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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十四章 赤目の支配者 ――ターニングポイント――
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第二百四十九話 闇の部分も含めてあなたが好き

「別に戻らないなんて言っていませんよ。頭領の指示で有休を使っているだけです」


 ソジュンは視線を逸らしながら呟いた。


「シンユーくんは前線から離れても雑務をこなしているわ。彼は早くレギュラーに戻りたいのよ。あなたからはそういう意欲を感じないの。一体どうしたの? 長期間離脱して腑抜けちゃった?」


 もはや先輩の威厳はなく姉のそれだ。


「あなたは優しい性格をしているけれど、誰よりも才能があるわ。自分のマナをダークマナに変化させるなんて凡人には不可能なのよ?」


「ダークマナに耐性がある陰キャなだけですよ。一度DMD(ダークマナドラッグ)やって自殺未遂していますしね」


鷹眼(ようがん)だってそう、あれは滅多に発現しない眼術よ?」


「たまたまでしょう」


「あなたは鷹の目で遠くの敵を捉えてダークマナの矢で討ち滅ぼす、一キロスナイパー。もっと自信を持ちなさいよ」


「買いかぶりすぎですよ。言いたいことはそれだけですか?」


 ソジュンは顔を上げない。ルーの顔を見ない。完全に殻に閉じこもっている。ルーは立ち上がるとソジュンの横に正座した。


「ルーさん? ……って、うわ!」


 顔を掴まれ強引に膝枕をされた。


「私の顔を見なさいよ」


 自分を見下ろすルーの顔を間近で見る。


龍尾(ドラゴンテイル)はこのままだと龍王(ドラゴンキング)に負けるわ。龍王フェイロン……あの怪物に勝つイメージが湧かないの。リーシャはあれには勝てない。あの子は優しすぎる」


「五天龍がいるでしょう。災厄レベルの大幹部が」


「強すぎて彼等を束ねるリーダーがいない。統率力がない。龍王参謀の遠藤という男は侮れない。こっちが嫌がることを涼しい顔で仕掛けてくる……リーシャはまだ長としては幼い。異能の強さだけでは部下はついてこない。あの子が表に立たない理由はそれよ」


 ルーはソジュンの前髪を優しく撫でる。


「抗争には資金が必要なの。DMD(ダークマナドラッグ)、あれは重要な資金源。知ってる? 最近ドラッグの売上が昨対(さくたい)を割っている。あなたがいないからよ」


「それは……」


「あなたはさっき、『ダークマナに耐性があるだけ』と言ったわ。でもね、龍尾(うち)でダークマナに耐性があるのはハオラン殿とあなただけよ。あなたはその素質を見込まれてハオラン殿に連れてこられた……当時まだ十五歳だったあなたを龍尾に引き入れたの」


 ソジュンはルーから目を逸らせない。過去のトラウマが疼く。


「ソジュンくん、あなたは在日朝鮮人の家系ね。小さい頃から苦労してきた。差別されたでしょう、苛められたわよね、日本という国に絶望したこともあったはずよ。あなたの胸の奥にはあるのでしょう、濃く深い闇が。でも……あなたはダークマナの耐性を得た。それは才能なの。私は好きよ、闇の部分も含めてあなたのことが」


 ポタと顔に落ちるものがあった。涙だ。ルーが泣いている。何故泣いているのか分からなかった。無自覚に積もった劣等感。ソジュンにはそれがある。見ないようにしてきただけだ。


「DMDを扱うにはダークマナの耐性が必要。分かる? あなたにしかできないのよ。お願い、あなたの才能(ちから)を貸してちょうだい。龍王に勝つために……」


 五天龍のハオランを現場に出すわけにはいかない。自分にしかできないことは分かっている。ソジュンは身体を起こした。頭はごちゃごちゃしたままだ。しかし、ルーの思いは受け取った。


「耐性があるって言ってもね、限界がありますよ。ダーカーじゃあるまいし」


「わ、分かっているわよ」


「正直、戦場は怖いんですよ、ファイブソウルズの土使い(ソナム)が強烈すぎて。でも龍尾には勝ってほしいと思っています。だから資金調達のためにドラッグ担当に戻りましょう。戦闘(はげしいの)はまだ勘弁してください。先週退院したばかりなんですよ」


「ソジュンくん!」


 ルーが抱き付いてきた。彼女は華奢だが武闘派(ノウキン)なので怪力だ。


「ごほっごほっ……スパイダーとのパイプは生きています。久々にオスカルさんと連絡取りますよ。卸先だった難民倉庫のマキシムラインにも顔を出してみましょう。ダークマナ教にも会う必要がありますね」


 ソジュンの顔に生気が戻った。もともと頭脳明晰な男だ。頭の中で資金繰りを考えている。ルーはそんなソジュンの顔を見て笑顔を覗かせた。


 しかし同時に不安を抱える。罪悪感を覚える。ダークマナに耐性のある者は闇に落ちやすい。自分は背中を押してしまった。今のソジュンは危うい。だからハオランの警護を抜けて会いに来た。独りにしてはいけない――そう思って。

【参照】

難民倉庫のマキシムライン→第十三話 密航ブローカーの子供

オスカル→第二十三話 スパイダーのオスカル

DМDで自殺未遂→第三十六話 DMDの売人

火龍のリーシャ→第五十八話 龍の器

龍王参謀の遠藤①→第六十七話 特殊詐欺で稼ごう

龍王参謀の遠藤②→第七十八話 カラーズ

龍王フェイロン→第七十九話 龍王

鷹眼とダークマナの矢→第九十六話 鷹眼のソジュン

龍王参謀の遠藤③→第九十九話 テロリスト

龍王参謀の遠藤④→第百五十六話 見付かったのは腕だけなんだよね

ダーカー→ 第百六十四話 オオカミと歌う女

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