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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十五章 神威計画 ――中浦公園抗争編・神威vs異人狩り――
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第二百八十七話 指導者の天賦

 坂田の素顔は美青年だった。切れ長の目に白い肌、細い輪郭。薄い唇はうっすらと紅色だった。隣の如月が思わず二度見をする。


「後藤くんは赤龍の件で忙しいからゴミの相手は私がしよう」


「ざけんなぁ! 緑頭ぁー!」


 異人狩りがシュウを無視して坂田に襲いかかる。坂田は一歩も動かない。その余裕が不吉な未来を感じさせた。


「お前等、よせ!」


「死ねぇー!」


 男達はツクモの制止を聞かずに武器を振りかぶる。坂田は冷たい笑みを浮かべるとこう言った。


『『異人狩りの諸君、今ここで殺し合え』』


 脳に直接響くような声。遠くにいるのに耳元で囁かれたような感覚。暴徒と化した男達の動きが止まる。


「あ、あれ? なんで……」「おい! やめろぉ!」男達は凶器を手に向き合った。まるで何かに操られているかのように。その後は凄惨だった。仲間同士の殺し合い。殺戮が始まった。


「ココナ! 見るな!」


 シュウがココナに駆け寄り抱き寄せる。ココナは耳を塞いで目を瞑った。怒号、銃声、金属が擦れ合う音、異能の音、そして断末魔。異人だからこそ死ににくい男達の殺し合いは筆舌に尽くしがたい様相を呈した。


 五分も経過すると静かになった。坂田は腕を後ろに組んだまま佇んでいる。目の前でツクモを除く異人狩りの男達が死に絶えていた。少し後ろで如月は青くなっている。端正な顔が恐怖で歪んでいた。


「君たちの(ねだん)は青木さんの無念と比べると安すぎるな……赤字が埋まらないよ」


 坂田はボソリと呟いた。遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。この公園へ向かっているようだった。坂田はマスクを着けるとツクモに言った。


「聖浄会の朝倉へ伝えろ、龍王をなめるなと。フェイロン様の恐ろしさはこんなものではないぞ」


「ひゃはは! 精神感応系の新種の異能か? いいねぇ、殺してやるよ! そこの金髪とまとめて相手してやらぁ!」


「君たち異人狩りは今日の抗争でかなり戦力が減っただろう。中浦沼の方も異人ホームレス相手に大敗を喫したようだよ。当分は大人しくすることだ」


「へぇ、オレを殺さないのかよ? 今やっておかないと後悔するぜ」


「警察がここへ来る。互いに消えた方がいいだろう」


 ツクモから笑みが消えた。風に乗ってパトカーのサイレンが近付いてくる。ツクモは舌打ちするとシュウの方へ歩いてきた。シュウはココナを庇ってツクモを睨む。


「シュウとか言ったな。オレは異人狩りのツクモだ。覚えておけ」


「うるせぇ、さっさとどっかへ行け」


 ツクモはシュウの背中で怯えるココナを一瞥した。


「おい女、お前は協会員になれ。二度とオレの前に現れるな」


「え? ツクモくん」


 そう言うとツクモは夜の闇へ消えた。ツクモの言葉の真意を図りかねてシュウとココナは顔を見合わせる。坂田が口を開いた。


「聖浄会は協会(トクノー)の支持を表明しているからねぇ! つまり協会員は異人狩りの標的から外れる! そういうことじゃない? ツクモと君の関係は私には分からないけど!」


 いつもの坂田(テンション)に戻っていた。ココナは悲しそうに目を伏せる。


「やはり異人狩りの後ろには聖浄会がいるのですね」


「あくまでも噂だよ! ただギフターが襲われたという話は聞かないよねぇ」


 そして坂田はシュウを見た。


「そうそう、シュウくん。私は君に感謝している。君は遠藤くんと新垣くんを面接会場まで導いてくれた。今や彼等は立派な戦力になっているよ! だから君はファイブソウルズを追うのはやめたほうがいいね、敵対したくないからさ」


 シュウは混乱した。何故この男が自分の事情を知っているのか分からなかった。先刻龍王を名乗ったこの坂田という男。警戒するのは当然だった。


「ところで……さっき君は沼のほうで神威の士気を高めたね。公園中に響いた馬鹿でかい声。興味深いことに神威たちはアレで息を吹き返した。君のような少年が前に出て戦う姿に触発でもされたのかな。神威の中には君より強い者も沢山いたんだけどね。不思議な現象だった……いや、やはりというべきかな」


「は?」


 坂田は空を仰いで言葉を続けた。


「実はね、私は遠藤くんの件の前から君を知っていたんだ。三年前の氷川四中抗争――君は南中の不良を率いて反社組織をも退けたと聞いている。つまり当時から指導者の天賦があったわけだねぇ」


「お、お前! 何でそんな昔のこと知ってんだよ!」


「私は君の青臭い正義感が嫌いではないよ。でも異人街で頭角を現してくるなら無視はできない。くれぐれも自重することだ。命は大切に」


 坂田が手を振って去って行く。如月はぺこりと頭を下げるとその後を追っていった。ハイヒールの音が遠ざかっていく。二人とも廃墟群の方へ消えていった。後には青木と異人狩りの死体が残される。パトカーのサイレンがすぐそこまで近付いてきていた。

【参照】

後藤①→第二十九話 龍王の襲来

氷川四中抗争①→第五十三話 便利屋の少年と大企業の令嬢

後藤②→第六十四話 フィオナと稲葉

シュウと遠藤の縁→第六十八話 五千円で一緒に行ってやるよ

シュウを知っていた坂田→第六十九話 詐欺の才能

氷川四中抗争②→第七十七話 ソフィアのスマートフォン

龍王フェイロン→第七十九話 龍王

聖浄会と異人狩り①→第百四十三話 異人病

聖浄会の朝倉→第百五十二話 聖浄会の朝倉澪

後藤③→第百五十六話 見付かったのは腕だけなんだよね

聖浄会と異人狩り②→第二百五十話 神威の残党を狩れ

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