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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百七十二話 ソフィアの覚醒 3/3

 南は異能訓練室で冷気のマナを展開していた。室温は七度を下回っている。温度差で窓ガラスが結露していた。


「南くん、もう体調は良いの? ……って寒―い!」


 訓練室に入ってきた華恋が叫ぶ。


「……何か用?」


「サンドイッチ作ってきたの。きみ、どうせお昼は菓子パンだったんでしょう」


 華恋は立ったまま食べようとする南をたしなめて隅のベンチへ座った。


「ごめんね。私、敵にノックアウトされちゃって」


「……華恋が足止めしてくれたからフローラを止められた。あの場に氷雨が来たら厳しかったと思う」


 ぶっきらぼうな態度だが気遣っている。華恋は苦笑した。


「ソフィアちゃんがルナフレア撃つところからは見ていたんだけどね。きみは無茶するね、本当に。もうあんな戦い方は止めてね。いつか死んじゃうから」


 しかし華恋の忠告は右から左だ。南は話題を変えた。


「……赤目のあいつがいたんだよね?」


「うん、セツカって呼ばれていたよ。私たちが初等部の頃に参加した任務で見た子だった。ちょっと信じられないけれど、あの子がダークマナ教の教祖で間違いないと思う。副会長に報告しないとね」


 それにと華恋はこう付け加えた。


「ソフィアちゃんのことを迎えに来た感じだったよ。目的は不明だけど」


 南はソフィアの言葉を思い出していた。


――赤い目をした人が私に言っていました……また会おうって――


「あれ、ソフィアちゃん?」


 華恋が指差した。ソフィアが通路の窓からこちらを覗き込んでいる。


「あはは、私に遠慮して入ってこられないのかな。そうそう、女の子には優しくしなきゃダメだよ。きみが助けた子なんだから責任取らないとね」


 華恋はベンチから腰を上げると、思い出したように南を見た。


「あ、そうだった……亜梨沙さんから伝言があるの――間に合ったわね――だって」


 少し逡巡した後、華恋はぎこちない笑顔で言葉を紡ぐ。


「南くん……あのさ」


――どっち(・・・)のソフィアちゃんが幸せだったんだろう。


 喉まで出かかった疑問を呑み込んだ。


「ごめん、なんでもないの。じゃあ、また明日」


 華恋は途中でソフィアに手を振って、軽い足取りで去っていく。南は亜梨沙の言葉を理解していた。


 ソフィアの覚醒が間に合った――ファイブソウルズ戦に。


「さ、寒いですね。この部屋」


 入れ替わるようにしてソフィアが入ってきた。心なしか顔が赤い。医務室で告白したことを思い出していた。しかし南の態度に変化はない。眠そうな顔でひと言。


「何か用?」


「はぁ~……」


 ソフィアは真っ白な溜息をついた。相手は異能にしか興味を示さない朴念仁――特に期待はしていなかったが少し落ち込んだ。


(ていうか、本当に同じヒトですよね?)


 不謹慎だとは思うが、(くだん)の幽霊騒動で少しカッコよく見えたのだ。ところが今の南はどうだろう。祖母の家にいた無愛想な黒猫、オレオにしか見えない。


(あのネコ、私にだけ懐かなかったんだよなぁ)


 淡い乙女心に罪はないと思いたい――ソフィアは気を取り直して口を開いた。


「あの……母のことと、誘拐事件の時もありがとうございました! 父も礼を言っていました」


「別にいいよ」


 ソフィアは遠慮がちに南の横に腰掛けた。チラチラと南を見ては視線を膝に落とす。


「どうして学校を辞めないの?」


「え?」


 ソフィアがキョトンとしている。


「君はフローラと月夜叉(エストリエ)の影響で異人になったんだ。二人から解放された君は普通人に戻ったはずだ」


「あの……先輩」


「君は協会のイメージキャラクターとして定着しているから誘拐事件のことを蒸し返されることもなくなった。ここに残ってギフターになる理由がない」


「えっと、ごめんなさい。エストリエさんなんですけど……まだ私の中にいるんです」


 ソフィアは困った顔で言った。南はソフィアの顔をグイッと覗き込む。瞳の奥に月のマナの片鱗が渦巻いていた。(せ、先輩……近いです!)ソフィアは顔を真っ赤にして硬直している。


 南は眉間にしわを寄せて珍しく考えていた。


「君さ……エストリエと再契約したの?」


「え? はい、しました」


契約(さそい)を断ることもできたはずだ……どうして受けたの?」


「ギフターになりたいからです」


「ちょっと分からないな。電拳のシュウのために?」


 今度はソフィアが考えるポーズをとった。


「シュウさまのことは今でも好きです。でもその……好きの種類が少し違うのです。そう、憧れです。母がライさんに憧れたように」


 ソフィアは姿勢を正して南の方を見た。


「今、私がギフターになりたい理由は……南先輩の力になりたいからです」


「必要ない」


「嘘です。いつも無茶して……ダーカーの時に後悔しました。だから決めたんです。私がギフターになって先輩を守ってあげます!」


 ソフィアが顔を上気させて宣言すると、気分が高揚したからかエストリエの影響か、マナ量が突然増えた。月のマナが溢れ出ている。


月光爆発(ルナフレア)>と<裁きの光(ジャッジメントレイ)>を装備したソフィアは子供が戦術核を持ち歩くようなアンバランス感だが、無邪気な少女はそれに気が付いていなかった。


「ねえ、月夜叉(あいつ)に言いたいことがあるんだけど。出してくれる?」


「え? ご、ごめんなさい。ちょっとやり方が分からないです……て言うか本当にいるんでしょうか。実感がないんですよねー」


 ソフィアの反応はどこか他人事であった。

【参照】

セツカとソフィア→第十話 来訪者

ソフィアの事件を蒸し返す→第七十五話 フローラ=エリソン

覚醒が間に合った→第百三十話 ソフィアの訓練

協会の広告塔→第百六十話 ソフィアとヴィオラ

ダーカーの時→第二百三十話 僕ごと貫け

ソフィアの後悔→第二百三十七話 南の言葉


――あとがき――

いつも読んでいただきありがとうございます。

長かった「月夜叉の器 ソフィア覚醒編」はこれで終わりです。


何気にソフィア=エリソンは第一章から登場していた重要なキャラでした。

最初から「なんかこのコ、ヤバイのに憑かれてね?」と思わせる伏線を張ってきました。


章を重ねるごとに伏線を色濃くしていきましたが、どうやって落とそうかなぁと悩んでいました。

だって世間に幽霊ネタは出尽くしているから!


そういうわけで……精霊や東欧の紛争、学園ネタを織り交ぜて、色んな人を登場させましたが、奇麗に終わったと思っています。


フローラとフィルの出会いはいつか外伝で書ければ良いなぁ~。


さて、明日から新章が始まります。

金ウロらしくサイコスリラーです。

微妙に鬱展開? ガチで鬱展開?

取り敢えず、明るい話ではありませんが、最後までお付き合いください。

応援よろしくお願いいたします。


荒野悠

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