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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十四章 赤目の支配者 ――ターニングポイント――
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第二百四十二話 教会の結界術士

 その部屋は築四十年以上経っていそうな2LDKだった。とにかくボロい。壁がタバコのヤニで黄色に染まっている。目の前の可憐な少女が喫煙者には見えないので、前の入居者の仕業だろうか。不破とクララは部屋に上がると思わず凝視した。


(何もないですね)


 入居したてなのか家具らしいものは置かれていなかった。黄色い壁とタバコで焦げた畳。埃でベトベトしたエアコン。部屋の隅にはレディースのボストンバッグが置かれている。メイク用品や最低限の着替えなどが入っているのだろうか。


 通常、部屋には入居者の性格が表れる。しかし、この部屋からは何も感じない。部屋の真ん中で佇む少女は不自然に浮き出て見えた。


(高原の令嬢がどうしてこんな部屋に……まさか家出少女?)


 不破の頭に違和感がよぎる。しかし口には出さない。結界術士は守秘義務と信頼で成り立つ職業だ。依頼主は訳ありが多い。公的な案件から反社組織の案件まで幅広く請け負う。


 結界術士は顧客の事情に深く立ち入らない。結界を張り報酬を受け取って去るのみだ。「うほん」不破は軽く咳き込むとクララを見た。


「はい、それではプランと料金の説明をさせていただきます。東銀異人教会はマナ結界の案件を請け負っております。まずは一ヶ月のお試しコースが一部屋二十万円で保証が付きます。期間中に千里眼や透視、サイコキネシスの被害に遭われたら、サイコメトリーで調査をした後、返金いたします」


 クララはタブレットを氷雨に見せて説明している。見事な日本語だった。


「その後は三ヶ月コース、半年コース、一年コースがあります。本契約後の保証はオプションとなりますが、電話やメールの無料相談や定期メンテナンスの割引が受けられます。以上です」クララはぺこりとお辞儀をした。


 氷雨はボーッとタブレットの画面を見詰めると、半年・保証無しのコースを指差した。「百十万円ですね」不破は金額を伝えた。氷雨は隅に置いてあったボストンバッグを開けると札束を取り出し、不破に渡す。


(現金ですか)


 不破は氷雨の顔を見た。現金は珍しくないが、少女が持ち歩くには大金だ。


「それでは始めます。助手と一緒に外で待っていてください」


 不破は十字架を片手に詠唱を始める。マナ結界を張ると異人の透視やサイコキネシスの干渉を防ぐことができる。建物の耐久性も上がるため、研究所や軍施設などに用いられるが、最近では個人の案件が増えてきている。異人犯罪の対策として有効だと特殊能力者協会でも宣伝していた。


「終わりました。お入りください」


 所要時間は三十分ほど。氷雨とクララが部屋に戻った。不破は注意点を説明し、何か不備があったら一ヶ月間は無料で対応すると付け加えた。


 そして改めて部屋を見渡す。何もない。何の生活感もない。マナ結界が張られた箱だ。思春期の少女が暮らす場所ではないと思った。不破達は礼をすると部屋を後にした。


 車に戻ると、不破は言う。


「どう思いました?」


「そうですね、雨夜ちゃんとは全然違います。可愛いんですけどねえ」


「幽霊みたいでしたけどねえ……って、そうじゃありませんよ! 何のための結界ですか? 高原家の令嬢がこんな治安の悪い場所で何をするんだっていう意味です」


「治安が悪いから結界が必要なんじゃないですか」


 クララの返事は二つ目の質問の答えにはなっていない。こんな所で何をするのか。不破はエンジンをかけてバックをしながら考えていた。(まあ、いいか。金さえ貰えりゃ)考えるのをやめた。時間の無駄だった。


「不破さん、次は金蛇警備のランさんから依頼です。異能訓練場の結界が壊れたとか」


「はぁ? あそこは術者五人がかりで一ヶ月かけて張ったじゃないですか。どうして壊れるんですか、意味不明です」


「ランさんの電拳で壊れたみたいです。どうやら愛弟子のためとか……」


「そりゃ雷火(フルゴラ)の電拳なら壊れるでしょうよ。ったく、あのお方は何を考えているのか分かりませんね。十大異人って人はどこか欠落しています! 自由すぎる、何て羨ましい!」


 分かれ道まで車をバックさせると道に出た。空はカンカン照りで森からはセミの声が聞こえてくる。不破は窓を閉めるとエアコンの電源を入れた。

【参照】

電拳で壊れたマナ結界→第百二十四話 未完成の電拳

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