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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十五章 サイレントキラー ――氷川四中抗争編――
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第三百七十四話 星の家のベッドで

 シュウ達は河川敷へ移動した。皆が不機嫌そうなシュウを気遣っている。リンはトボトボと後ろを歩いていた。


「あの、シュウくん。妹さん……どうすんの?」


「放っておけよ。キモいだろ、そいつ」


 シュウは振り向かずに吐き捨てた。リンは視線を地面に落としたまま付いてくる。


「この前、東中の峯岸がサイレントキラーに襲撃されたのもこの辺りだ。意識不明の重体らしいよ。妹さん、一人で帰したら危ないんじゃ……」


「うるせーなぁ! サイレントキラーなんているわけねーだろ! くだらない都市伝説だぜ!」


「う、うわ!」


 シュウはメンバーの胸ぐらを掴むと突き飛ばした。リンはビクッと肩を震わせる。


「おい、リン! 何回も言わせるな。ウザいから近寄るなって。今日だってお前が来なければ北中に勝っていたんだ!」


「……ごめんなさい」


「中学になったのに兄妹ベッタリってキモいだろ!」


「……ごめんなさい」


 リンは無感情に謝り続けている。相棒の森川が間に入った。


「なあ、もういいだろ。今日は帰ろうぜ。俺、塾あるし」


「塾ぅ? なんだ、森川。異人のくせに高校行くのか?」


「だからこそだ。異人で学歴無かったら人生詰むぞ。ギフターになれるくらい異能が強ければ話は変わってくるかもしれねーけどさ。受験もあるし不良ごっこは程ほどにしねーと」


「ごっこって……。北と西と東が暴れているから南が頑張って異人街の治安を守ってんじゃねーか」


 シュウ以外のメンバーにとって学校の覇権争いは半分遊びだ。喧嘩が強いシュウと一緒にいるメリットがあると思う奴も多い。森川はリンを見て言った。


「取り敢えず今日はリンちゃんと一緒に帰りなよ。西中に拉致されたら傷物にされちゃうぜ。あいつらヤベーから。じゃあまた明日な」


 大通りに出る所で別れた。シュウは大きく溜息をつくと児童養護施設「星の家」へ向かって歩き出した。



 ◆



 部屋へ入る前に施設長の久保田に声を掛けられた。


「シュウくん。また喧嘩ですか?」


「喧嘩じゃねーぞ。街の平和を守ってんだ」


「とにかく警察沙汰はやめてください。補導も困ります。ランさんにも迷惑が掛かりますから」


「あ、あの人は関係ねーだろ!」


 ランの名前を出されてシュウは怯んだ。顔を青くして自室へ入る。学ランを脱ぐとベッドの上へダイブした。そのまま少し寝た後、入浴と夕飯を済ませて自室に戻ってきた。学校の課題はあるが手をつける気力は無い。


「ちっ。森川の奴は高校行くのか」


 中卒で就職しようと考えていたシュウは疎外感を覚える。施設出のシュウに大学まで行く資金はない。それなら中卒でも高卒でも人生は大して変わらない。孤児の異人なんてゴミと一緒だ。シュウはそう考えていた。


 すると、ドアが控え目にノックされた。開けるとリンが立っている。手にはタヌキのぬいぐるみを持っていた。小学生の頃、ゲームセンターで取ったものだ。シュウは苛立つ自分を感じた。最近は妹のことがよく分からなくなっていた。


「なんだよ?」


「……」


 部屋の前で向き合う兄妹。他の利用者に見られたくなかった。シュウはリンを部屋に引き入れると乱暴にドアを閉める。


「……さっきはごめんなさい」


 リンは喧嘩を中断させたことを謝罪した。シュウは舌打ちをすると面倒くさそうに頭を掻いた。


「その人形まだ持ってんの? 捨てろよ、クレーンゲームの景品なんて」


「お兄ちゃんが私にくれたものだもん」


「何度でも言うけど俺はお前がウザい。兄妹つっても孤児だし施設(ここ)を出たら別々だからな。俺は高校行かないから、あと少しだぜ。こんな所は出ていってやる!」


 リンはギュッとぬいぐるみを抱きしめた。大きな瞳には涙が滲んでいる。シュウは一瞬狼狽えた。小学校の頃は仲が良かった。妹を守ろうと必死だった。しかし昔の話だ。


「てゆーか、何しに来たんだよ。もうすぐ就寝時間だろ」


「……一緒に寝ていい?」


「あのな、いくら兄妹でもこの歳で一緒に寝たら怒られるんだよ。主に俺がな」


「今日が最後……」


「お前、この前もそう言ったじゃん。いーから部屋に帰れ!」


 自室へ戻ろうとしないリンを睨む。しかし、この時間に帰らせたらかえって目立つかもしれない。いつも職員に小言を言われるのはシュウだった。


「あーもう! じゃあベッド入れよ」


 リンは小さく頷くとベッドに入り奥へ詰めた。しっかりとシュウが入れる掛け布団を残している。このように気遣うところは昔から変わらない。


 シュウは背中を向けて布団に入った。リンは後ろでモゾモゾと動くと、シュウの腰に手を回して遠慮がちに片足を絡めてくる。ひんやりとした感触がした。


(くそっ! 俺はこれからどうすりゃいいんだよ! ここを出て……リンがいて……行くところなんてあるのか?)


 シュウは背中にリンの温もりを感じながら目を閉じた。異人であることの引け目、孤児であることの負い目、妹からの信頼を重く感じる不甲斐なさ――今のシュウはネガティブな感情を持て余していた。

【参照】

ラン→第三十九話 お姉さんの勘

施設長の久保田→第五十五話 便利屋の少年と大企業の令嬢

実はリンと仲が悪かった→第二百八十八話 シュウが繋ぐ縁

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