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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十三章 ダークマナの歌姫 ――ダーカー討伐編――
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第二百二十五話 羽生麟太郎

 ワンボックスカーの運転席に中年の男が座っていた。年齢は四十代半ば、天然パーマだが、若干禿げ上がってきている。ギフターの黒い制服を着ているが、腹の辺りが苦しそうだ。無害そうなおじさん、動物に例えるならコアラだ。


 男の名を羽生麟太郎(はぶりんたろう)という。協会に所属するギフターで等級はBBB(トリプルビー)だ。任務ではA級の稲葉やブリュンヒルトと組むことが多い。


 羽生はギフターの中では年配の方だ。ギフターの平均年齢が低い理由、それはギフターになり得る者は子供の頃から強い異能を発現している可能性が高く、若い内から頭角を現すからだ。


 では羽生が無能かというとそうではない。「ほどほどでいいよ、私は。ほどほどで」出世欲がないのだ。羽生には稲葉のようなギラついた野望がない。気楽な独身、そこそこ給料が高いBBB級、社宅には入らずアパート暮らし。休日は読書と競馬、スーパー銭湯と飲酒。そんな人生で十分だった。


「今日は夜勤か。でも私以外は未成年で車の運転できないし、なんか心配だし。まあいっか。明日と明後日はオフになるから今日が明けたらそのまま温泉でも行っちゃうかな」


 何気なくルームミラーを覗くと、後部座席に南が座っていた。ビー玉のような瞳が羽生の顔を見ている。「ひっ!」思わず声が出た。


「く、黒川くん! いつからそこに? あ、あのさ、気配消して入ってこないでくれるかな? おじさん、心臓止まっちゃうから!」


 南はじっと羽生の顔を見た後、視線をスライドさせ、サイドウインドウの方へ顔を向けた。


「あれ、アリスさん達は? ジャイの方々はどうしたの? 姿が見えないけど……」


 羽生は窓を開けて事務所の方を伺った。しかし人が出てくる気配はない。時間は八時半になっていた。


「なんか話してたよ」


「え? 話の途中で出てきちゃったの? 駄目だよー、それは。しょうがないなぁ、私と一緒に戻ろうか」


 優しい性格の羽生は大袈裟に溜息をつくと車のドアを開けた。するとアリス達が出てくる姿が見えた。どうやら出発するらしい。羽生は胸を撫で下ろすとステアリングを握った。


 夜回りは二台のワンボックスカーで行った。ココナが運転する車に職員が六名、羽生が運転する車にアリス達が乗っている。公園や河川敷、ホームレス村落。異人狩りが頻発する地域を巡る。


 しかし、ココナ以外は異人である。騎士団に加え、ギフター、実戦経験のある異人が複数人おり、戦力が厚い。マナを読む異人狩りならそれが分かる。おそらく襲撃はないものと考えられ、メンバー内で夜のオリエンテーリングのような楽しい雰囲気が流れていた。


 夜の公園を歩く。ブルーテントや段ボールハウスで寝ているホームレスに声を掛けていく。食事や毛布を配る。警戒する者もいるが、ココナの顔を見ると、皆が素直に受け取った。拝む者までいた。ココナはホームレスに慕われていた。


 南はその様子を後ろで見ていた。「どうしましたか?」隣でアリスが微笑んでいる。「別に」南は答えた。


「私も驚いています、ココナさんのカリスマ性に。南くん、彼女のマナが視えますか? 光を帯びています」


 南は目を細めてココナの背中を見ている。


「彼女は信仰系(フィデリス)の素質があるのでしょうね。あのマナを持つ者は人を惹き付けるのですよ。周囲にいる人を笑顔にするのです。きっと、何か強い信仰心があるのですね」


「……似てる」


「え?」


 南は一定の距離を取ってココナの後ろを歩いていた。彼女の笑顔、身振り手振り、周囲の反応を見ていた。


「カリス……シャーロット=シンクレアに……似てる」


 南の呟きは誰にも届かず夜の闇に消えていった。

【参照】

カリスについて→第十四話 シャーロットの憂鬱

稲葉について→第六十四話 フィオナと稲葉

アリスについて→第百五話 アルテミシア騎士団

ジャイの方々→第百六十四話 オオカミと歌う女

ブリュンヒルトについて→第百九十九話 女騎士の本音トーク

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