表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十三章 ダークマナの歌姫 ――ダーカー討伐編――
229/320

第二百二十九話 迫りくる恐怖

「伸びろ、氷根(フロストピラー)


 南はバンッと地面を叩いた。すると南の足場が凍り付き、十メートルほど上昇した。南はその上に佇み、上空の風をその身に浴びる。ダーカーを見下ろし、手を空に掲げると乾いた音を立て巨大な氷の槍が八本生成された。それは月の光を反射し妖しく輝く。ダーカーのマナに<リンク>させて照準を合わせた。


「射貫け、氷槍(アイシクル)


 高速で落下した氷の槍はダーカーの頭部を叩き潰し、背中を貫く。ザクザクッと小気味よい音を立て、四頭のダーカーは一瞬で絶命した。赤い血ではなく黒い液体が飛び散った。


 ココナは声が出なかった。突然、氷の足場が伸びたと思ったら、次の瞬間オオカミが氷に貫かれて死んでいた。ココナはシュウの言葉を思い出していた。


――あいつ、腕だけは一流のギフターです――


(あの子すごい……でもなんか……なんていうか……なんだろう)


 ココナは自分が思ったことを上手く言葉にできないでいた。


 南は氷の足場から軽快に飛び降りると冷たい目でダーカーの死体を一瞥した。アリスは南の技の切れに驚いていた。噂には聞いていたが目の当たりにしたのは初めてだった。先日のテロ事件の時はリモートでの<広域凍結能力(ニブルヘイム)>を間接的に見たに過ぎない。


「南くん!」


 アリスが南に駆け寄る。フィオナとブリュンヒルトも集まってきた。


「結局、ニーズヘッグが一番成果を出したか。それにしても馬鹿でかい能力だな。きみ、明日は反動で熱を出すぞ」


 ブリュンヒルトが笑った。ある程度、南を認めたのだ。辺りには八頭のオオカミの死体が転がり、ダークマナを放出している。ダークマナは<浄化(ピュアリファイ)>の能力で洗浄できるが、これを使える異人は滅多にいない。


 南は死体を見ている。フィオナは南の肩に手を置いた。


「どうしたの……疲れちゃった?」


「……小さい」


「でも二メートル近くあるわよ、このダーカー」


「トラとかライオンよりは小さい……これは子供だ」


 アリスとブリュンヒルトは顔を見合わせる。


「どこかに……親がいる」


 普段の気怠そうな顔ではない。今の南は覚醒していた。ブリュンヒルトは腕を組んでオオカミの死体を見ている。


「誤差の範囲だとは思うが、念のために目撃者の西田さんに確認してもらうか。羽生にも意見を聞こう」


 ブリュンヒルトは振り返ると、羽生たちの方へ手を振った。


「羽生、西田さん! ちょっと死体を確認してほしい」


 西田は顔を赤らめて敬礼する。


「は、はい! なんなりと」


 羽生は少し迷った。


(この場を離れていいものか)


 逡巡した後、背後の異人職員に指示を出す。


「ちょっと離れますが、あなた達はマナ壁を解かないでください。滝本さんを囲うように、四方からの襲撃に備えて。念のためです」


 羽生と西田が持ち場を離れた。小走りでアリス達の方へ駆けてくる。広場中央のカマドを通り過ぎた辺りで、河の方からひんやりとした風が吹き込んできた。焚き火の炎が微かに揺れる。


――南は揺れる炎を視界の隅で捉えた。それは第六感だった。戦闘が終わってもマナの展開を解かなかった南が抱いた微かな違和感――。


「そこを離れちゃ駄目だ!」


 南が叫んだ。羽生はココナたちの方を振り向いた。警戒心の強い羽生は西田より後方に留まっていた。


「しまった!」


 それは音もなく突進してきた。河川敷の方角、うっそうと茂る草の合間を縫って。完全に背後を突かれた。四メートルはある巨大なオオカミが大きく跳躍しマナ壁を跳び越えた。


「うわぁ!」


 四方に展開していたマナ壁の中に着地したダーカーは異人職員を吹き飛ばした。マナ壁が内側から砕かれる。職員は爪で裂かれ、後ろ足で蹴り飛ばされる。鮮血が飛び散った。


「皆さん、逃げてください!」


 アリスが叫ぶ。しかし遅かった、職員の一人がダーカーに噛み殺されようとしている。羽生がマナを操ろうと手をかざしたその時――小石がダーカーの頭を打った。


「こ、こっちだよ。オオカミさん……多分私の方が美味しいよ」


 ココナだった。少し離れた位置からの投石。蒼白な顔で震えながら、懸命にダーカーを睨む。その身体からは光るマナが漏れ出ていた。

【参照】

リモートのニブルヘイム→第百十話 アダマスの鎌

マナにリンクさせる→第百三十九話 明鏡止水

ダーカーを目撃した西田たち→第百六十四話 オオカミと歌う女

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ