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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第三十三話 ストーカーの自分語り

 すっかり夜になった東銀はざわついていた。異人喫茶の周辺は大勢の警察とパトカーに囲まれている。黒服を着た協会員の姿もある。その警察の外側を龍尾(ドラゴンテイル)のメンバーが包囲しているという異様な光景である。


 龍尾は中にいる龍王(ドラゴンキング)の構成員を逃がすつもりはなかった。野次馬の話によると、どうやら店の中で人が死んでいるらしい。それが誰かまでは伝わってこない。


 東銀を走り回ったシュウは、遠目にその様子を見ていた。目の前には合流したリンとチェンがいる。彼等にはメールで大体のことは伝わっている。


「兄さん! シャーロットさんは?」


 リンはシュウの肩を揺さぶった。その顔はいつもの無表情ではなかった。チェンも不安そうな顔をしている。


「わりぃ! 龍尾と龍王の抗争に巻き込まれて見失った! 多分、シャーロットさんは真犯人に拉致された」


 シュウは罪悪感で顔を歪めている。チェンはシュウを指差して言う。


「兄貴! シャーロット姉さんにはあのお守りを持たせたんだろ?」


「それもすまねぇ! テンパって忘れてたんだ! あれにはGPSが入っているんだよ」


 シュウは慌ててスマートフォンを取り出した。シャーロットがお守りを持っていれば居場所が分かる。


(頼む! 繋がってくれ!)


 心の中で叫びながら、スマートフォンでアプリを起動する。その画面にはシャーロットの位置情報が表示されていた。


「よし! これなら行ける!」


 シュウは短く息を吐くと<発電>した。青白い稲妻がバリバリッと音を立てシュウの身体を中心に放出されている。エレキ系のエレメンターは発電すると身体能力が向上するのだ。


「わりぃ! 先に行く! 位置情報はお前等のスマホに送ってあるからな」


 シュウはそう言うと、人混みを避けて建物の壁を駆け上がっていく。その背中はあっという間に闇夜へ消えた。リンは大きな声で叫んだ。


「兄さん! 一人で行かないでください! 無茶は……」


 兄の身を案じる妹の声は届かない。


(……死なないでください)


 シャーロットは心配だが、リンにとってはシュウの存在の方が大きい。チェンはリンの手を取って走り出した。


「リン姉! 行こう! 僕らにもやれることがあるはずだ!」


 二人はスマートフォンで位置を確認し、シュウの後を追った。今日の東銀はいつもの様子ではなく、不気味な風が吹いていた。



 ◆



 シャーロットは手足を縛られ、地下室のソファーに寝かされている。螺旋階段から降りてきた白石がシャーロットの前にスツールを置き、足を組んで座っていた。シャーロットは笑顔で白石に言う。


「さっさと済ませて解放してもらえませんか? きっと脱がせてもがっかりすると思いますけど」


「あなたが思っているようなことはしませんよ。メールにも書いたでしょう? 私はあなたを守りに来たのです……暗闇からね」


「はあ、じゃあ縄を解いてくださいよ」


「気が早いですね。少しお話をしましょう。カリスちゃん」


 白石はペットボトルのウーロン茶を飲むと、溜息をついた。


「私はね、仕事で挫折した。心を病んでニートになった。ガンシューティングゲームにのめり込んだ。スコアには自信ありますよ。でもね、いくらスコアを上げても生きている気がしない。人生に絶望していたんだ。この頃です、カリスの歌に救われたのはね」


 白石は眼鏡を拭きながら無機質に言葉を紡いでいく。


「あなたが私の世界の中心となった。そうなるとあなたの全てを掌握したくなる。SNSやブログは全てチェックしています。ファンサイトも運営している。そうだ、花束は気に入っていただけましたかねえ?」


「……花束は、やめてください」


「はは。あなたが東銀で活動していることは有名でしたからね。住所を特定するのは容易でした。ライブの配信の時、カーテンが一瞬風で揺れたんですよ。その時に見えた夜景から判別しました。あれではアバター使っても意味がないでしょう」


 同じトーンで早口に淡々と喋っている。その間も眼鏡のレンズを拭く手は止まらない。まるで同じ動作を繰り返すアンドロイドのようだ。青白い顔が一層不気味に見える。


「私を守りに来たって、どういうことですか?」


 白石は眼鏡をかけるとシャーロットを一瞥する。


「守ったでしょう? 龍尾と龍王のいざこざからね。金髪の少年が喧嘩に熱中している間、あなたは意識を失いました。救助を装って私の車まであなたを運びましたよ」


 白石は席を立つとシャーロットの前まで来る。シャーロットは思わず強張ったが、白石は彼女の手の縄を解いた。そしてペットボトルのお茶を渡す。


「飲みたければどうぞ。大丈夫です、何も入っていませんよ」


 そう言うと、席に戻っていった。どうやらシャーロットが覚悟していたような暴行を加えるつもりはないらしい。白石は何かを語りたいようだ。


「まあ、龍王に依頼して、あなた方を襲わせたのは私です。ただ解せないんですよ。私は殺せとは言っていない。二人を引き離してくれればいいと言っただけ。やはり龍王は頭が悪い。無能の集団だ」


 白石はスツールに腰掛けながら、人差し指を裸電球へ向けた。それはまるで銃を構えているようなポーズである。


 シャーロットは目を懲らした。白石のマナが人差し指の先端へ集まっていく。白石は中指を銃の引き金に見立て、引く仕草を見せる。そしてこう言った。


「――ショット!」


 次の瞬間、裸電球の一つが破裂した。パリーンと音が響き若干部屋が暗くなる。コードが風圧で揺れた。


「きゃあ!」


 シャーロットは身を屈めた。ガラスの破片がぱらぱらと落ちてくる。


「私は精神病を患い何度か自殺未遂を起こしましてね。それが原因か分かりませんが、異能を使えるようになっていました」


 白石は人差し指に息を吹きかけた。硝煙を吹くポーズのようだ。余程、シューティングゲームが好きらしい。白石は自分の人差し指を見ながら語る。


「まあ、この能力にもルールがありましてね。<ショット>と言い中指を引かないと発動しません。飛距離と威力を増したいなら長く構える必要があります。一秒ならかなり痛いデコピンくらい、十秒で人を殺せる威力になります」


 シャーロットは自分語りをしている白石のマナを観察した。


(この人のマナ……黒い。これは……)


 白石は席を立ち、役者のように歩き出した。仕草がいちいち芝居がかっている。


「ショットってゲームをしている時の私の口癖ですからね。こんなところが異能に反映されるとは興味深い。ああ、そうだ。喫茶店で龍尾の戦闘員を撃ったのは私です」


「え?」


「一触即発な雰囲気でしたからね。ああすれば抗争が起こると思いました。思惑通りというか、やはり馬鹿は馬鹿だったというか。全くね、無能っぷりに吐き気がする」


 白石はスツールの周りを一周すると、また腰をかけた。そして足を組む。まるでそのようにプログラムされているような動作である。


 裸電球が一つ減り、地下室は薄暗くなっている。白石は黒縁眼鏡を外すと、レンズに指紋が付いていないかチェックをしている。相当な潔癖症らしい。裸電球に照らしてレンズを拭きながら、おもむろに語り出す。


「さて、ここからが本題です。私が何故龍尾を撃ったのか? それは龍尾がカリスに『暗闇』をもたらす存在だったからです」


 白石はシャーロットの目を見詰める。その視線からは感情を読み取れない。まるで爬虫類のような男である。シャーロットは心拍数が上がっているのを感じていた。

【参照】

白石武彦について→第十一話 ストーカーは知っている

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