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金色のウロボロス 電拳のシュウ  作者: 荒野悠
第十三章 ダークマナの歌姫 ――ダーカー討伐編――
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第二百十九話 自死遺族

 母が自殺した。飛び降り自殺だった。私は誰のために就活を頑張ってきたのだろう。私は母をこの世に繋ぎ止める存在ではなかったのだろうか。ずっと苦労をかけていたのだろうか。重荷だったのだろうか。――私は愛されていなかったのだろうか。


「母が自殺するわけありません、もっと調べてください」自死遺族のありきたりな言葉。「遺書があったんだ、事件性はないんだよ」これもありきたりな返答。警察は取り合ってくれない。未成年の少女の言葉など一笑に付される。スマホで書いた遺書が何の証拠になるのか。私は警察不信になった。


 絶縁していた遠い親戚が訪ねてきた。「うちにも余裕はないんだけど、来るかい?」叔父の社交辞令。隣にいる叔母の表情は明らかに嫌がっている。親戚は異人が嫌いだ。異人の支援をする会社に就職が決まったココナを侮蔑するように見る。「来るならその……内定は辞退して別の仕事にしてくださいね」叔母の言葉。虚しい会話のやり取り。自宅のマンションの一室でくだらない会議ごっこ。親戚なのに地球の裏側くらいの距離感がある。


「こういうのもなんだけれど、あなたのお母さんの勤め先はアマテラス製薬の下請けでしたよね。今問題になっている笠原ワクチンを開発した企業の……」叔母が言った。笠原ワクチンは異人病の特効薬として期待されている薬だ。母はその研究をしていた。だから何だというのだろう。


「その……お母さんの自殺は異人病だったんじゃないの? あなたに感染していないかしらね。異人じゃなくても罹患するって噂を聞きましたし……ねえ?」


 異人病は脳のマナの異常だ。感染する類いの病ではないとされている。そんなことも分からないのだろうか。これ以上の話は無駄だ。


「ちょっとこっちへ」


 叔父が叔母を連れてリビングから出て行く。室内扉の向こうで会話をしていた。


(おい、露骨に言い過ぎだろう)(だって、あなた。あの子は父親もはっきりしないのよ! あの心春さんだもの、相手は異人かもしれないじゃない)


 声をひそめているが筒抜けだ。数分そのような会話をしてリビングへ戻ってきた。叔父は苦笑している。悪い人ではないのだろう。私は自棄になっていた。今からどのような奇跡が訪れても心の穴は埋まらない。


「おじさん、おばさん。私は来年から社会人ですし、一人暮らしするつもりです」


「そ、そうか……それもいいかもしれないね。君くらいの歳なら一人暮らしをしている子がたくさんいる。いや、もちろん援助はするよ。心春関連の手続きは私が代行するし、新しい部屋も一緒に探そう。遺産があるだろうから、君にもいくらかは残るはずさ」


 叔父がホッとしたようにまくし立てた。私は厄介者なのだろう。


「葬儀があるからね、私は当分こっちに残る。その間にできることはしよう。あ、そうだ……これはどうしようかな」


「はい?」


「飛び降りだからね、遺体の損傷が激しいらしいんだ……心春の身元確認は私たちが立ち会おうと思う。憔悴した君にはショックが大きいかもしれないからね、それでいいかな?」


 叔父なりの気遣いだった。正直、興味がなかった。母は私を残して死んだ。どのような理由があろうとその事実は変わらない。


「はい、分かりました」


 私はそう答えた。この時の決断が私を苦しめることになるとは知らずに。

【参照】

笠原ワクチン→第百四十三話 異人病

警察不信のココナ→第百四十五話 ココナの涙

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