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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十八話 予測不能なノイズ

 氷雨は背後に光と熱を感じて振り返った。華恋の髪が赤色に変化し不死鳥のごとく炎のマナが溢れている。その豹変ぶりに氷雨は目をぱちくりさせた。


「私ね、学校じゃ優等生ってことになっているの。朱雀さんは良い子、朱雀さんは正しい、朱雀さんに任せておけば間違いないってね。でも本当の私は良い子なんかじゃないの」


「……邪魔をしないでください」


 氷雨が黒傘を構えるとマントがはためき黒いマナが滲み出る。


「いつもパイロ使う時は二次災害を気にして手加減しちゃうんだけど、今日は本気出しちゃおうかな」


 ジュゥゥ……! 華恋の腕から闇氷が消失した。超高温の炎が膨張し、生き物のようにフロア内を暴れ回る。炎と一体化した少女は明らかにA級ギフター以上の戦闘力を有していた。


「……全てはセツカさまのために」


 氷雨に動揺はない。再び氷塊を生成する。超高温と超低温がぶつかり合い水蒸気と排マナが放出された。ゴゴゴゴッ――百貨店全体が揺れている。二人がトドメの一撃を繰り出そうとした時だった。


<デストル>


 その声が聞こえた瞬間、荒れ狂っていた炎と氷のマナがフロアから消え去った。最初から何もなかったかのように、空間ごと切り取られたかのように――。華恋と氷雨は一瞬硬直する。声が聞こえた方を見ると黒マントを羽織った赤目の少年の姿があった。


「それ以上はやめてください。建物が全壊してしまいます」


 華恋は大きく目を見開いた。


「きみは……あの事件の時の?」


「朱雀華恋さん。お目にかかるのは二度目でしょうか。あの時、ギフターの清原大輔さんと一緒にいた方ですよね」


 突然のことに華恋の思考が停止した。赤い目に魅入られて、幼子のように無防備な姿をさらけ出すと――ドスッ! 腹部に激しい痛みが走った。


「げほっ!」


 氷雨の黒傘がめり込んでいた。華恋は力なく床に膝をつく。


「セツカさま。この女……(どう)しますか?」


「彼女の死に場はここではありません」


 華恋の背中に冷たいものが走った。セツカが浮かべている笑みからは感情らしいものが視えない――無色透明だったからだ。


「僕はソフィアさんと再会の約束をしていましたが、宇宙記録庫(マナペディア)でも予測不能なノイズ……不確定要素が紛れ込みました」


「ノイズ……ですか?」


 氷雨は細い顎に人差し指を添えて考える仕草をする。


「今日のところは帰りましょうか。あ、氷雨さん、黒川南さんとはまた会えますよ。そんな残念そうにしないでください」


「はい……その時を待っています」


 セツカと氷雨は暗闇へ姿を消した。華恋は激しく咳き込んだ。立てそうもない。「ま、待って……!」絞り出すように呟いたがその声は誰にも届かなかった。



 ◆



 シュウ達は高層ビルの屋上にいた。マラソン・エナジーが管理するビルだ。南とソフィアが戦っている百貨店から百メートル弱離れた位置である。シュウとリッカはマナで視力を上げて激しい戦闘を視ていた。


「あれが憑依モードのソフィアちゃんかよ!」


「はい。いくら南さんとはいえ長くはもちません」


 フィルはかろうじて肉眼で確認できていた。異能の戦闘は普通人でも視える濃度の光を発するからだ。


「ソフィア……フローラ……」


 フィルの顔が悲壮感で歪んでいる。


「リッカちゃん。どうしてこのビルの屋上に来たんだ? 直接乗り込んだ方が良かったんじゃねーの?」


「今夜はセツカが動くはずです。デストルの範囲内に入ると異能を無効化されてしまいます。このくらい離れないと危険です」


 シュウは遠目でも南の異能の練度が分かった。ソフィアが月のマナで圧倒しているように見えるが、天才的なマナ・コントロールで捌いている。


 シュウは改めて自分が南に敗北した理由が分かった気がした。


「少しずつではありますが、フローラさんはマナを消耗しています。このまま南さんが耐えてくれれば必ず隙ができるはずです。その時に私の浄化(ピュアリファイ)を使います」


「なるほど、ここからでも届くんだな」


「いえ、私では届きません。シュウ様の火花(エタンセ)に私の波動(マナ)を乗せて撃つのです……が、合体技……ですね」


 リッカがはにかみながら説明する。シュウの目が点になった。


「無理に決まってんだろ! エレキ系は遠距離攻撃が苦手なんだ。あそこまでどれだけあると思ってんだよ!」


 リッカは混乱するシュウの手をそっと握った。深紅の瞳でじっと見詰める。


「そんな目で見たって無理なもんは無理! もっと遠距離が得意なヤツに頼めよ! あのクソガキとか!」


「南さんはあそこにいます」


「ああ、そうだった。いるなあそこに。てか、クソガキで通じるんだな」


「シュウ様は金蛇の血を継ぐお方……龍脈のマナを使えば届きます。ここ残桜町はマナが豊かな土地なのです。ソフィアさんを助けたいと思う強い気持ちがあれば大丈夫ですよ。だってシュウ様は凄いんですもの」


 何故か絶大の信頼を寄せられていた。美少女の気持ちに応えたいと思いつつも自信は無い。横で話を聞いていたフィルがシュウの肩に手を乗せた。


「シュウくん、頼みます! ソフィアとフローラを救ってやってください」


 シュウは涙目のフィルを見て大きく溜息をついた。


「あーもう、分かったよぉ! 失敗しても恨むんじゃねーぞ!」


 そう言うとリッカを抱えてヘリポートの上に飛び乗った。少しでも上からの方が届く気がしたからだ。リッカを下ろすと静かに目を閉じる。精神集中――遙か下を流れる龍脈を意識しながら拳にマナを集めた。

【参照】

南に負けたシュウ→第四十五話 絶対零度

龍脈①→第八十三話 マナリンク

清原大輔①→第八十七話 清原大輔

龍脈②→第九十七話 虎の咆哮

エレキ系の間合い→第百二十三話 放電

南に会いたい氷雨→第二百四十五話 電拳のシュウの前で殺せ

シュウの火花①→第二百五十二話 マナを展開しリンクさせて撃つ

シュウの火花②→第二百八十五話 シュウの火花

清原大輔②→第三百二十三話 清原の潜入捜査

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