第二百七十九話 孤児のカリスマ
「チェンくんは難民やホームレスとの関わりが深い。それは彼も難民だったからさ」
夏目が静かに語り出した。
わりとよくある話なんだ。密航した難民が現地でブローカーに転身するケースがね。チェンくんもそうだった。この公園にも彼が仲介し密航した者がいるよ。中国シンジケートの百頭や他の組織とも繋がりがあったようだ。
彼は子供だが頭がすこぶる切れた。異人街で瞬く間に頭角を現した。異名は鍵師。マナ量が多く、異能も強力でリーダーシップもあった。そのカリスマ性でストリートチルドレンのネットワークを構築したのさ。
子供だから入れる場所、得られる情報は多い。彼は精神感応系の異人児童を率いて情報の世界で知られる存在へと上り詰めたんだ。ロックスミスの腕は確かだと裏社会で評判になった――。
「しかし危ない連中とも付き合っていたみたいだね」
夏目の言葉にシュウが怪訝な表情になった。
「何をしていたんだ?」
「反社組織と難民の仲介役さ。難民はレアな異能を持っていることが多いだろう。要は戦闘員の斡旋をしていたんだ。大きくなったチームを養うのに必要なリスクだったんだろうが……最近、特に危険な連中と関わっていたようだ」
「危険な連中?」
シュウの疑問に夏目の横にいた玄が答えた。
「ありゃ化け物だった、外面は子供だが中身は龍の化身だな。内に秘めるマナ量の桁が違う。一騎当千とはアイツらのことだ。そんな奴が五人もいたんだ。協会や騎士団でも勝てやしないだろう」
シュウは直感的に分かった。
「――ファイブソウルズ」
夏目が頷いた。
「おそらくそうだろうね、ナンバーズと呼ばれる連中だろう。チェンくんはこの公園で彼等と接触していた。左目に傷がある少年と話していた。半年ほど前に一回、三ヶ月ほど前に一回見掛けたが、それ以降チェンくんは姿を消したんだ。今どこにいるのかは我々も知らない」
「……チェンがファイブソウルズを異人街へ引き入れたのか?」
「それは分からない、この辺りにはブローカーが沢山いるからね。ただ……彼等はきっと顔見知りだったんだと思う。おそらく同郷ではないだろうか。そんな雰囲気だった」
「そう……か」
夏目は鋭い。チェンはファイブソウルズと同じサルティ連邦共和国出身だ。チェンが連中の目的に手を貸す動機がありすぎて釣りがくる。シュウの嫌な予感は当たったようだ。早急に雨夜へ報告する必要がある。
「シュウくん、君に会ってほしい人がいる」
「ん?」
シュウは力なく視線を夏目へ向けた。
「荒川第一難民キャンプにラリーンという女性の情報屋がいる。チェンくんと親しくしていた。きっと彼女なら何かを知っているだろう」
「俺は関係者じゃないからキャンプには入れねーよ」
一度入ろうとしたが武装した警備員に阻まれ不可能だった。シュウの考えたことが分かったのだろう。夏目は人差し指を立てて横に振った。
「正面から行っても駄目さ。中浦公園の件が片付いたら案内しよう」
夏目は細く微笑んだ。時間はなかったが話を聞いてよかったかもしれない。シュウはそう思った。
「ありがとう、ナツさん。じゃあ、俺急ぐわ」
シュウが短く息を吐くとマナが電気を帯びた。髪が逆立ち青白い電流が弾ける。
<発電>
身体能力が向上する。一秒でも時間が惜しかった。シュウは公園の出口を目指して木々の間を全速力で駆け抜けていった。(急がねぇと!)シュウは焦っていた。ポケットの中のスマートフォンが振動していたことに気が付かなかった。
【参照】
反社組織と難民の仲介→第十三話 密航ブローカーの子供
サルティ連邦共和国→第四十八話 サルティ連邦共和国
難民キャンプのラリーン→第五十九話 難民キャンプの情報屋
左目に傷のある少年①→第六十五話 野生の龍
ファイブソウルズのナンバーズ→第八十二話 ナンバーズ
難民キャンプに入れなかった→第百四十七話 西の最果てを彷徨う
シンジケートの百頭→第百七十一話 百頭のポン
左目に傷のある少年②→第二百十話 復讐の炎




