第三百十八話 ギルハート遠征作戦
二十歳までにA級へ上がるつもりだった。しかし現実は厳しい。もう三年もBBB級で足止めを食らっている。B等級が悪いわけではない。協会内での立場もそこそこだ。A級に欠員が出れば昇級の可能性はあるし。
ベテランギフターの羽生麟太郎は何年もBBB級のままだ。しかも四十歳を過ぎている。あの男を見て安心しきっているB級勢は多い。(アレがいるからまあいいか)私はそうは思えない。B級とA級の間には絶対的な差がある。生涯年収で圧倒的な差がつく。A級に上がれないなら何のための異能なんだ。せめて私の異能がアイス系やエクスプロージョン系、エレキ系みたいなレアだったら――。
異能訓練校の大学部で過ごした後、協会内のショップでバイトをして帰宅。最近、任務に呼ばれない。前回の作戦でミスでもあったのだろうか。それとも「黒川南ファンクラブ」に入っていると出世の妨げになるという噂は本当なのかな。出世したい女子のためにハンドルネーム登録制度があるからバレていないはずだけど。
南くんと同じ等級だった時期もある。思えばその時が一番満たされていた。でも駄目。彼は天才だった。あっという間に昇級し手が届かないAA級になってしまった。まあ、届かなくてもいい。彼を陰から見守りグッズを買って尽くす――今はそれで良い。そう、今はね。
私は夕飯を食べながら協会のサイトにアクセスした。通称、トクノーネット。一般人も閲覧できるが、ギフター専用ページがある。そこでは任務概要や進捗状況、報告書、ギフターのランキングなどをチェックできる。
「今月も私のランクはBBB級の四位。変化なしかぁ」
夕飯を食べ終えてシャワーを浴びた。鏡の前に立って自分を眺める。顔もスタイルも悪くない。出世を諦めて恋人でもつくって結婚してしまおうか。ギフター夫婦も悪くない。
「なに考えてんだろ、私。ギフター同士だといつ死ぬか分からないじゃない。子供に迷惑かかっちゃう」
私は溜息をついて歯を磨く。寝るまでの時間はトクノーネットに費やそう。何か昇級のヒントがあるかもしれない。
「あれ、これ……」
任務のページに「ギルハート遠征作戦」が追加されている。マラソン・エナジー常務取締役フィル=エリソンの身辺警備、世話役、その他ボランティア活動。日時、期間未定。難易度A。空いた時間で観光可。
「マジで? い、行きたい! ギルハート行ってみたい! カレーとかフムスが美味しいんでしょ!」
暫定だが参加者リストがアップされている。
「ふむふむ、この人かぁ。あれ、この人も。あ、騎士団もいる。……ああ! 南くんがいる。暑い国だけど大丈夫かなぁ。私のアイスプリンスさま」
南くんとギルハートへ行けたら――! 私のテンションは上がっていた。募集要項の欄を見る。しかしすぐ落胆することになった。
「――A級以上か。そりゃそうだよね。あの国で何人も邦人が死んでるし、ママラガンの拠点があるって話だし……」
私はパソコンの前でうなだれた。協会は残酷な超実力社会だ。諦めて参加者リストを閉じようとした時、下の方に思わぬ名前を見付けて手が止まった。
「電拳のシュウ? またこの名前……。え、フィル氏直々の指名? どういうことよ! たかが野良のストレンジャーのくせに!」
最近、報告書でよく見る名前だ。噂も耳に入ってくる。氷川四中抗争の覇者だとか、雷火の一番弟子のエレキ系エレメンターだとか。どうせ嘘でしょう。エレキ系は激レアで世界に何人もいないはず。幻の元素と言われている。スラムの子供が持っていて良い異能じゃない。
「ギルハートに行きたいギフターは沢山いるのに、なんでこんな奴が……!」
私は便利屋金蚊のホームページへアクセスし、シュウのプロフィールを眺めた。高校生みたいな顔をした金髪の少年が写っている。私に実力が足りないのは認めるわ。でもコレに劣っているわけがないでしょう。
「ふふっ、うふふふ! あははは!」
認めない。こんな現実を認められるはずがない。私はパソコンを消してスマートフォンを手に取った。
【参照】
エレキ系①→第五話 電拳のシュウ
雷火→第十八話 シュウの師匠
黒川南ファンクラブ→第二十四話 ブラコンの副会長
エクスプロージョン系①→第三十話 鬼火の後藤
エレキ系②→第四十六話 雷火のラン
エクスプロージョン系②→第六十六話 ここに化け物がいる
ギルハート遠征①→第七十四話 マラソン・エナジー
エクスプロージョン系③→第百話 異人喫茶の日常
ママラガン①→第百一話 あの男
騎士団→第百五話 アルテミシア騎士団
エクスプロージョン系④→第百十話 アダマスの鎌
ギルハート遠征②→第百二十六話 ソフィアの愛
ママラガン②→第二百四話 東国のテロリスト
羽生麟太郎→第二百二十五話 羽生麟太郎
アイス系→第二百二十九話 迫りくる恐怖
AA級に昇級した南→第二百五十八話 あんなぬるい任務じゃ僕は死なない




