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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十三章 ダークマナの歌姫 ――ダーカー討伐編――
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第二百二十八話 オオカミを狩る乙女たち

 八頭のダーカーが暗闇を駆け回る。牛ほどの大きさのオオカミだ。カマドの炎など恐れない。立体的な動きで攻めてくる。明確な殺意を持って牙を鳴らす。アリスが神速の光剣で一頭のダーカーの首を斬り落として叫んだ。


「マナを展開し、身を守りながら戦ってください! ダークマナにやられますよ!」


 ダーカーは通常の獣よりも凶暴で身体能力が高いが、厄介なのはダークマナの二次汚染だ。生身で戦うとあっという間に中毒になってしまう。マナによる防御が必須だ。また攻撃にマナを込めないとダメージを与えられない。とにかくマナの消費が激しい。


「お前等、滝本を任せた!」


 西田が円陣を飛び出し羽生の前に出る。マナを練り拳を前に突き出した。


「遠当ての術!」


 マナが突風となり遠方にいるダーカーを吹き飛ばした。それは群れの陣形を崩す。西田は気功系(スピリット)のストレンジャーだ。羽生は西田の実力を認めた。


「西田さん、私たちはここで最後を守ります」


「了解! 近付いてきたら(マナ)をぶち込んでやるぜ!」


 フィオナはレイピアにマナを込めてダーカーの脳天を突いていく。その動きは繊細にて大胆、獣の速度に順応し確実に仕留める。残りのダーカーは六頭になった。しかしブリュンヒルトは攻めあぐねていた。


「ちぃっ! ここは燃えるものが多すぎるぞ!」


 深い森、うっそうと茂った雑草、乱雑に建てられた小屋、散乱したゴミ。パイロ系のブリュンヒルトは火事を警戒し、大規模な<火盾>を出せないでいる。炎のファルシオンでの防御で手一杯だ。


 フィオナは横目でブリュンヒルトを見る。


「ブリュンヒルト、足手まといね。アリスが二頭、私が一頭狩ったわよ。あなたはまだ成果を出していないわ。ここは私たちに任せて後衛に回りなさいよ、脱落者さん」


 ブリュンヒルトは舌打ちすると、剣先で炎の弧を描いた。その円は真っ赤な火の玉となり射出され、一頭のダーカーに激突し燃え上がった。


「上がれ!」


 ファルシオンを天空に向けると、火玉は上昇し空で弾け火花が散った。ダーカーは跡形もない。燃え移りを避ける意図のマナ・コントロール。ブリュンヒルトはフィオナを睨んだ。フィオナは涼しい顔で怒気を受け流す。これで残りは四頭となる。


(すごい……)


 ココナは守られながら騎士団の戦いを見ていた。激しい閃光、紅蓮の炎、神速の剣術。闇夜で光っているから視認できるが、目で追うのがやっとだ。前衛を越えてきたダーカーは羽生と西田が迎撃している。更に異人職員がマナ壁を張っていてココナは安全地帯にいた。


(南くんは?)


 何故か南が気になった。ギフターの制服を着た幼い少年。眠そうな顔をしていたが、雪嵐を呼んだ時は目を見張った。あれは本当に人間なのか。あの時の冷気は忘れようがない。


 南はゆっくりと歩いていた。周囲を観察するように音もなく歩を進める。黒い制服をなびかせて、副団長のアリスに近付いていく。


「アリス」


「え? は、はい! どうしました?」


 南がアリスの名を初めて呼んだ。不意を突かれたアリスは声が裏返る。


「あれ、殺す? 捕まえる?」


 ダーカーを指差す。アリスをリーダーと認めたようだ。指示を仰ぐ。一瞬呆けたアリスだが、すぐに答えた。


駆除(ころ)してください、ココナさんを守るために。南くん、できますか?」


 南は無言で頷くと微かに微笑んだ。

【参照】

マナの展開→第百三十八話 青龍の宣戦布告

遠当ての術→第百四十九話 ホームレス村の戦い

アリス・ブリュンヒルト・フィオナの特性→第百九十六話 フィオナの手料理

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