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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十六章 赤い蝶は夢を見る ――龍尾の五天龍・赤龍編――
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第三百八話 赤龍の聖域

 アイチンが中華街を歩いていると前方から見知った顔がやって来た。カラーズの葛巻だ。反社の若者だが外見は大学生と見分けがつかない。人懐っこい笑顔を浮かべている。アイチンに気が付くと大きく手を振った。


「アイチンちゃーん!」


「葛巻さん、お疲れさま」


 どちらも二十代には届いていない。同い年くらいだった。だからか気は合った。道の脇で立ち止まる。


「最近、噂になってるよ……赤龍一派の女がDMDを捌いているって」


 葛巻が声をひそめる。


「うっさい! そんなわけないじゃん!」


 アイチンは葛巻の頭を叩いた。


「いってえ! 分かってるよ! ただ……結構ヤバイ感じで広まってんだ。気を付けろよ」


 アイチンが溜息をついた。


「なんで赤龍(うち)なのよ。カラーズだってDMD扱っているじゃない」


 葛巻は首を横に振った。


「カラーズは関東、北海道、九州に拠点があるけど場所によって全然性格が違うのさ。ここ籠鳥町のカラーズはドラッグを扱わない。赤龍を通して龍尾と仲良くしたいからね。シンさんが嫌がることはしないよ」


「……そうかもしれないけどさ。うちだって扱わないよ。シン様が怒るもん」


 アイチンは口を尖らせる。その仕草はまだまだ幼い。


「藤堂会のシマでDMD売っている売人は中国人の女らしい。黒髪でピンク色のマスクをつけているんだってさ。その背格好がシャンリンさんと似ているって噂さ」


「シャンリン姉さまがやるわけねーだろ!」


 アイチンの拳が葛巻のみぞおちに入った。火のマナを込めた拳だ。たまらず咳き込む。


「げほっ! さすがシャンリンさんの一番弟子……手が速ぇうえに(あち)い」


 葛巻の服は燃えていなかった。咄嗟にマナ壁を展開し防御したのだ。葛巻は腹を押さえながら警告をする。


「とにかく! その中国人の売人を捕まえないと埒が明かない。藤堂会と戦争になっちまう。協会(トクノー)が介入してくる前にケリを付けた方が良いと思うぜ」


 葛巻はいつもの軽い雰囲気ではなく真面目な表情をしている。それが事態の深刻さを表していた。


「姉さまも同じこと言ってた。でもどこをどう捜すのよ。籠鳥町は広くて深い。出島まで含めるともう無理でしょ」


「僕はシャンリンさんのファンだしシンさんを尊敬している。普段ならお金を取るけど今回はサービスだ。いい情報(ネタ)がある」


 葛巻は絞っていた声を更に絞った。アイチンが顔を近づける。


「今週の金曜にDMDの取引があるらしい。場所は籠鳥町の北側、港の倉庫街近く。あの辺りは河の向こう側に出島のスラム街があるから難民が多い。一応、藤堂会の縄張りだけど、いつも手を焼いているらしい」


「時間は?」


「ごめん、金曜の夜としか。それにその中国人が現れるかは分からない。罠の可能性もある」


「罠って?」


「この籠鳥町は赤龍と藤堂会の影響があって新興勢力が侵入しづらい構造になっているけど、龍尾の敵がいないわけではないだろう。そういう奴等の揺さぶりかもしれない」


「もう何年も籠鳥町では大きな抗争が起こっていないじゃない。シン様が睨みを利かせているもの。排外的な藤堂会も番犬代わりになっているし、協会の九州支部もあるしさ。龍王だって九州には来られないんだから」


 アイチンの言うとおり、龍王は九州までは進出していないとされている。


「まあそうなんだけどな、用心はした方がいい。夜回りするなら精鋭でチームを組みなよ。なんか嫌な予感がするんだ。シャンリンさんに気を付けてって伝えて」


「うん、ありがとう。葛巻さん」


 アイチンは素直に頭を下げた。葛巻は笑顔で手を振るとその場を離れた。アイチンはしばらくその背中を見送った。


(姉さまに伝えないと)


 葛巻の姿が人ごみに消えるとアイチンは南龍飯店へ向けて歩き出した。

【参照】

カラーズ①→第三話 スーツケースの中

カラーズ②→第七十八話 カラーズ

カラーズ③→第百六十五話 青髪のロウ

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