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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十七章 神々の巨塔 ――異能交流試合編――
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第三百十八話 ギルハート遠征作戦

 二十歳までにA級へ上がるつもりだった。しかし現実は厳しい。もう三年もBBB級(トリプルビー)で足止めを食らっている。B等級(クラス)が悪いわけではない。協会内での立場もそこそこだ。A級に欠員が出れば昇級の可能性はあるし。


 ベテランギフターの羽生麟太郎(はぶりんたろう)は何年もBBB級のままだ。しかも四十歳を過ぎている。あの男を見て安心しきっているB級勢は多い。(アレがいるからまあいいか)私はそうは思えない。B級とA級の間には絶対的な差がある。生涯年収で圧倒的な差がつく。A級に上がれないなら何のための異能なんだ。せめて私の異能がアイス系やエクスプロージョン系、エレキ系みたいなレアだったら――。


 異能訓練校の大学部で過ごした後、協会内のショップでバイトをして帰宅。最近、任務に呼ばれない。前回の作戦でミスでもあったのだろうか。それとも「黒川南ファンクラブ」に入っていると出世の妨げになるという噂は本当なのかな。出世したい女子のためにハンドルネーム登録制度があるからバレていないはずだけど。


 南くんと同じ等級だった時期もある。思えばその時が一番満たされていた。でも駄目。彼は天才だった。あっという間に昇級し手が届かないAA級(ダブルエー)になってしまった。まあ、届かなくてもいい。彼を陰から見守りグッズを買って尽くす――今はそれで良い。そう、今はね。


 私は夕飯を食べながら協会(トクノー)のサイトにアクセスした。通称、トクノーネット。一般人も閲覧できるが、ギフター専用ページがある。そこでは任務概要や進捗状況、報告書、ギフターのランキングなどをチェックできる。


「今月も私のランクはBBB級の四位。変化なしかぁ」


 夕飯を食べ終えてシャワーを浴びた。鏡の前に立って自分を眺める。顔もスタイルも悪くない。出世を諦めて恋人でもつくって結婚してしまおうか。ギフター夫婦も悪くない。


「なに考えてんだろ、私。ギフター同士だといつ死ぬか分からないじゃない。子供に迷惑かかっちゃう」


 私は溜息をついて歯を磨く。寝るまでの時間はトクノーネットに費やそう。何か昇級のヒントがあるかもしれない。


「あれ、これ……」


 任務のページに「ギルハート遠征作戦」が追加されている。マラソン・エナジー常務取締役フィル=エリソンの身辺警備、世話役、その他ボランティア活動。日時、期間未定。難易度A。空いた時間で観光可。


「マジで? い、行きたい! ギルハート行ってみたい! カレーとかフムスが美味しいんでしょ!」


 暫定だが参加者リストがアップされている。


「ふむふむ、この人かぁ。あれ、この人も。あ、騎士団もいる。……ああ! 南くんがいる。暑い国だけど大丈夫かなぁ。私のアイスプリンスさま」


 南くんとギルハートへ行けたら――! 私のテンションは上がっていた。募集要項の欄を見る。しかしすぐ落胆することになった。


「――A級以上か。そりゃそうだよね。あの国で何人も邦人が死んでるし、ママラガンの拠点があるって話だし……」


 私はパソコンの前でうなだれた。協会は残酷な超実力社会だ。諦めて参加者リストを閉じようとした時、下の方に思わぬ名前を見付けて手が止まった。


電拳(スタンガン)のシュウ? またこの名前……。え、フィル氏直々の指名? どういうことよ! たかが野良のストレンジャーのくせに!」


 最近、報告書でよく見る名前だ。噂も耳に入ってくる。氷川四中抗争の覇者だとか、雷火(フルゴラ)の一番弟子のエレキ系エレメンターだとか。どうせ嘘でしょう。エレキ系は激レアで世界に何人もいないはず。幻の元素と言われている。スラムの子供が持っていて良い異能(ちから)じゃない。


「ギルハートに行きたいギフターは沢山いるのに、なんでこんな奴が……!」


 私は便利屋金蚊(べんりやかなぶん)のホームページへアクセスし、シュウのプロフィールを眺めた。高校生みたいな顔をした金髪の少年が写っている。私に実力が足りないのは認めるわ。でもコレに劣っているわけがないでしょう。


「ふふっ、うふふふ! あははは!」


 認めない。こんな現実を認められるはずがない。私はパソコンを消してスマートフォンを手に取った。

【参照】

エレキ系①→第五話 電拳のシュウ

雷火→第十八話 シュウの師匠

黒川南ファンクラブ→第二十四話 ブラコンの副会長

エクスプロージョン系①→第三十話 鬼火の後藤

エレキ系②→第四十六話 雷火のラン

エクスプロージョン系②→第六十六話 ここに化け物がいる

ギルハート遠征①→第七十四話 マラソン・エナジー

エクスプロージョン系③→第百話 異人喫茶の日常

ママラガン①→第百一話 あの男

騎士団→第百五話 アルテミシア騎士団

エクスプロージョン系④→第百十話 アダマスの鎌

ギルハート遠征②→第百二十六話 ソフィアの愛

ママラガン②→第二百四話 東国のテロリスト

羽生麟太郎→第二百二十五話 羽生麟太郎

アイス系→第二百二十九話 迫りくる恐怖

AA級に昇級した南→第二百五十八話 あんなぬるい任務じゃ僕は死なない

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