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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十四章 赤目の支配者 ――ターニングポイント――
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第二百五十九話 南くんの正妻は誰ですか?

 フィオナ、アリス、ブリュンヒルトの三乙女はゲストと会話をしながら南の様子を伺っていた。しかし今日の主役である南は人に囲まれて忙しそうだ。さっきまでは異人の友社の取材を受け、今はジャイのココナと西田が挨拶をしていた。なかなか会話のチャンスが生まれない。


 フィオナは大人しく待っていた。しかし焦りは無い。その表情には余裕が生まれ、肌はツヤツヤしている。


「おい、フィオナ。あんた、最近調子よさそうだけど……まさか黒川弟(あのこ)と何かあった?」


 ブリュンヒルトが問う。


「別にないわよ」


 フィオナは涼しい顔で答えた。


「入院中は面会謝絶で会えなかったはずだけど、あんた……もしかして初体験済ませた? なんか肌ツヤツヤだし」


 ブリュンヒルトが焦った口調で問い詰める。アリスもまじまじとフィオナの顔を見た。任務でいつ命を落とすか分からない三人にとって恋愛事情は切実だ。年上のブリュンヒルト、アリスを出し抜いたとなると喧嘩になりかねない。


「何もなかったわけじゃないけど、処女(まだ)よ」


 フィオナは正直に答えた。しかし、キスを経験したフィオナは確実にリードした――と思っている。その事実が彼女に余裕を与えていた。正妻は自分だと。


 宴会場はかなりの盛り上がりを見せていた。次々に料理とドリンクが運ばれてくる。羽生と稲葉がビールを飲んでいる姿が見えた。


 スイーツコーナーに南の姿がある。その横には初等部の女子生徒が集まっていて南にケーキを取り分けようと必死になっていた。まるで戦争だ。その脇で南はケーキを頬張っていた。ブリュンヒルトが苦笑しながらアリスに話しかける。


「ねえ、ケーキ食べているアレがAA級だよ? あんなに大怪我しておいて早く戦場に戻せって? 自信なくすわー……アリスはいつAA級に上がったっけ?」


「私は十七歳になった日ですね、わりと最近なんですよ」


 フィオナが南を見ながら言った。


「それにしても、私は南の父親を初めて見たけれど……似ていたわね。あの子もあんなイケオジになるのかしら……あら?」


 華恋が南の世話を焼いている姿が見える。ウェットティッシュで口元を拭いていた。心なしか頬が緩んでいるように見えた。


「……あれは委員長の仕事かしら?」


 フィオナから正妻の余裕は消えていた。


「油断も隙もないわね、あの子本当に腹黒いわ」


 フィオナはスイーツコーナーへ行こうとしたが、酔った稲葉が話し掛けてきた。


「よう、ラクルテール」


「ちょっとウザいわよ、稲葉。邪魔しないで」


 フィオナは珍しく不機嫌オーラを露わにした。


「なにイラついてんだよ。あぁなるほどねぇ」


 稲葉は南と華恋を見た。


「朱雀は俺と同じで出世欲があるから副会長に嫌われるようなことはしないだろう。あいつは委員長になって南の世話をするポジションを選んだ。友達以上恋人未満、一線は越えないさ」


 稲葉はこう続けた。


「騎士は一途だ、騎士道精神に忠誠があるからな。常に優秀な主君を求めている。固すぎんだよ、騎士団の女は。もっと遊べよ。いつ死ぬか分からねーんだからさ」


 フィオナ達は顔を見合わせる。稲葉はグイッとビールを飲み干した。


「だからアイツにも言ってやったんだよ、沢山の女と遊べって! 俺が色々教えてやるってさ! あははは」


「あらあら、稲葉さん」


 アリスは笑顔のままツーハンドソードを手に取ると柄頭(ポンメル)を稲葉の腹部に打ち込んだ。メリッと鈍い音を立ててめり込む。副団長の神速の一撃だった。


「ぐはっ!」


「いけませんねぇ、まだ幼い南くんに変なことを吹き込んでは……うふふ」


 清廉と言われるアリスは精神的に潔癖症だった。フィオナは華恋を睨んで言う。


「朱雀さんがニヤけ過ぎていて見ていられないわ。ちょっと行ってくるわね」


 フィオナとアリスはスイーツコーナーへ向かって歩き出す。ブリュンヒルトは床に伏している稲葉を一瞥して「バカ稲葉」と吐き捨てた。悶絶する稲葉を余所に宴会は最高潮の盛り上がりを見せていた。

【参照】

異人の友社→第十二話 せっかく異人の友社に入社できたのに私の知能が低すぎる件【落合茉里咲】

三乙女の恋愛事情→ 第百九十九話 女騎士の本音トーク

羽生→第二百二十五話 羽生麟太郎

フィオナと南のキス→第二百四十話 月明かりのファーストキス

ココナと西田→第二百五十三話 笠原ワクチンに近づくな

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