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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第二章 異人の歌姫 ――雷氷の邂逅編――
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第二十五話 エプロン姿のシャーロット

 シュウは自室から出ると一階の店舗へ降りていった。眠い。髪はボサボサ、欠伸をしながら給湯室へ入った。するとキッチンの前に女優のような美人がいた。人懐っこい表情でシュウを見る。シュウは思わず目を見開いた。


「は? え、誰? ヘルパー? デリヘル? 呼んでねーけど……!」


 リンに見られたら殺されそうだ。シュウは混乱しながら後ずさった。


「おはようございます、シュウさん。寝ぼけていらっしゃるんですか」


 笑顔で挨拶するのはシャーロットだった。フワフワしたワンピースの上からエプロンを着けて料理をしている。休眠状態だったシュウの頭が一気に覚醒した。


「あ、そうか。昨日から来ていたんだっけ」


「ふふ。寝起きのシュウさん可愛いです!」


 シャーロットはパスタを茹でながら笑顔を覗かせる。シュウは照れながら鼻の頭を掻いた。


(そっか、俺がシャーロットさんを呼んだんだった)


――シュウは一週間前の出来事を思い出す。氷川駅前でチャーハンを食べた後のことだ。


「シャーロットさん。俺の家に来ませんか?」


「え?」


 突然のシュウの発言にシャーロットは鮮やかなグリーンの瞳を大きく見開いた。いつもの笑顔ではなく真顔である。


「い、いや! うちのプランに身辺警備があるんだ。そんでクライアント用の客室があるんですよ。そこに寝泊まりしてもらうと一日中守れると思って!」


 シュウは動揺しているからか、早口でまくし立てる。シャーロットはその様子を見てにっこりと笑顔を見せた。


「まずは一週間とか半月とか。俺の見立てだとこの案件は長引かないと思っています。ああ、でも急な話ですから! 一度帰って考えてください」


 シャーロットはそっとシュウの手を握り、目を見ながら言った。


「シュウさん。ふつつか者ですが、よろしくお願い申し上げます。私を守ってください」


 シュウとシャーロットは頬を染めながら見詰め合っていた。数日後に会う約束をしてその場は別れたのだが……。


「問題はリンだな」


 リンがシャーロットを受け入れるか分からない。シュウはどうやってリンを説得するか悩んだ。トボトボと商店街を歩いているとケーキ屋が目に入った。


「あ! ケーキ食わせて機嫌を取るか! あいつが好きなのはマンゴーのチーズケーキだったな。へっへっへ、妹思いの兄だぜ! 俺ってやつぁ」


 シュウはルンルンしながら店へ入った。ケーキは高額だったが経費だと割り切った。足取り軽く家に着くと何故かチェンもその場にいた。リンは「お帰りなさい」と言うと、じっとシュウを見詰めてくる。何かを言いたげな顔をしていた。


(な……なんだ? リンは何を言いたいんだ? いや、言ってほしいんだ? えーと)


 シュウはあることに気が付いた。リンがいつもの甚平を着ていない。何やら「ワンピースの短いバージョンの服」を着ている。


(……そう言えばシャーロットさんがリンとチェンと飯を食べたって言っていたな。これは……)


「兄さん。コーヒーでも飲みますか?」


 リンは無表情のまま話しかけてくる。シュウはチェンの方へ視線を移した。するとチェンがアイコンタクトを送ってくる。わざとらしくリンの服を眺める仕草を見せる。シュウは確信した。


「おお、リン! 可愛いじゃないか、その服。彼女にしたいくらいだぜ!」


 シュウの発言にリンは笑顔になった。(よし!)シュウは胸の中でガッツポーズを取った。


「ありがとうございます。シャーロットさんに選んでいただきました。彼女は良い人です」


「まあ、お前の方が可愛いけどな!」


「そ、そんな……私の方が好きだなんて」


 世辞が妙なニュアンスで伝わってしまった。リンは真っ赤になって妄想を始める。


「ケーキ買ってきたから食おうぜ。チェンも食ってけよ」


「わ、私はコーヒー入れてきます」


 シュウは給湯室に入ろうとするリンの背中に声を掛けた。


「ああ、そうだ! リン。シャーロットさんの案件受けようと思うんだ。それで上の部屋を貸そうと思うんだけど。一人では危ないから一日警護しようかと思う。良いよな?」


 リンはくるりと振り向くと「わ、分かりました。大家さんと相談しましょう」と言い、給湯室へ姿を消したのだった。


――こうして無事にリンを説得してシャーロットは金蚊の敷居を跨いだのである。シュウは朝食を作るシャーロットの背中を眺めていた。


「料理できるんだね」


「はい、料理は女のたしなみですから」


 シャーロットの言葉にシュウは赤面した。今までこのような女性は周りにいなかった。シュウはこれまで異性を意識したことがなかったが、彼女の何気ない仕草や佇まいに胸が高鳴る自分を感じていた――。

【参照】

一週間前→第二十一話 美少女と駅前でチャーハンを食う

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