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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百七十話 子鶴の一声 1/3

「はじめまして。マラソン・エナジーのフィル=エリソンです」


「マクロキャッシュのジョルジョ=アドルナートといいます! こちらへどうぞ」


 都内に建つマクロキャッシュの日本支社。フィルは名刺交換をした後、ガラス張りの応接間に通された。ジョルジョは恰幅のいい初老の男だった。


「そう言えば残桜町の爆発騒ぎは大変でしたね。季節外れの雪が降った日です。確か御社が管理する物件だったとか」


「いやぁ、あれはしょうもない事故ですよ。屋上遊園地で異能のパレードができないものかと試行錯誤していた中でのボヤですな。異能を花火に見立ててイベントを企画しようとしたのですがねぇ。事件性はないので協会(トクノー)から厳重注意で済みました。はっはっは」


 ソフィアとヴィオラの(バトル)はリハーサル中の事故ということになっていた。周囲のビルを巻き込んだ爆発だったが、幸運なことに人的被害はなかった。廃墟だったこともあり現状のまま放置されている。


 この件に関して協会は深く追及していない。マクロキャッシュから多額の献金を受け取っているし、ギフターと訓練校の生徒が関わっているからだ。もちろん、ジョルジョは事の顛末を知らない。呑気な笑顔を浮かべてフィルに渡された資料を読んでいる。


「会長が物流脱炭素化促進事業にこだわっておりましてねぇ。政府の補助金が出るものですからなぁ」


「それはそれは。弊社でご協力できることもあると思いますよ」


 フィルはコーヒーを飲みながら相槌を打つ。その所作は映画俳優のようにエレガントだった。


「弊社としては御社か水門重工と提携しようと考えていたのですがね、やはり外資が良いと会長が言うもので。それに来年から異人雇用率が引き上げられるでしょう。御社は異人雇用に意欲的ですからね、互いに協力できることもあるかと。はっはっは……うん?」


 淀みなく資料をめくっていた手が止まった。その表情が曇っている。フィルは笑顔で問うた。


「どうされました?」


「い、いや。この三番物流センターは老朽化に伴い閉鎖する案が出ているのですよ。ここを外して……五番センターなんかはいかがでしょう。旗艦店(きかんてん)からも近いですしね」


「三番センターは日照が豊富で周辺に障害物もないでしょう。弊社の太陽光システムを導入するにあたって最適ですよ。モデルケースにすべきです」


「こ、このセンターを委託管理しているスペックスとの兼ね合いもありますからな。私の一存では何ともぉ……」


「スペックスの担当さんと昨日話しました。異論はないそうです。後は御社のお返事だけです」


 フィルはにっこりと笑った。ジョルジョの目は泳ぎ、笑顔が引きつっていた。フィルが追い打ちをかける。


「それに会長のクロウリー様はご自身が三月生まれなので、この三番センターに思い入れがあるとか。会長が推進なさる事業をスタートするのに相応しい場所だと思いますよ」


「う……そのぉ……娘がですなぁ……」


 ジョルジョの歯切れが悪い。微妙な沈黙が流れると――トントン。扉がノックされた。


「商談中だよ、後にしてくれ! ……ってヴィヴィちゃんじゃないかぁ♪」


 部屋に入ってきたのは左目に眼帯を着けたヴィオラだった。ジョルジョの表情が緩む。相当な親ばかのようだった。


「はじめまして、フィル様。娘のヴィオラです」


「やあ、こんにちは。お怪我は大丈夫ですか」


「はい、大したことはありません」


 ヴィオラは眼帯だけでなく身体中に包帯を巻いていた。ジョルジョが心配そうに声を掛ける。


「ヴィヴィちゃーん。松葉杖使わなきゃダメじゃないか。肋骨だって折れてるんだろう?」


「いらないわよ、あんなの。念動(マナ)で固定できるんだから。それよりもパパにお願いがあるのよ。三番物流センターを閉鎖しないでほしいの」


「え、ええ~? だってヴィヴィちゃんの企画だったじゃないかぁ~」


 ジョルジョが狼狽えた。


「マラソン・エナジーとのお取引は弊社にとって価値があることじゃない」


「で、でもねぇ、社長派の面子があるんだよ。フルフィルメント事業は社長の肝いりなんだからさぁ」


「三番センター閉鎖は会長への嫌がらせでもあったのよ。でもパパ、冷静になって考えてほしいの。今この段階で社長派に乗り換えるのはリスキーよ」


「……そうなのかい?」


 ヴィオラは腰に手を当てて、縮こまっているジョルジョを睨む。これではどっちが偉いのか分からない。フィルは呆気にとられて静観していた。


「社長は若くて勢いがあるけど経験が足りないし伝統の重みを分かっていないもの。今は会長の顔を立てつつ、フルフィルメントの方はスペックスと提携してセンターを新設した方が良いと思うわ」


 まるで(つる)一声(ひとこえ)――いや、子鶴の一声だった。ヴィオラはぴしゃりと言い切ると、フィルに向かってペコリと頭を下げた。「う、うーん」ジョルジョは腕を組んで唸っていた。

【参照】

水門重工→第五十四話 水門重工

マラソン・エナジー→第七十四話 マラソン・エナジー

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