第二百八十六話 シュウ対ツクモ
「神威計画でもエレキ系は発現しなかったと聞いている。お前レアな異能持ってんじゃんかよ」
ツクモが指を鳴らすと廃墟からゾロゾロと異人狩りのメンバーが現れた。十人はいるだろう。シュウはココナを庇うように立つ。ツクモは狂気的にせせら笑った。
「へへっ、安心しろよ。オレ一人でやってやる。右手一本で遊んでやるぜ。来いよ、金髪」
一秒の躊躇もなくシュウは飛び出した。先手必勝。発電を使い神速の踏み込みでツクモへ迫る。「ひゃははっ! イノシシ野郎が!」笑いながら右手で印を切った。
突然、シュウの目の前にマナ壁が生成される。「なにっ!」得意のダッシュが寸断された。自慢の電拳が空を切る。マナ壁から距離を取ろうとバックステップするとドンッと背中に何かが当たった。二枚目のマナ壁だ。退路を断たれた。ツクモは嘲笑を浮かべて叫ぶ。
「バカが! マナ壁はこう使うんだよ!」
気が付くとシュウの四方がマナ壁で囲まれていた。凄まじい生成速度と緻密なマナ・コントロール。シュウは一瞬でマナの檻に収監された。しかし天井はない。シュウはツクモのマナの干渉を感じて上を視た。
「敢えて上を開けてんだ。こうするために……!」
ツクモが手を空に掲げると、キラリと何かが光った。それは空気の槍だった。シャッと乾いた音を立てて天空から三本の槍が落ちてくる。狡猾なコンビネーション。しかし技の照準――マナの軌道を視界に捉える。シュウは拳に電気を集めた。
「くっ!」
両の電拳で槍を叩き落としたが一本が左肩を貫いた。鮮血がバシャッとマナ壁を染める。「きゃあ!」ココナが後ろで悲鳴をあげた。マナ壁が消えるとシュウは地に足をついた。
「良い目してんじゃねーか。俺のマナのリンクに気が付くなんてよ。さては相当飛び道具慣れしてやがるなぁ?」
シュウは左肩に手を添えて立ち上がる。激痛が走った。
(今死ななかったのはナツさんの授業のおかげだな)
血が滴り服を真っ赤に汚していく。ツクモと同じ箇所を怪我した。お返しか――狙われたのかもしれない。シュウはツクモを睨んだ。
「ま、お前は有能な方だぜ。オレの左腕をこんなにしたんだからな。だから狩らないでいてやるよ」
「なんだと!」
ツクモはココナへ視線を向けた。
「あの女を目の前で嬲ってやるから特等席で見ていけよ。なあ、お前等!」
背後の異人狩りのメンバーから歓声が上がる。「オレオレ! オレが一番に相手してやんぜぇ」「可愛いじゃん! 顔潰すなよぉ! ひゃひゃひゃ」欲望を隠そうともしない異様なテンションだ。質の悪いことにそれぞれがそれなりの実力者だった。傷を負ったシュウでは防ぎきれない。
「ココナ! 逃げろ!」
「で、でも……シュウくんを置いていけないよ!」
ココナは恐怖で震えながらも逃げようとしない。ダーカー討伐の時も無茶をしたと聞いている。ココナは他人を見捨てられない。脳裏にある言葉がよぎった。絶体絶命――シュウがマナを振り絞ろうとした時、場違いに陽気な声が響いた。
「あっはっは、ご機嫌だねぇ! 異人狩りの皆さーん」
シュウは声の方を振り返る。ツクモは怪訝な表情を浮かべた。ココナの横に龍王の坂田と如月が立っている。如月はココナの肩に手を置いてにっこりと微笑んだ。
「な、なんだよ、お前等! ココナから離れろ!」
シュウが叫ぶ。坂田は外国人のようなジェスチャーをした。
「なになになにー? 電拳のシュウくん! 私たちは悪者だけど敵じゃないよ。龍王の特殊詐欺担当、坂田でーす!」
坂田は青木の死体を見る。目を細めて呟いた。
「……うちの商品を殺したね。ドラゴン荘が満室じゃなくなっちゃったよ。買い手が付きそうだったのに全てパアだ。如月くん、どのくらいの損失になるのかな」
低い声だった。いつもの笑い声ではない。緊張感が漂う。如月が美声で答えた。
「満室でなくなると数百万は価値が下がります」
「……」
沈黙が流れる。坂田は静かに言った。
「やってくれたねぇ、異人狩りの諸君。我々龍王に盾突くとは馬鹿としか言いようがないよ」
「なんだテメーはよぉ! ぶっ殺されてーのかぁ!」
坂田の言葉を聞いて異人狩りが騒ぎ出した。ナイフや銃を手に取って今にも飛びかかってきそうだ。シュウは状況が読めずにいた。ツクモを見る。怪訝な表情を浮かべたままだ。動こうとしない。
「君たちには死んでもらおうかな」
坂田は黒いマスクを外した。
【参照】
坂田→第百五十六話 見付かったのは腕だけなんだよね
ドラゴン荘を売る→第百五十七話 貧困ビジネス・ドラゴン荘
ダーカーから逃げなかったココナ→第二百二十九話 迫りくる恐怖
マナのリンク→第二百五十二話 マナを展開しリンクさせて撃つ




