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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十四章 赤目の支配者 ――ターニングポイント――
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第二百五十四話 騎士団の女とでも遊んだらどうだ?

 A級ギフターの稲葉が病室のドアをノックする。「入るぞ」一声掛けて中に入った。


 病室に黒川南が立っている。息が白い。冷気のマナが<展開>されている。思わず目を見張るマナ・コントロールだ。


(こいつ、全快してんじゃねーか。腕にも後遺症なしかよ、可愛げねぇな)


 稲葉が呆れる。南は稲葉に気が付くとマナを閉じた。


「よう、黒川弟」


 挨拶をするが南は視線を逸らしただけだった。


(……俺の名前覚えてねぇな)


 稲葉は咳払いをするとこう言った。


「稲葉晃司だ。そろそろAA級(ダブルエー)に昇級……の予定だったがお前に先を越されたな。まあ、おめでとうと言っておくぜ」


 南は無言でギフターの黒服を羽織る。今日は退院の日だ。


「なんか用?」


 ようやく一言発したが敬語ではない。先輩に対する気遣いは皆無(ゼロ)だ。「ふー……」稲葉は苛立つ自分を抑えた。惚れた亜梨沙の弟だ。仲良くした方が得だった。


「お前の退院祝いと昇級祝いを兼ねて五時に会場を予約した。プリンスタワー・AMAHEBIだ。来いよな」


「行かない」


 即答だった。南が素直に来るわけがない、想定内の返答だった。


「お前のためだけじゃない。ダーカー退治を労う場でもあるし、支援団体と交流の場でもある。そんなに構えなくてもいい、気軽な立食だ。参加しろよ」


 南は稲葉の脇を通り過ぎてドアノブに手を掛けた。


「副会長が主催だぞぉ」


 南の動きが止まった。


「見ろ、黒川亜梨沙の名前で予約されている」


 南は提示された予約完了メールをじっと見る。


「亜梨沙さんが主催となると話が大きくなってな。協会の恩恵にあやかりたい団体や組織がこぞって参加を表明してきた。それでホテルの宴会場を貸し切ったというわけだ。とにかく副会長のご命令だ。お前に拒否権はない、諦めろ!」


 稲葉にとっても亜梨沙の好感度を上げチャンスだ。スケジュールを滞りなく進める必要があった。規模が事前の想定を超えて大きくなっており、議員秘書や警察関係者、マスコミも参加する予定である。モデル業を務める稲葉はそのようなビッグイベントに慣れており張り切っていた。


「じゃあ、俺は色々と準備があるから行くぜ。結構でかいイベントになっちまっているからな。五時に雨蛇町だぞ、忘れんなよ」


 南は病室を出て行く稲葉を無言で見送った。


「あ、そうそう。言い忘れたぜ」出て行ったと思ったらすぐに戻ってきた。「……なに?」南は冷めた目で稲葉の顔を見る。


 いつも不機嫌そうな稲葉がニヤッと笑う。


「これからお前、モテるぞ」


「……いきなり何?」


 稲葉は南の肩を叩く。


「俺もモテる、モデルやっているからな。だから分かる、お前もモテる。お前はサラブレッドだ、父親は協会の役員、姉は副会長。身長はちと足りないし性格は暗いが可愛がられるタイプだ」


 稲葉の目は生き生きとしていた。女の話は好きらしい。


「そのうえ、お前はAA級に上がった。彼女作り放題さ!」


 稲葉の白い歯がキラーンと光る。弟に彼女ができれば亜梨沙の目が覚めるだろう、という思惑もあった。ポンポンと南の頭を叩く。


「取り敢えず騎士団の女とでも遊んだらどうだ? ブリュンヒルトとか狙い目だ。即結婚なんて考えるなよ、遊べ遊べ、少年よ。はっはっは」


「興味ないよ」


「まあ、そう言うな。これまでお前にはキツく当たってきたが、俺は心を入れ替えた。これからは色々と教えてやる。炎上しない遊び方とかな!」


「……」


「あ、そうそう! 今日は会長の神喰正宗がスピーチするぞ。お前の親父さんや水門重工の社長も来る。一応伝えておくぜ。じゃあなー」


 稲葉は爽やかに笑うと病室を出て行った。南はその背中を見送ると気怠そうにため息をついた。

【参照】

プリンスタワー→第四十三話 天空で語らう

南をいびっていた稲葉→第五十六話 異能訓練校の劣等生

心を入れ替えた稲葉→第二百三話 亜梨沙の憂鬱

ブリュンヒルトがおすすめ→第二百三十四話 無垢な乙女と天然ジゴロ

入院した南→第二百三十八話 終末の世界で生きていく

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