第三百七十一話 雪降って地凍る 2/3
屋上遊園地の事件から半月ほど。ソフィアは排マナ中毒と低体温症で寝込んでいたが、今日から登校することになった。しかし全快には程遠くテンションは低い。
「……はよー」
教室に入る。ザワッとなり注目が集まった。生々しい包帯が巻かれているからだ。ソフィアは「はぁぁ」と溜息をつく。するとチサトが話し掛けてきた。
「おっす。お嬢様と包帯ってのはシュールだねぇ」
そう言ってニヤニヤと笑う。ソフィアは無視して通り過ぎようとしたが、ガシッと肩を組まれる。
(ヴィオラは昨日から登校してんだけどさ。あっちも酷い怪我だよ。なになに、あんたアイツに勝ったの? スゲーじゃん!)
(うるさいなぁ。なんもなかったよ)
小声で言い合っているとアンナと瑠璃が駆け寄ってきた。
「ソフィー!」
「あ、おはよ」
ソフィアはぎこちない笑顔で挨拶をした。気まずい別れ方をしてから会っていなかったからだ。アンナは勢いのままソフィアに抱き付いた。
「ごめんね! 私たち親友なのに酷いこと言っちゃった! 許してー!」
「あのあと、お父さんとお母さんに怒られたの。私も反省してる。ごめんね」
アンナと瑠璃は泣きながら謝っている。ソフィアは涙を浮かべて頷いた。
「あ、そうだ! 私たち学校にいられることになったんだ! お父さんの仕事が無くなりそうだったんだけど、急に大丈夫になったみたいなの。不思議だよねぇ」
瑠璃が目を腫らしながら説明する。
「そ、そうなんだぁ〜」
コニーから事情を聞いていたソフィアはヴィオラに倣って伝家の宝刀を抜いた。フィルに頼み込んでマクロキャッシュに営業をかけてもらったのだ。当然、事前にコニーへの根回しは済んでおり、再エネ技術が欲しかったスペックスは快諾したという。
全てを知っているソフィアは乾いた笑顔で祝福をした。その様子を一軍のメンバーがつまらなそうに見ている。すると扉がガラッと開いてヴィオラが入ってきた。左目の眼帯が目を引く。
「あ……ヴィオラだ」
アンナは怯えた表情でソフィアの後ろに隠れた。ヴィオラは真っ直ぐソフィアの方へ歩いてくる。クラスメイトが固唾を呑んで見守っていた。ヴィオラとソフィアは正面から向き合った。
「ひどい怪我じゃん。ソフィア」
「そっちもね。左目見えるの?」
「んー、びみょ。不思議な視え方なんだよね、この目。彼のマナが入ったままみたいなの」
ヴィオラはクールな表情でピッと左目を指さす。
「か、彼ぇ~? それって南先輩のこと? あなた、何言ってるのよ!」
「この目を水球で包んでくれたの。彼が」
「ごめん。その言い方、凄くイライラするわ。やめてくれる?」
ヴィオラはソフィアの訴えを無視してアンナと瑠璃を見た。
「あなた達には酷いことしたわね。ごめん」
プライドの塊だったヴィオラが二軍の生徒に謝罪をした。ソフィアは目を丸くする。教室中が言葉を失った。ヴィオラは教壇に立つと高らかに言い放った。
「今日から一軍とか二軍とか馬鹿なこと言った奴は私がぶん殴るから。よろしく」
教室の後ろでコニーが笑いを堪えていた。ヴィオラはコニーをひと睨みすると、アイコンタクトでソフィアを外へ連れ出した。
◆
二人は校舎裏で歩みを止めた。少しの沈黙の後、ヴィオラが言った。
「あんたのこと、お気楽なお嬢様だって誤解していたわよ。ごめん」
素直なヴィオラにソフィアは困惑した。
「ま、まあもういいけど。センターの件はあなたのフォローがあったってパパから聞いているから」
「うん」
サワサワと木々を揺らす風に秋の気配を感じた。例えようのない微妙な時間が流れる。その沈黙をヴィオラが破った。
「そーいえばあんたさ、尾崎くんに告白されて振っていたわよね。どうして?」
「なんのこと?」
「ここで告白されてたじゃん。私、見てたんだよね。かわいそうじゃん、尾崎くん」
ヴィオラは腕を組んでソフィアを見ている。会話の内容とは裏腹にその目は冷めている。ソフィアは思い出したように答えた。
「あの時のことね。あれ告白じゃないよ」
「はぁ?」
「友達に頼まれて私に彼氏がいないか聞きに来ただけだよ。なんか申し訳なさそうにしていたけど」
「ふーん。そうだったんだ」
ヴィオラは空を見上げた。先日に降った季節外れの雪の残り香は皆無だった。ソフィアは小首を傾げる。
(……なんなのかな、この子)
ヴィオラの敵意が消えている。雨降って地固まる――ううん、雪降って地凍る? 南のニブルヘイムを回想してくだらないことを考えていると、ヴィオラが視線を切った。
「まあ、もういいんだけどね。私は別の王子様を見つけたから」
「お、王子様って……?」
「宣言しておくけど、こっちは譲らないから。てゆーかもともとファンクラブ入ってたし、歴はあんたより長いし」
「ちょ、ちょっと! 王子様って誰のこと? 歴ってなんなのよ!」
ヴィオラは少し歩いて振り返った。
「あんたさ……学校でルナフレアをぶっ放さないでよ? 洒落になんないからアレ! とにかく私はもう謝ったからね!」
――キーンコーンカーンコーン。ヴィオラの言葉が朝の予鈴と重なった。ソフィアは呆気にとられてヴィオラの背中を見送ったのであった。
【参照】
ヴィオラは南のファンだった?→第百六十話 ソフィアとヴィオラ




