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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十五話 もし生まれ変われるなら

 違うクラスだけど、ちょっと良い感じの男子がいた。精神感応系(イー・エス・ピー)コースで雑魚(モブ)感があるけど優しかった。顔は普通。成績は中の下。どちらかと言うと二軍かな。でも何故か彼のことが……尾崎くんのことが気になった。


「ヴィオラちゃんってエリートの家系なんでしょう」


「私と家のことは関係なくない?」


 塩対応だったかもしれない。私がツンデレ気質なのもあるけど、家のことを言われるのは嫌いだった。アドルナートは名家だけど、私は小さい頃から異人というだけで一族から疎まれてきた。


――異人だったらせめてギフターになれば? そういう空気の中で育った。


 姉と弟は普通人。私だけ異人になった。祖父が異人だったので隔世遺伝かな。母からは嫌われて、父だけが私を可愛がってくれた。


「私は自分の実力でギフターになるんだ。家なんかどーでもいいの」


「ふーん。ちょっと無理しているように見えたからさ」


「はぁ? そんなことねーし」


 図星だった。無理はしている。学費なんてどうとでもなるけれど、ギフターになれないと自分の存在価値がなくなる。普通人に生まれなかった私が、異能の世界で落ちこぼれるわけにはいかない。私は無能(クズ)なんかじゃない。


「まあ、肩の力抜いていこーよ。せっかく可愛いんだからさ」


「か、可愛い……かな?」


 単純(バカ)と言われても仕方ない。自分のことを見ていてくれていた。それだけで好きになってしまった。二軍相手に一生の不覚。でも恋心だけはどうにもならない。私は尾崎くんを目で追うようになった。


 だけど私は見てしまった。校舎裏で尾崎くんがソフィアに告白して振られるシーンを。一気に冷めた。目が覚めた。しょせんは二軍の男の子。鳴り物入りで転校してきたマラソン・エナジーの令嬢に骨抜きにされた。


 ソフィアの態度も気に入らなかった。「振り方」に慣れを感じた。自分がモテるの分かってる。そんな感じだった。尾崎くんは人の良さそうな笑顔を浮かべて逆に謝っていた。私は隠れて二人を見ていた。これが失恋か――気が付くと私は泣いていた。



 ◆



「う……」


 ヴィオラは目を開けた。満月が見える。背中にひんやりとコンクリートの感触があった。身体を起こすと激痛が走った。肋骨が何本か折れている。ボタタと血が滴る。顔の左側を触ると血がベッタリと付着した。左目が見えない。


「……()っ」


 ヴィオラは右目で前を見た。そこにソフィアが立っていた。学校では視せたことのない禍々しいマナを放ち、クラスメイトに見せたことのない冷たい笑みを浮かべている。フワフワのブロンドが血に染まっているが、それは返り血だった。


『ふふ。もう終わりですか?』


 ゾッとした。明らかにソフィアの声ではない。ヴィオラは思わず後退りをするが、恐怖心より自尊心が上回った。枯渇しかけているマナを右手にかき集める。キィィィ! 空気が震撼し直径二十センチほどのマナ弾が生成された。それは生半可なマナ壁なら貫通する威力があった。


「黒川先輩からマナを絞れって言われたのよね……こんな感じかなぁ」


 初等部の生徒とは思えない練度のマナ・コントロール。まごうことなき非凡。ヴィオラにはギフターになり得る素質があった。


「実験台になってよ! ソフィアぁー!」


 凝縮されたマナ弾が射出された。瓦礫と化した遊具の上をギュルギュルと回転しながら飛んでいく。しかしソフィアは動かない。ただフッと息を吐いた。――次の瞬間、マナ弾が宙で掻き消された。ヴィオラは目を見開く。


『愚か者。それはこう使うのです』


 ソフィアはマナ弾を生成すると一気に距離を詰めた。ボキッと骨が砕ける鈍い音が響く。「ぐっ!」ヴィオラは大量の血を吐いて地に伏した。マナ弾を直接腹部に叩き込まれたのだ。ソフィアはヴィオラの頭を踏みつけて嘲笑的に言った。


『これは接近戦でこそ使える技ですよ。馬鹿正直に遠くから撃って当たるわけないでしょう』


「……さっさと殺せよ。ばーか」


 ソフィアはマナを込めてヴィオラの腹を蹴り上げた。バキョッ! 激しく吹き飛び壁に叩き付けられる。「うぐ……」ヴィオラはもう身体を動かせなかった。ソフィアは再びマナ弾を生成しながら問う。


『殺す前に聞いておきましょうか。どうしてこの子の敵になったのでしょう』


(……この子?)


 妙な言い回しにヴィオラは眉をひそめた。敵になった理由――言えるわけがない。


『ああ、ソフィア。私の愛しい娘……アデルキリアで殺された私の妹……かわいそうに。私がこの愚か者を殺してあげるから。泣かないで……愛してる、愛しているわ』


 ソフィアは涙を浮かべながら独り言を言っていた。こいつは狂っている。ヴィオラはそう思った。そして自分がもう助からないことを悟った。


 最期になにを言ってやろうかな――どうせ死ぬならソフィアの心に一生癒えない傷痕を残してやる――ヴィオラは唇を歪めた。


「……」


 しかし、逡巡したヴィオラの口からこぼれたのはずっと封じ込めていた本音だった。


――もし生まれ変われるなら……今度は普通人がいいなぁ。


 その呟きは夜風に溶けていく。ソフィアはヴィオラに向けて言った。


『ソフィアの敵に死を』


 玉を転がすような声で無慈悲な死刑宣告――ヴィオラはゆっくりと目を閉じた。

【参照】

精神感応系コース→第百二十九話 ソフィアの学校生活

南にマナを絞れと言われた→第百六十話 ソフィアとヴィオラ

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