第二百五十二話 マナを展開しリンクさせて撃つ
シュウの毛が逆立ち、パーカーのフードがはためく。青く光る電気がバチバチッと弾ける。エレキ系のエレメンターのマナは電気を帯びる。ホームレス村の住人が興味深そうに様子を伺っていた。
(ここまではいつも通りなんだけど)
<火花>の説明の時、ランは言った。
――発電の時に漏れ出ている電気を一箇所に集めて撃つのよ。ホースで水を放出する感覚に近いわね――
(ホースで水?)
――マナが血液のように全身を巡っている。それをせき止めるの。……すると、マナが溢れ出そうと抵抗してくるでしょう。そのタイミングで射出する――
(マナをせき止める?)
シュウにはその感覚が理解できなかった。マナは淀みなく身体を巡っているものだ。そもそも止めることができない。
「どうした、少年」
右手を構えたまま硬直しているシュウに夏目は声を掛けた。シュウが落胆して溜息をつくと電気が霧散する。
「分からないんだ、マナを射出するイメージがね。手から放れていく気が全くしない。俺、飛び道具の才能ないんだよ。師匠はマナをせき止めろって言っていたけどさ」
夏目は無精髭を撫でながら言う。
「きみは内マナ型寄りだな」
「何それ」
「技を出す時、自分のマナに依存するタイプだ。武術に精通する者はこれが多い。外マナ型は自然や生き物のマナに依存し、中マナ型は内と外の中間だ。技の規模が大きい術者は外マナが多いな。何が言いたいかというと、マナの射出のイメージはタイプによって異なるんだ。私は中マナ型だ、だからきみの感覚も理解できる」
夏目は重心を落とし、半身を切った。左手を前に突き出し息を吐く。シュウは目を見張った。一流の武闘家のように見えたからだ。
「気功系の異人は硬気功や発勁などの近距離攻撃に偏る。しかし、そんな彼等も稀に遠距離攻撃を使う。<遠当て>と呼ばれる技だ」
滑らかで繊細なマナ・コントロール。夏目の右手にマナが集約されていく。視線は五メートル先の大木を捉えている。
「マナを飛ばすのではない。自分のマナを相手のマナに当てるのだ。手を伸ばして遠くの物を掴むように――!」
右拳を打ち抜いた次の瞬間、ドンッと大きい音を立て、大木の樹皮が砕けた。木の葉が舞い枝が飛ぶ。シュウは思わず尻餅をついた。夏目は構えを解くとこう言った。
「遠距離攻撃は照準を合わせる必要がある。照準とは意志だ。意思がありマナが届く。近距離に精通している者ほど照準を定めることが苦手だ。相手のマナを視ろ、自分のマナを相手のマナに干渉させるんだ。そのテクニックをリンクという。マナを<展開>し<リンク>させて撃つ……分かるか?」
「手を伸ばして……掴む? 照準は……マナに合わせる?」
「そうだ。飛ばすんじゃない、伸ばすんだ。エレキ系の展開は発電と同義。やってみろ」
シュウはブツブツ言いながら立ち上がった。身体を揺すりシャドーを始める。発電して電気を帯びていく。
(照準か……その概念は今までなかった。どこを見ればいいのか漠然としていて分からなかった。そうか、マナを視るんだ! 木のマナに照準を合わせて……自分のマナを伸ばせ!)
シュウは拳を前に突き出した。
「届けぇ!」
空気が震撼し拳から電流が溢れ出る。それはバチィと音を立て大木の樹皮を焦がした。遠巻きに見ていたホームレス達から歓声が上がる。
「で、できた……火花! はは!」
シュウは自分の手を見詰めて呟いた。
「今の感覚を忘れるな。飛距離を伸ばしたければ相応のマナを練る。後は意志だな。想いの強さが技の精度に影響する。何が言いたいか分かるか? 少年」
「あ……」
「きみは滝本さんに感情移入しないように一歩引いている。それは確実に技の強さに影響するんだ。それでいざという時に彼女を守れるか?」
「でも、俺は……」
「きみがトラウマを抱えているのは気付いている。過去に依頼主……おそらく大切な人に何かがあった。しかし、それは滝本さんと関係ない。彼女は今ここに生きているんだ、きみを頼って」
夏目の言葉が心に響く。彼も大切な何かを失ったことがあるのだろうか。シュウは何となくそう思った。
「しっかりと彼女と向き合うんだ。何かあってからでは後悔するよ」
「分かったよ、ナツさん」
夏目が細目をますます細めて頷いた。シュウは思った。父親がいたらこんな感じかな……と。
【参照】
マナのタイプ→第九十一話 刺客
気功系の異人→第九十五話 硬拳のシンユー
マナのリンク→第百三十九話 明鏡止水
遠当て→第二百二十八話 オオカミを狩る乙女たち




