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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二十四章 月夜叉の器 ――ソフィア覚醒編――
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第三百六十四話 マナの深淵と思念加工

「ソフィアがいなくなったんです!」


 そう叫ぶフィルは以前に会った時よりも衰弱していた。顔が青白い。目にクマができている。生気が無い――明らかに死相が出ていた。シュウは後悔した。ソフィアの異変に気付いた時点で行動を起こすべきだったと。


「とにかく車に乗ってください! 事前にソフィアからそれらしい場所を聞いていますから! 道すがらお話しします」


 そこでフィルはリッカを見た。その表情が曇る。


「赤い目の……子供?」


 いつも温厚なフィルが敵意を滲ませた。初めて見せるその姿にシュウは狼狽える。


「兄さん!」


 リンが下りてきた。フィルとリッカを見比べて不安そうにしている。フィルが感情を押し殺しながら呟くように言った。


「ソフィアが話してくれたんです。監禁されていた部屋で赤い目の子供と会った。そして『また会おう』と言われたと……」


――セツカはシャーロットだけでなくソフィアにも関わっている。シュウはトラウマを伴う不快感に押し潰されそうになった。


「初めまして、フィル様。私はリッカと申します。その赤目の少年の名はセツカ。私の双子の弟です」


「……弟?」


 フィルはリッカを睨む。娘をそそのかした者の一味。そう思われても仕方のない状況だった。リッカは冷静に言葉を選ぶ。


「弟がご迷惑をお掛けしたことを深く謝罪いたします。本日は私にできることがあると思い参りました」


 そこでシュウが口を挟んだ。


「リッカちゃんは無関係だぜ。もうセツカとは何年も会っていないんだ。証拠はねーけど俺を信じてくれ」


「分かりました」


 フィルは少し冷静さを取り戻した。顔は険しいままだが敵意は薄れる。


「シュウくん。ソフィアを助けてください。便利屋金蚊へ正式に依頼します」


 フィルはそう言うと車のロックを解除した。シュウの後ろでリンが悲しそうな表情を浮かべている。施設にいた頃、リンはよく泣いていた。その頃を思い出して目を逸らす。


「ソフィアちゃんが危ないらしい。行ってくるぜ」


「私も……!」


「お前は来るな」


 根拠はないがリンをセツカに近づけてはならない。そう思った。シュウはリンの頭を撫でると車に乗り込んだ。



 ◆



 フィルは運転しながら南から聞いたことを話した。ソフィアにはフローラと精霊が憑いていること。ヴィオラとの戦闘で異能が暴発したら自我が消えてしまうこと。


「私は現場に来るなと言われました。だから護衛を二人送りましたが……いてもたってもいられない。だからシュウくんに頼みに来たのです」


「南が動くってことはかなりヤバイ状況ってことだなぁ。面倒くせぇ」


「ふふ」


 フィルが笑った。なんだよとシュウが問う。


「いえ、君達は不思議な関係です。警戒しながらもどこかで信じ合っている……ギルハート出張も安泰ですね」


「俺はまだ行くとは言ってねーよ」


 シュウはわざとらしく溜息をついた。そして横にいるリッカへ話し掛ける。


「ところでリッカちゃんはどうしてついてきたんだ?」


「ご説明いたします。今回は相手が人間ではありません。月の精霊エストリエとフローラさんの残留思念です。マナの攻撃は有効ですが、そこまでの効果は望めません。黒川南さんでも厳しい展開になるでしょう」


 リッカは窓から満月を見上げる。その横顔は儚い。


「……もしセツカが現れたら更に状況が厳しくなります。あの子はマナによる攻撃を無効化します」


「そんなことできるのか?」


宇宙記録庫(マナペディア)にアクセスする赤目(アカシア)は『マナの深淵』に触れるため、通常の異人では発現しない異能を得ます。その一つが<思念加工マナルケミ>です。あの子はマナを消し去ることができます。つまり異能が効きません」


 シュウは唸った。ソフィアを助けるために監禁場所へ踏み込んだ時、リンは思念読取(サイコメトリー)を行ったが、残留思念が破損し映像が消えていたのだ。それを伝えるとリッカは頷いた。


「おそらくセツカが残留思念の映像だけ消したのでしょう」


「まどろっこしいな。残留思念ごと消した方が調査を攪乱できたんじゃねーの?」


 シュウは腑に落ちなかった。リッカは苦笑するとこう答えた。


「あの子は遊ぶんです……ゲームのように。自分の手掛かりを少しだけ残しておくんですよ。まだ子供ですから」


 そう言うリッカの顔は姉のようにも母親のようにも見えた。


「究極のかまってちゃんかよ! うぜぇガキだぜ」


 そこでフィルが疑問を呈した。


「リッカさんはセツカくんのように特殊な異能を持っているんですか?」


「はい。私の異能は<浄化(ピュアリファイ)>――汚染されたマナを正常に戻すことができます。これを使ってフローラさんの邪気を祓えばソフィアさんを救えるかもしれません」


「……そうですか!」


 フィルの顔に希望が差す。ただ……とリッカは言葉を続けた。


「私だけでは無理なのです。シュウ様のお力が必要です」


「お、俺か?」


 赤い瞳に見詰められ、シュウはポカンと口を開けた。

【参照】

破損していた残留思念①→第四話 血に染まった部屋

ソフィアが会った赤い目の人①→第十話 来訪者

シャーロットと赤い目の少年→第四十四話 世界の終わり

フィルの異変→第百二十五話 ソフィアの再会

ギルハート出張①→第百二十六話 ソフィアの愛

ソフィアが会った赤い目の人②→第百二十八話 ソフィアの試験

破損していた残留思念②→第百八十一話 部屋の鍵

手掛かりを残すセツカ→第百八十二話 また会いましょう

浄化について→第二百二十九話 迫りくる恐怖

ギルハート出張②→第三百十八話 ギルハート遠征作戦

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