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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十六話 憑依と供給

――さ、(さむ)っ。


 ヴィオラは凍えた。死んだ実感はないが、もう地獄に落ちたのだろうか。そう言えば日本には八寒と呼ばれる地獄があると聞いたことがある……そう思って目を開けた。


「え?」


 目の前にいたソフィアが手を突き出したポーズのまま凍り付いていた。氷の結晶に覆われて青白く光っている。屋上遊園地の入り口から地面が凍結し氷が伸びてソフィアを捕らえていた。


 その氷上を南が歩いてくる。


「黒川先輩……どうしてここに?」


 ヴィオラは瞠目(どうもく)した。氷のマナを纏う南に、普段の幼い面影と気怠そうな雰囲気が無かったからだ。それどころか目が爛々としている。


 南はヴィオラの顔に手を添えた。


「左目は失明(むり)かもね。命と比べたら安いか」


 そう言うと治癒のマナを込めた水球を生成して左目を覆った。心地良いぬるま湯に調整されていて、ヴィオラは強張った精神が(ほぐ)れるのを感じた。


「あ、あの……」


 その時、ピシィッ! とソフィアを覆っていた氷に亀裂が走った。金色に輝く月のマナが一筋の光柱となって降りそそぐ。


「ふぅん。フローラの憑依と月夜叉(エストリエ)のマナ供給のコンボか。はは、楽に勝たせてくれないな」


 南はヴィオラを抱えて立ち上がる。ヴィオラはその顔を見上げて寒気がした。ソフィアが放つ圧倒的なマナを視て笑っていたからだ。


『あら?』


 氷塊の中でソフィアが動いた。ギギギ……。ゼンマイ仕掛けの人形のように首を動かし顔をこちらへ向ける。南は大きく跳躍し距離を取った。


――次の瞬間、氷塊が爆発した。氷塵が飛び散り真っ白な水蒸気が立ち上る。


『黒川南……またその娘を庇うのですか。あの時もそうでしたね。初等部の校舎であなたはこの子たちの間に入った』


 ソフィアはゆっくりと近付いてくる。


『あなたが私に攻撃したのはこれで二回目です。一回目は学校の屋上。あの時は殺意を感じなかったので見逃しました。ですが今回はどうでしょう』


 南はソフィアから視線を外さずに後ろへ下がっていく。


『先程の氷結能力(アイスキネシス)。あれはソフィアが死んでも構わない……そのつもりで放ったように見えました』


「エストリエからソフィアを殺すつもりで挑めと言われた」


 その言葉を聞いてソフィアの――フローラのマナが一変した。キイィィィー! 空気を擦るような不協和音が響き耳鳴りがする。


『この子はあなたを好いていますから、大目に見ていましたけど……残念ですね。あなたを敵と認めます』


 フローラの激情は周囲に突風を発生させた。南は氷壁(アイスウォール)でそれを防御する。


「お嬢様ぁー!」


 南の背後で叫んだのはニックとミリアだった。豹変したソフィアの姿を見て険しい表情を浮かべる。南は二人を振り返るとヴィオラを渡した。


「重傷だから回復して」


「私が回復系(ヒーラー)です。こちらへ!」


 ニックはヴィオラを抱えると応急処置をするために隅へ移動した。ソフィアを陥れた相手だろうが、ここで死なれると殺人の罪が刻まれるからだ。ニックはゴツい見た目とは裏腹に支援系の異人であった。


「……」


 ミリアは無言で南の後ろに控えた。


「ここは僕一人でやるから下がっていていいよ」


「私はあなたがお嬢様を殺さないように見張っています」


 ミリアは鋭い視線を南の背中へ向けた。対峙するソフィアからは人間の限界を超えたマナを感じるが、南からも得体の知れない何か(・・)を感じる。精霊の力に臆さない人間――ミリアは未知の恐怖に抗いながら、どうすればソフィアを救えるか懸命に考えていた。


 南は短く息を吐くとこう唱えた。


「凍てつけ……氷河(エリヴァガル)


 南の冷気(マナ)が夏の空気を一気に奪い去った。



 ◆



 暗いフロアを少女が歩いている。黒いマントを羽織り、黒い傘を持っていた。ダークマナ教の高原氷雨(たかはらひさめ)である。エレベーターホールの前まで来ると立ち止まった。


「誰……ですか」


 エレベーターホールの先、階段の踊り場から華恋が現れた。


「こんばんは、ギフターの朱雀です。あなたは?」


 華恋はワインレッドのロングヘアを掻き上げながら問う。氷雨とは対照的ににっこりと微笑んでいた。


「ギフター……」


「この先は屋上しかないよ。というか、廃墟とはいえ不法侵入だよね。お互いに。で、あなたのお名前は?」


「そこを……退いていただけますか」


 華恋はマナを目に集約して氷雨を視た。


「マナ結界を施した黒マント……あなたダークマナ教の信者だよね。屋上(うえ)に何の用なの? 答えないとギフターの権限で拘束します」


 氷雨は質問には答えずゆっくりと歩を進める。黒傘を剣のように構えた。


「そこを……退いてください」


「退かない。彼の邪魔はさせないよ」


 ボボゥッと乾いた音が響いた。発火能力(パイロキネシス)――華恋のマナが炎へ変わる。それはマントのようにはためき、暗いフロアをオレンジ色に照らした。

【参照】

華恋のパイロキネシス→第六十一話 南の守護神

治癒の水球→第九十八話 水の信念と土の信念

ソフィアへの攻撃(一回目)→第百二十八話 ソフィアの試験

ヴィオラを庇った南→第百六十話 ソフィアとヴィオラ

高原氷雨→第二百四十四話 赤目の教祖さま

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