第二百四十七話 五天龍と不吉な女に気を付けろ
シンユーは昼食を終えてマンゴーパフェを食べるリンを見ていた。
「分かっていると思うけど、俺は龍尾のメンバーだ。裏社会の人間なんだ。お前はこっちに来るんじゃないぞ」
リンは兄と違い頭が良いが念のために釘を刺した。リンはスプーンを止めた。店内には滑らかなクラシックが流れている。
「兄さんはシンユーさんのこと親友だと思っていますよ」
「それはない、あいつは正義、俺は悪だ。今日のことだって知られたら……」
「もう知っていますよ、さっきチャットしたので」
シンユーはずっこけそうになるのを堪えた。
(こいつら……危機感がなさ過ぎるぜ! 俺は反社だぞ)
シンユーは顔を引きつらせた。
「あいつは今何してんだよ」
「異人支援協会ジャイの滝本さんを警護しています」
「シスター気取りの姉ちゃんか。異人の保護とか笠原ワクチンの問題について訴えている女。ご苦労なこった」
滝本ココナは異人業界では知られた存在だ。当然シンユーも目にしている。
「異人狩りから脅迫状をもらったそうです。警護の期間は一週間だったのですが、先方の要望で延長しています」
シンユーの眉が動いた。
「異人狩りか。龍尾のメンバーもやられているよ。あいつら見境なしだ、龍尾だろうが龍王だろうが関係ない。他の異人組織もやられているって噂だ」
リンはパクッとマンゴーを食べる。(な、なんでこんなに可愛い妹の兄がアレなんだ!)シンユーは本気で分からなかった。
「シンユーさん、兄に伝言があるのではないですか」
リンは他人のマナを読む。勘がいい。言いたいことがいくつかあった。シンユーは口を開いた。
「龍尾は便利屋金蚊と揉めるつもりはない。雷火の姉御ともな。だから俺とシュウがやり合うこともないだろう」
シンユーの言葉を聞いてリンが頬笑んだ。
「なんせ頭領がシュウを気にかけているからな」
リンがスンッと無表情に戻った。
「女性ですか? その人」
「い、いや。どうして?」
龍尾の頭領は火龍のリーシャだ。年齢は不詳だが外見は女子学生に見える程に若い。好物はあんみつやケーキ。その事実を知る者は少なかったが、最近少しずつ増えてきている。
「兄を気にかけているのが女性なのか、男性なのか。それで私の心構えが変わってくるのです。でもいいです、もう分かりました。女なんですね……泥棒猫……女狐!」
最後の方は聞き取れなかったが毒を吐いたように見えた。シンユーは慌てて話題を変えた。
「龍尾が龍王と争っているのは知っているよな。それで幹部会があるんだ。五天龍が川成へやって来る」
「五天龍?」
「化け物のように強い幹部が五人。その中の何人かは龍尾設立メンバーだ。これが曲者揃いでな、一枚岩ではないんだ。頭領の意志とは関係なしに動く」
リンは顔を青くして頷いた。
「個々の性格を伝えておく。まずは青龍、属性は風。こいつは女だが体育会系のファザコン。次に黒龍、属性は水。この人は残忍で暴力的、子供でも殺す。黄龍は土。若い優男だがサイコだ、外見に騙されるな。赤龍は酔っ払いの親父だが世界レベルの炎使い。そして白龍は女だが……噂だと異能がエレキ系なんだ」
「エレキ系? ……まさか」
エレキ系は血統であることが多い。知る者は少ないが蛇の民がその血筋にあたる。蛇の民の中でエレキ系の異能が発現した者は、髪と瞳の色が金色に変化し、金蛇と呼ばれる。東銀ではシュウとランがそうだ。
「その白龍って女の人……髪の色は?」
「髪? どうだったかな……白龍は謎が多いんだ。まあとにかく、五天龍は全員ぶっ飛んでる。絶対に近付くな」
シンユーは厳しい顔で忠告した。シュウの性格なら相手が格上だろうが喧嘩を売りかねない。シンユーは善意で伝えに来たのだ。「あと……」頭を掻きながら口を開いた。
「これは言おうか迷ったんだけど……市街戦の時、不吉な女に会ったんだ」
「不吉な女?」
「明るい金髪で肌が白くてな。右目がブルー、左目がグリーンだ。可愛いけど歪んだ笑みを浮かべている。そいつ、何故かシュウを知っていたんだ……警告しておく、絶対に関わるなよ」
その後は適当に世間話をして別れた。結局、店は臨時休業にした。シンユーはぶっきらぼうだが終始リンを気遣っていた。
五天龍に不吉な女……リンは胸騒ぎを抑えられなかった。(兄さん……早く帰ってこないかな)リンは自室に戻ると溜息をついた。
【参照】
雷火のラン→第十八話 シュウの師匠
黒龍のハオラン→第五十二話 ファイブソウルズ
シュウを気にかけるリーシャ→第五十八話 龍の器
金蛇→第八十五話 蛇の民と瑪那人
シンユーとシュウは親友?→第九十八話 世界の平和
シンユーと不吉な女→第九十九話 テロリスト
青龍のメイファ→第百三十一話 東龍倉庫
笠原ワクチン→第百四十三話 異人病
ココナからの依頼→第百五十四話 本物の脅迫状




