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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十七話 人外と人間の戦い

 パキパキパキッ――南の足元から屋上遊園地が凍り付いていく。その隆起した氷面がソフィアの足を捕えようとした時、フワリとその身体が浮いて夜空を舞った。


「ソフィアを射抜け……! 氷槍(アイシクル)!」


 南の手から巨大な氷の槍が射出された。ドドドゥッ! 凄まじい速射砲――一切の躊躇がない。南は本気でソフィアを殺そうとしているようだった。


 ソフィアが上空から手を薙ぐと月のマナの衝撃波が広範囲に降り注ぐ。アイシクルを砕き、観覧車やゴーカートを吹き飛ばした。圧倒的な破壊力。南は防御しきれずコンクリートに叩き付けられた。


「南くん、いったん引きましょう!」


 ミリアは駆け寄ろうとして床から伸びた氷壁に阻まれる。南は血を舐めながら呟いた。


「楽しいんだ……邪魔しないでよ」


 ソフィアが再び園内を薙ぎ払った。ミリアとニックはマナ壁で自分の身を守るので精一杯である。南はマナ結界を施した氷剣で衝撃波(マナウェーブ)を斬り裂くと高く跳躍した。


 空に無数のマナ壁が生成される。それを足場にして上空のソフィアに接近し絶対零度の一閃、しかし――ガキーン! 金色のマナ壁で弾かれた。ソフィアが冷笑的に言う。


『フローラの名において命じます。エストリエよ、神聖なる月の光で悪しき者を裁きなさい』


裁きの光(ジャッジメントレイ)


 次の瞬間、月光が閃き黄金の光線が南の眼前に迫った。南は狭いマナ壁の上で動けない。思わずミリアは顔を背ける。


「吹き荒れろ、雪嵐(ブリザード)!」


 南はブリザードを放った反動でマナ光線を回避した。そのまま屋上の外へ放り出される。「お、落ちるぅ!」ニックが叫んだ。しかし南はマナ壁を足場にして落下を防ぐ。


「あははは!」


 笑いながら再びソフィアへ肉薄する。その立体的な動きは見る者の価値観を塗り替えた。自由自在に飛翔する精霊の少女と神がかったマナ・コントロールを駆使して追随するギフターの少年。人外と人間の戦い――固唾を呑んで見守るほかなかった。


 南がとった戦法はアイスキネシスで熱エネルギーを奪い続けることだった。いくら精霊と言えど宿主(ソフィア)を守るため防御にマナを割く必要がある。攻撃と防御でマナを消費させフローラの弱体化を狙う。つまり真っ向勝負。マナ量が膨大な南だからこそ可能な特攻だった。


『ああ、黒川南……! その気高い眼差し、凜とした氷のマナ……懐かしい……アドルガッサーベールと旅をした時代(とき)を思い出します……ですが……あの残月には程遠い!』


 ゴオォォォォー! 黄金の突風が発生して南をマナ壁ごと吹き飛ばした。勢いよく瓦礫に突っ込み血反吐を吐く。だが南はバンッと床を叩いた。


「伸びろ……フロストピラぁぁー!」


 本来なら足場に使う氷根が空高く伸びていく。その数、計五本。ソフィアがヒラリと回避すると――ドンッ! 突如生成された氷壁に背中がつっかえて動きが止まる。『小賢しいことを……!』南は氷剣を構えて氷根を駆け上った――しかしその刹那、ソフィアの背後に金色の少女がダブって視えた。加速する感覚の中でその少女――エストリエと目が合う。


『残月の息子よ。わらわに勝てると思うてか』


 エストリエを中心に月光のマナが膨張していく。その光は夜の旧市街を真昼のように照らした。


月光爆発(ルナフレア)


 ピカッ! ――眩い光が屋上を呑み込んだ。



 ◆



 華恋が纏う炎のマントは不死鳥の翼のような形状に変化した。火鳥(フェニックス)の異名を持つ華恋のパイロキネシスは千度を超す炎を創り出す。対峙する氷雨は無表情でそれを視ていた。


「あなたアイス系だよね。マナで分かるよ。アイス系の弱点はパイロ系。圧倒的に私が有利だよ」


「赤目の教祖……セツカさまのために、ソフィアさんと南さまに用があります。あなたには退いていただきます」


 氷雨はそう言うと黒傘を床に突き立てた。


「凍てつけ……氷河(エリヴァガル)


 そう唱えると氷雨の足元が凍結し黒い氷が華恋に向かって伸びていく。それはまるで黒水晶のように妖しい光を放っていた。「その氷はダークマナ!」華恋は手を前にかざすと詠唱を始める。


「紅蓮の炎よ! 虚空を食らいて、かの者を焼き尽くせ! 火球(ファイアボール)!」


 火球と氷塊が激突して黒い水蒸気を発生させた。有利のはずの属性だが押し切れない。氷雨が口を開いた


「私の属性は闇氷系(ダークアイス)です。その水蒸気……生身で浴びるとダークマナ中毒になりますよ」


「くっ!」


 黒い霧が辺りを覆う。華恋は(マナ)を展開し身を守ったが、次の瞬間、氷雨が黒傘を手に距離を詰めてくる。パシッと左腕を叩かれた。両者は距離を取って振り返る。氷雨は抑揚のない声音で唱えた。


「凍れ……氷結(ゲフリーレン)


 乾いた音を立てて華恋の左腕が黒い氷に覆われていく。超低温とダークマナの混合技だ。勝負はついた――氷雨は華恋に興味をなくし踵を返した。階段を上がれば屋上はすぐだった。

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