そこまで言うってことは……てめぇは俺より強ぇんだよな?」
拳をボキボキと鳴らしながらソジュンを睨み付けた。
【参照】
シュウとシンユー①→第二十二話 電拳と硬拳
シュウとシンユー②→第七十三話 龍の器
シュウとシンユー③→第九十二話 市街戦
シュウとシンユー④→第九十八話 水の信念と土の信念
シンユーとリン→第二百四十六話 反社の男と便利屋の看板娘




